2023年2月20日 新宿ピカデリー「かがみの孤城」ティーチインメモ(登壇者:原恵一監督、イリヤ・クブシノブさん)
はじめに
2023年2月20日 新宿ピカデリー「かがみの孤城」原監督&イリヤ・クブシノブさんによるティーチインの内容を、筆者が手書きしたメモから起こしました。
ネタバレあり、また聞き間違いやニュアンス違いなど多々あるかと思いますがご容赦下さい。
<概要>
2023年2月20日 新宿ピカデリー かがみの孤城 ティーチイン付き上映
登壇:原恵一監督、イリヤ・クブシノブさん(ビジュアルコンセプト・孤城デザイン)
MC:新垣弘隆プロデューサー
トークパート
※まず、スクリーンにイラスト系アプリのキャンバスが表示される。
MC:イリヤさんが今日のティーチインのために描き下ろしされたイラストのドローイング動画を後ろのスクリーンに映しながら、トークを進めていきます。何の絵が出来上がるか楽しみにしていてください。
イリヤさん:1時間くらいで描いたものを30分弱くらいで流します。
※スクリーンに、ドローイングの動画がスタートする。
イリヤさんとの出会い、絵に対する印象について
MC:原監督とイリヤさんは、監督の前作「バースデー・ワンダーランド」からのコンビとなります。お二人の出会いや、イリヤさんの絵の印象について教えて下さい。
原監督:渋谷の百貨店の本屋で見かけたイラスト集が目に止まった。名前を覚えて、仕事の依頼のために渋谷の喫茶店で初めてお会いした。
イリヤさん:原さんにはその時着ていたスター・ウォーズのTシャツを褒めて頂いた。(笑)
原監督:イリヤさんの描く女性は清潔感がある。「バースデー」の時は主人公アカネのキャラを3種類(大人っぽい/中間/子供っぽい)描いてもらい、スタッフでアンケートを取った所、中間の大人っぽさも子供っぽさもあるデザインが人気で、これに決まった。
孤城デザインについて
MC:では次に「かがみの孤城」でイリヤさんが担当された孤城のデザインについて、お話を聞かせて下さい。
(筆者注:孤城デザイン参考記事:KAI-YOU.net「アニメ映画『かがみの孤城』イリヤ・クブシノブによる原画4枚を独占公開」https://kai-you.net/article/85545 )
イリヤさん:孤城については、「実生(リオンの姉)が頭の中で作った」ものだということを念頭に置いてデザインした。
短い人生の中で彼女が見てきた色んなお城がモチーフとなっており、彼女自身の想像から生み出された場所である。
外観はもの悲しい印象を与えたくてグレーの配色にして、中は子どもたちの秘密基地のようなデザインにした。
昼と夜でも雰囲気がガラリと変わる。城内の採光についても、夕方になったら暗く怖くなって帰りたくなるような感じにした。
原監督:孤城のデザインは、コロナ禍で外出制限の一番厳しい時期にやり取りしていた。データのやり取りであったけれど、イリヤさんの仕事が素晴らしく、修正を依頼したことはほぼなかったと思う。ロシア人らしい、いい意味で無駄なスペースの多い空間設計をしてくれた。
イリヤさん:原監督のリードが良かった。お城の写真を渡してくれたり、「食堂はこういう形にしてほしい」といったイメージを正確に伝えてくれる。いいクライアント。
原監督:イリヤは俺の「パダワン」だよ。(注:スター・ウォーズにおけるジェダイの弟子のような存在)ちなみに俺は「オビ=ワン」だから。(笑)
脱線(監督が好きな映画の話)
(ここからしばらく原監督がスター・ウォーズの話に脱線)
・ジェダイの語源は、時代劇の「時代」から来ている。
・ジョージ・ルーカスは黒澤明のファン。
・三船敏郎はオビ=ワン役を「しょうもないSF映画になんて出られるか」と断った。
・EP1の吹替でアナキンの声を演じたのは矢島晶子さん。
(MC:ここでかがみの孤城につながるとは!笑)
(さらに脱線して、スター・ウォーズ以外の映画の話)
原監督:辻村さんの回のティーチインでも言ったが、俺はミステリーは好きじゃないけど「シャレード」という映画はぜひ吹替で観てほしい。オードリー・ヘップバーンの声を、池田昌子さん(「銀河鉄道999」のメーテルや東海道新幹線の車内アナウンス、等で有名な方)が当てている。
ターミネーター2も、玄田哲章さん、高山みなみさんが出ているので吹替で観てほしい。(筆者注:高山みなみさんがターミネーターの吹替をしている情報は見つからず…田中真弓さんの勘違いかも?)
