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若手とベテランの中間世代にあたるJコールが見つけた、次なる目標とは。(J.Cole - "MIDDLE CHILD")

Writer:@raq_reezy

「MIDDLE CHILD」とは

今回Jコールがリリースした楽曲「MIDDLE CHILD」は、Jコール自身が、ヒップホップを作り上げてきたベテラン世代と、毎日ソーシャルメディアを賑わせている若手世代のちょうど中間の世代にあたる立場から、思いつくことを雑多に歌った内容になっています。

この「MIDDLE CHILD」世代というのは、2010年頃のミックステープで頭角を表した世代であり、Jコールにケンドリック・ラマー、ドレイク、ロジック、キッド・カディなど、ユニークなラッパーが多いのも特徴的です。

Jコールのおもしろさ

さて、そんなユニークな世代の面々の中において、Jコールの面白さのひとつは、キャラクターづくりのために装飾されることもなく、本当にJコールの考えていることが垂れ流される、日記的あるいはコラム的な歌詞にあります。近年、Jコールのこうした面のおもしろさは加速しているように感じます。

Jコールは、毎朝起きたら、まずは思いつく限りのことを無心でノートに書きなぐるのが日課だとインタビューで話していたことがあり、彼の曲は、そこに書きなぐった内容からインスピレーションを得て、出来上がっているようです。

そういう意味では、今回の「MIDDLE CHILD」も、いかにもJコールらしいなと思える曲に仕上がっています。内容的には、しばらくの間「賢者モード」に入っていたJコールが、今年は熱気を帯びているんだなというか、次の目標を見つけてアクセルを踏み始めた感じが伝わってきて、熱い一曲になっています。

(Jコールの「賢者モード」については、本マガジンのライターでもある@vegashokudaさんのこちらのブログがおもしろいので、ぜひお読みください。)

ということで、前置きが長くなりましたが、曲の解読に入っていきたいと思います。

イントロ

You good, T-Minus?

【意訳】
Tマイナス、準備はいいか?

*Tマイナスは、この曲をJコールと一緒にプロデュースしたプロデューサーです。前のアルバム『KOD』に収録されている「Kevin's Heart」なども、Jコールと共同プロデュースしています。

リフレイン

Niggas been countin' me out
I’m countin' my bullets, I'm loadin’ my clips
I'm writin' down names, I'm makin' a list
I'm checkin' it twice and I'm gettin’ ’em hit

【意訳】
みんな俺を仲間外れにしてきた
俺は銃弾の数を数えて、装填してるぜ
俺は名前を書き出して、リストをつくってるんだ
そのリストを二度チェックして、そいつらを撃ち殺してやる

*ヒップホップでは、ラップの中で口撃することを、銃による争いで比喩することが多く、ここでもそのような内容が歌われています。

The real ones been dyin', the fake ones is lit
The game is off balance, I’m back on my shit
The Bentley is dirty, my sneakers is dirty
But that's how I like it, you all on my dick

【意訳】
リアルなやつらが死んで、偽物のやつらが輝いてる
ヒップホップゲームはバランスを失ってる、俺は自分の仕事に戻る
ベントレーは汚れている、俺のスニーカーは汚れている
だけど、俺はその方が好きなのさ、お前ら全員を利用しやがって

*「自分の仕事」とは何か。それはこの後に歌詞の中で語られる内容を見てきましょう。

*ベントレーやスニーカーが汚れているというところからは、Jコールが表面上のイケてる感に必要以上に気を割いていないことが伝わってきます。

1バース目

I'm all in my bag, this hard as it get
I do not snort powder, I might take a sip
I might hit the blunt, but I'm liable to trip
I ain’t poppin' no pill, but you do as you wish

【意訳】
俺は集中してる、これはどんどんハードになっていく
俺は粉を吸い込んだりしない、リーンは飲むかもね
葉巻はやるかも、だけどトリップする可能性がある
俺は錠剤なんて飲まない、だけどお前は好きにしやがれ

*前作品の『KOD』では、ドラッグに逃避してしまう若者の様子を描いたりもしたJコール。今回も、ドラッグの使用に対して厳格な姿勢を強調するのかと思いきや、「粉(コカイン)」や「錠剤(MDMA等)」といったハードドラッグは勿論使用しないけれど、「リーン(コデイン)」や「葉巻(大麻)」は使うかもしれないと、ソフトドラッグに対しては保険をかける真面目な感じがウケます。

I roll with some fiends, I love 'em to death
I got a few mil' but not all of them rich
What good is the bread if my niggas is broke?
What good is first class if my niggas can't sit?

【意訳】
俺は数人の友だちと遊ぶ、俺は死ぬまであいつらが大好きだ
俺には数億円の資産がある、だけど友だちはみんな金持ちなわけじゃない
もしも俺の仲間が貧乏だったら、俺が金を持ってることに何の意味がある?
もしも俺の仲間と一緒に座れないなら、ファーストクラスに何の意味がある?

*Jコールは20代前半の頃は、成功を求めてギラついた様子もありましたが、自身が成功した後は、先ほども書いたように比較的「賢者モード」に入っていました。しかし、ここでは自分がお金持ちになるだけでは足りないということで、新たな目標が見えてきている様子が伺えます。

That's my next mission, that's why I can't quit
Just like LeBron, get my niggas more chips
Just put the Rollie right back on my wrist
This watch came from Drizzy, he gave me a gift

【意訳】
それが俺の次のミッションさ、だからまだ辞められないんだ
まるでレブロンみたいに、俺は仲間たちがもっと稼げるようにする
もう一度、ロレックスを腕につける
この時計はドレイクからの貰い物、あいつは俺にプレゼントしてくれたんだ

*ドレイクは、ある意味、Jコールと対極のようなポップな曲をつくるアーティストですが、ドレイクとJコールは非常に仲が良いことで知られています。Jコールのアルバム発売を記念して、二人でBest Buy(スーパーマーケット)に行って、店中のアルバムを楽しそうに買い占める様子などが、YouTubeにあがっています。

Back when the rap game was prayin' I'd diss
They act like two legends cannot coexist
But I'd never beef with a nigga for nothin'
If I smoke a rapper, it's gon' be legit

【意訳】
俺がドレイクをディスることをラップ業界が期待してた頃
あいつらは、伝説は二人同時に存在し得ないかのように振る舞った
だけど、俺は理由もなくビーフをしたりしない
俺が誰かを撃つときは、本気のときだけさ

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