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ヒップホップをコアに持つR&B野郎が見せる、 冷静と情熱の狭間(6LACK - "Nonchalant")

Writer: @vegashokuda

あっという間に今年ももうすぐ終わりですね。今回はアトランタ出身のシンガー=6LACK(ブラック)が9月にリリースしたアルバム『East Atlanta Love Letter』収録の「Nonchalant」のリリックを解読していきます。

6LACK - Nonchalant

6LACKの音楽は、ジャンルでいえばどちらかというとR&B寄りですが、"a R&B ni**a with a Hip-Hop core"(『East Atlanta Love Letter』収録楽曲「Scripture」より)を自称するように、歌詞の中でラップのような言葉遊びを多く用いる印象があります。

「Nonchalant」はサビ無しの1バースからなる曲です。タイトルの単語を英和辞典で引くと「平然とした、のほほんとした、無頓着な、無関心な、冷淡な」と出てきますが、「New Oxford American Dictionary」には"(of a person or manner) [...] not displaying anxiety, interest, or enthusiasm"とあり、ヒップホップ界隈ではおなじみの"don't give a f***"に近いニュアンスにも思えます。

6LACKは本曲において、どのような形で"nonchalant"さを表現しているのでしょうか?歌詞を見ていきましょう。

バース

Watch your mouth when you lettin' shit slide
Don't you know I got way too much pride?
Sneak dissin' way on the other side
I turn your fucking wave to a tide

【意訳】
何か言うときは口に気をつけな
俺にはプライドがありすぎるって知らないのか?
向こう岸でコソコソ言いやがって
お前のその波を潮に変えてやるよ

*6LACKのバースは、「向こう岸でコソコソ言」っている人々(ヘイター)に宛てた攻撃的なメッセージから始まります。

I'm so fucking tired, somehow I still find the time
To care a little more about my rhymes
To care a little more about my peers
To think a little less about my fears
To care a little more about your ears

【意訳】
俺はクソ疲れてるけど、どうにか時間を見つけて
ライムにもう少し気を遣う
仲間をもう少し気遣う
恐れについて考えないようにし
みんなの耳をもう少し気にかける

*ここから6LACKは、音楽や周囲の人々に対する自分の姿勢を表現し始めます。彼は「クソ疲れてる」なかでも、音楽のクオリティを高めることに余念がありません。また、仲間を気遣う姿勢も見せます。

I give a piece of me to everybody I meet
Not because they want it, it's because it's prolly a need
Claim they woke but they prolly asleep, in a cage
Thinking if they make a mill they be free like Meek, nah

【意訳】
俺は会う人全員に自分の一部を与える
それをみんなが欲しがるからじゃない、きっと必要なことなんだ
みんな目を覚ましてるって言うけど、たぶん檻の中で寝てる
100万ドル稼げばミークみたいに自由になれると思ってるけど、違う

*6LACKは自身の音楽を「自分の一部」だと言い、それを人々が単に欲しているのではなく、必要としているのだと強調します。

*3行目の「目を覚ましてる」「寝てる」は、実際に起きているか寝ているかではなく、現実に目を向けているかどうか、くらいのニュアンスで捉えればよいでしょう。「檻の中」も、物理的なものというよりは精神的なものだと考えられます。

*4行目の「ミーク」は、先日刑期を終えたミーク・ミル(Meek Mill)のことです。直前に「100万ドル」を表す"mill"が出てくることを踏まえて彼の名前を出しています。6LACKは、お金を稼ぎさえすれば「檻の中」から抜け出せると信じる人々に対し、そうではないのだと訴えかけます。なお、ミーク・ミルの楽曲にはミゲル(Miguel)をフィーチャーした「Stay Woke」というものがあり、これが3行目とも繋がっています。

I turned a nightmare right into a dream, yeah
I keep my sanity, 'cause I ain't on the scene, yeah
I know I gotta be a rock like Dwayne
So, I'm tryna be a rock like Dwayne, Carter Rebirth

【意訳】
俺は悪夢を夢に変えた
俺は現場にいないから正気を保つ
俺はドウェインみたいにロックにならなきゃいけない
だから俺はドウェインみたいにロックになろうとしてる、カーターの再誕だ

*1行目「悪夢(nightmare)を夢(dream)に変えた」は、先述のミーク・ミルのアルバム『Dreams and Nightmares』(2012年)を踏まえた表現です。

*3行目の「ドウェインみたいにロック」は、WWEのプロレスラーであり俳優の、ザ・ロック(The Rock)ことドウェイン・ジョンソン(Dwayne Johnson)への言及です。日本のプロレス・ファンにも「ロック様」の愛称で親しまれていますね。

*4行目にも「ドウェインみたいにロック」が出てきますが、今度はドウェイン・マイケル・カーター・ジュニアを本名に持つリル・ウェイン(Lil Wayne)への言及です。ここでは、彼の盤「石」な人気を踏まえ、自分も彼のようになろうとしているのだと言っています。

Put that line in reverse, add a little reverb, yeah
We work, so my niggas ain't gotta be on T-shirts
Watch me get my hands dirty with the rework

【意訳】
そのラインを逆にし、リバーブを加える
仲間がTシャツにプリントされなくていいように、俺らは頑張る
編集作業で俺が手を汚すのを見てな

*「仲間がTシャツにプリントされなくていいように」は、その「仲間」がストリート・ライフで命を落とし、追悼の意味を込めてTシャツを作らなくてもいいように、ということだと考えられます。

*"reverse"、"reverb"、"rework"はすべて楽曲制作に関連する単語です。ここでも6LACKのクラフトマンシップが感じられます。

Damn, do I even have the fans for this shit?
To be rapping like these people understanding this shit
It's demanding and shit, but I stand for these kids
Like they stan for the kid, understand how we clear