質問コーナー
MC:それでは、だいぶ時間が押していますが…質問コーナーに行きます。
(1人目の方)質問3つあります。
Q1:城のシンメトリーなデザインの意図は?
A1:原監督:孤城の玄関ホールなどのシンメトリーは私もイリヤも好きなデザイン。理由は、スタンリー・キューブリックが好きだから!今風に言うと、オマージュです。(笑)
Q2:炎のオオカミは城のどこから現れたのか?
A2:原監督:特に設定はない。城には細かく決めていない部分もある。例えば、個室は男女で4部屋づつ計8部屋、女子は3部屋しか映していないが、残り1部屋は誰の部屋なのか決めていない。オオカミさまの部屋かもね。
Q3:城のこころの部屋の本棚にある本は、シンデレラ、白雪姫など外国の童話であるが、チョイスの意図は。
A3:原監督:原作通りのチョイス。「狼と七匹の子ヤギ」や「大きなカブ」もあり、これはアキを助けるシーンにも繋がっている。
(2人目の方)質問3つあります。
Q1:作画の面でこだわった所は。
A1:原監督:日本のアニメは昔からリミテッド・アニメーションが主流で、「30分のアニメを動画3000枚で作れ」といった制限がある中で、どう動いているように見せるかが作り手の腕の見せどころ。かがみの孤城でも基本的には8コマ/秒で動かしているが、こころが大広間の時計に繋がる階段を登るシーンでは、井上俊之さんに秒間24コマ全部違う絵を描いてもらった。
Q2:実生(リオンの姉)は自分が亡くなると知っていながらどのような思いで孤城を作ったのか?
A2:原監督:リオンのために、リオンと自分が一緒に遊べる場所を作りたかったのだと思う。
実生の最後の言葉は、ありがとう、さようなら、と、もう一つ口には出していないが「また会いましょう」。
Q3:サインください。
A3:原監督:いいですよ。(その場でサインを書く。書いた言葉はDon't think, Feel.)
イリヤさんについて
※スクリーンのイラストが完成に近づいていく。その絵はフウカである。
MC:なぜ今回、フウカの絵にしましたか?
原監督:イリヤはメガネっ子が好きだから(笑)。
イリヤさん:自分とフウカは重なる部分が多い。フウカはピアノを母親にやらされていて、楽しくない。好きで始めたことでも、プロフェッショナルの仕事としてやらされると、心がしんどくてイヤになってくる。
自分も学生時代に宿題として皿やコップなどの無機物の絵をたくさん描かされた経験がある。この経験がフウカとのシンパシーになり、フウカの内面に共感した(からフウカを描いた)。
MC:イリヤさんはなぜロシアから日本に来たのですか?
イリヤさん:ロシアにはアニメや漫画の仕事はほとんどない。ロシアで触れる日本のアニメはとても心地良く、日本で絵の仕事をしたいと思った。
また日本の風景への憧れもあった。実際に日本に来てみて、アニメで見る日本の風景の綺麗さは嘘じゃなかったのだと感じた。あと、建築も学んでいたので、お寺などの建築物も実際に見て絵の勉強になった。
原監督:こういう真面目な人と仕事するとこちらも勉強になるね。(笑)
原監督:イリヤとは、アンドレイ・タルコフスキー(旧ソ連の映画監督)の話を良くしていた。イリヤはタルコフスキー作品を吹替無しでそのまま観られるので羨ましい。
タルコフスキーは「奇跡は本当にあるのか」というテーマをよく扱っていた。「ストーカー」という作品では、「ゾーン」の中に「入ると願いが叶う部屋」がある。(筆者注:かがみの孤城の願いの部屋にも通じる?)
ゾーンに入ると白黒がカラーになる。タルコフスキー作品に共通する水が流れる表現も出てくるので、ぜひ見てほしい。
最後に
MC:最後に一言ずつお願いします。
原監督:10億突破しました!クレヨンしんちゃん(嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦)以来、約20年振りです。もっといきたいね。フォースと共に在れ!
イリヤさん:原監督、また仕事誘ってください!
MC:今日はありがとうございました。
以上