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魔女の館の秘密 1
今の生活に不満はないが、
今の生活に満足もしていない。
これが私の人生なのか?
みんなこんな感じで生きているのか?
人の気持ちはわからない、
自分の気持ちはもっとわからない。
私は普通の主婦。
「普通」とは何か?
普通の基準はわからないが、
夫がいて、子供がいて、
食うに困らない生活をしているという意味。
子供が中学生になり、
手がかからなくなった今、
私は自分に戻ることになった。
子供が生まれて母親になり、
私は、子供優先で自分のことをいつも後回しにしていた。
子供が成長して、私と子供の間の距離が離れて、
寂しいような楽になったような複雑な気持ち。
そして私は自分の人生に戻ることになった。
久し振りの自分。
育児が大変で自由になりたいと思ったことは何度もあるが、
いざ自由になると、
地に足が付かないような、ふわふわした感覚だ。
何をしたらいいのか?
どこにエネルギーを向けたらいいのか?
好きなことは何なのか?
思い出せない。
娘は週末も部活で家にいない日が増えた、
週末は主人と二人きりなんていう日があり、
そして気が付いた、
私たちには会話が無い、
主人と二人でいると息がつまる。
主人のことは嫌いではない。
でも昔のような恋愛感情はなくなり家族になってしまった。
週末は憂鬱な日に変わった。
また梅雨の季節。
私は雨の中、車で近所に買い物に行った。
買い物の帰りワイパーを最強のしても前が見えずらいほどの大雨になった。
そんな雨の中、大きなお腹で大きな荷物を持って歩いている妊婦さんが目に入った、
こんな大雨なのに大丈夫かな?
いつもなら気にならないのに、
この時は助けてあげないといけないと言う気持ちになった。
私は車の窓を開けて、
「大丈夫ですか?」と声をかけた、
20代後半の女性で全身ずぶ濡れになっていた。
「えっ、あっ買い過ぎちゃって!」
荷物が食い込んで手が真っ赤になっている。
「ご近所ですか?」
「はい、坂の上にある輸入雑貨のお店が家なんです。」
「あっ!あのお店…」
その雑貨屋さんは、
魔女の家のような外観で、
近所の子供は「魔女の館」と呼んでいた。
「良かったら送って行きましょうか?」
「えっでも、申し訳ないので…」
「遠慮しないで、この雨で坂道大変でしょ?」
「すみません、じゃお願いします。」
私は彼女を乗せて「魔女の館」に向かった。
つづく
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