【意訳】
マジか、こんなシット(曲)のファンがいるのか?
この人たちがこのシットを理解してるかのようにラップして
求めすぎだよな、でもこの子供たちのために俺は立つ
彼らが俺に熱中するのと同じようにな 明確だろ

*6LACK自身、心血を注いだ自身の楽曲が大衆に受け入れられていることを、半ば信じられずにいるようです。それでも、彼らが6LACKに熱中(stan)するのと同様に、彼もまたファンを愛しています。

Crack a beer when I'm feelin' pissed, hmm, yeah
But I ain’t got nobody hand up my back, you ventriloquist

【意訳】
ムカつくとビールを開ける
でも俺の後ろに手を回す奴はいないんだ、腹話術師め

*ここから6LACKは攻撃モードに入ります。"piss"にはいろんな意味が掛けられていると考えられます。上記の訳のほか、"piss"はビールを開栓したときの音にも似ていますし、ビールには利尿作用があることも、「小便をする」という意味の"piss"がここで使われている理由の一つでしょう。

*2行目で、6LACKは業界にいる多くのアーティストが、腹話術師に操られる人形のようだとし、自分は違う(=腹話術師に手を後ろに回されていない)のだと主張しています。

Ever since my songs went platinum like Sisqo
Life done found a filter like VSCO, ay

【意訳】
俺の曲がシスコみたいにプラチナムになってから
人生はVSCOみたいにフィルターを見つけた

*シスコ(Sisqo)といえばやはり有名なのはこの曲でしょうか。

Sisqo - Thong Song

*実際、「Thong Song」が収録されているアルバム『Unleash The Dragon』(1999年)は5xプラチナムを達成しました。6LACKもまた、アルバム『FREE 6LACK』(2016年)収録の「Ex Calling」および「PRBLMS」でプラチナムを達成しています。

*「人生がフィルターを見つける」というのは、それだけ景色が違って見えるということだと考えられます。

But it's okay, 'cause
If you down and you need a lil' help, it's a way
If you hatin' and you feelin' insecure, Issa Rae

【意訳】
でもいいんだ、だって
お前が落ちて助けが必要なら、そういうことだ
お前が嫌って不安なら、イッサ・レイ

*3行目のイッサ・レイ(Issa Rae)はHBOのドラマ『インセキュア』シリーズの脚本家および主演女優であり、直前に"insecure"という単語が出てきたため登場しています。

I'm somewhere between humble and "hell nah"
These niggas drop their second album then fell off

【意訳】
俺は謙虚と「やなこった」の間のどこかにいる
こいつらは2枚目のアルバムを出して消える

*6LACKは、謙虚さと無頓着さを兼ね備えた自身の複雑性を表現するとともに、多くのアーティストがアルバムを2作リリースして消えていく現状に言及しています。

My nonchalant flow will never end right
It be at they necks if it's in sight
Squeezing until they crack a windpipe

【意訳】
俺の平静なフロウはただじゃ終わらない
見えるなら首に襲いかかる
気管が裂けるまで絞る

*6LACKの楽曲の多くは、この「Nonchalant」がそうであるようにチルなものですが、それだけに終始しないというのが彼の言い分です。ここでも彼の攻撃性が顔を覗かせます。

Loosen the grip, have a lil' remorse
You dial 9-1-1, I pull up in a Porsche

【意訳】
手を離せ、悔い改めろ
お前は911番して、俺はポルシェでつける

*"911"は日本でいえば110番と同じようなものですが、ポルシェ911シリーズをも想起させます。敵が911番通報する一方で、6LACKはポルシェで走り、格の違いを見せつけます。

Word is I'm carrying the torch and I ain't wanna share
So beware if you reach you get scorched

【意訳】
俺はトーチを運んでいて、譲る気は無いって話だぜ
だから気をつけな、手を伸ばせばお前は焼け焦げるぜ

*1行目の「トーチ」は、人から人へと継承されていくもので、「バトン」や「たすき」とも言い換え可能だと思いますが、2行目ではそれを物理的な意味で用い、「手を伸ばしたら燃やしてやる」と言っています。

Ever since I jumped off the porch
I knew that I would grow to be the boy
The boy then grew to be the man
Learned how to kill a hook, Peter Pan

【意訳】
ポーチから飛び降りてから
俺は一丁前の少年になると分かってた
その少年は青年になり
ピーターパンみたいにフックをどうキルするか学んだ

*1行目の「ポーチを飛び降り」るというのは、出発することの暗喩でしょう。

*4行目はダブル・アンタンドレです。ピーターパンがフック(Hook)船長をやっつける(kill)のと同様に、6LACKも曲のサビ(hook)を最高なものにする(kill)ということです。

I'm tryna make the end stand out
But I'm so fucking outstanding
I'm so fucking outlandish and a opp can't win
Man's not hot
I been on ten, landslide wins, yeah

【意訳】
俺は終わりを目立たせるようにしてるけど
俺はクソ素晴らしいんだ
俺はクソ変わってて、敵に勝ち目は無い
アツい奴なんていない
ずっと10点満点、簡単に勝つ

*曲も終わりに近づいてきました。6LACKは曲の最後を印象的なものにしようとしています。同時に、「収支を合わせる」という意味の"make ends meet"という表現もあるので、1行目は「大金を稼ぐ」という意志の表れとも考えられます。

*4行目の"man's not hot"はもちろん、この曲を踏まえた表現ですね。

Big Shaq - Man's Not Hot

ということで

6LACKの「Nonchalant」のリリックを解読してみました。

自身の音楽や仲間・ファンに対しては情熱を注ぐ一方で、ビートの静けさ・敵に対する冷淡さはまさに"nonchalant"という形容詞がふさわしい楽曲なのではないかと思いますが、いかがでしょうか?

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