本物のアートを身近に置く暮らしを!(2)〜アートと暮らすこと
前回書いたこの記事では、自分の生き方についての話がメインテーマになっていますが、ついでに「アートと暮らす」ということにも触れたので、そこをもう少し深掘りしたいと思います。
前回書いたように「アートと暮らす体験プログラム」というのをやろうと思ったのは、アートを持つ、ということを現代の日本人はほとんどしない、ということが分かったからです。
昔はそうでもなかった。
床の間があって、そこには安いものだろうが高いものだろうが、一応はちゃんとした絵が飾ってあったりしたのです。
その床の間には焼き物の花瓶にお花を生けて飾ることも取り立てて特別なことではなかったでしょう。
床の間のある家に住むこと自体は誰にでもできたとは言えないかもしれませんが、かと言って、特にお金持ちや特権階級だけのものでもなく、農家の家にもありました。明治に来日した外国人がそういう風にさりげなく花を飾ったりするのをみて、日本人は農民に至るまで皆アーティストだと言ったというのを読んだこともあります。
戦後、家は洋風にするのが普通になり、経済が高度成長するのと反比例して、日本人の生活から余裕がどんどん失われ、床の間などというものは無駄なスペース、として日本人の暮らしから消えていきました。
アートはただの教養になり、本物は美術館で見るものになりました。
特別なものとして生活から距離を置かれてしまいました。
でも、本来のアートとはもっと生活や人生に深く関わって初めてその価値が発揮されるものだと私は思っています。
なんと言っても本物のアートは劣化しません。
名が売れているようなアーティストなら劣化どころか、値段がどんどん上がったりもします。
まあ、庶民の手が届くのは売れていないアーティストの作品になるでしょう。
でも日本のアーティストはかなりレベルの高い人でも名前が売れていないことも多いのです。
それに、アートの質の良し悪しは売れているか売れていないかに必ずしも比例しません。
さらに言えば、自分にとって価値のあるアートが売れているかどうかは本来は関係ないことです。
(投資として買うなら別ですが)
アートが劣化しないのは、その中に生命があるからです。
そばに置いて毎日でも見ることができます。
どんなに安くても最低1万円はするかもしれません。
通常は小さい作品でも2〜3万はするでしょう。
ある程度の大きさがあれば6万円前後というところ。
これを高いと思うのか?安いと思うのか?
です。
前回も書いたように作品はアーティストの魂の一部です。
いい作品というのは自然にこちらに迫ってくるものがある、と私は思っています。
私もずいぶんこれまで一目惚れで買ってきましたが、それで後悔をしたことは一度もありません。
私はアーティストなので、作品を飾ることは自分の作品の質を一定以上に保つという現実的な役割もあります。
常に目に入るところに質の高い作品を置いているのですから、自分の作品がそれ以下だと自然とダメだな、とわかるという。
アーティストでなかったとして、あるいは、物を作る人ではなかったとしても、それは生活の全てにおいても同じではないかとも思います。
もちろん家の環境が人生に与える影響はほんの一部でしかないでしょうけど・・・。
それでも、今、アートの片鱗もない生活をしているとしたら、そこにひとつアートを持ち込むことで、私はきっと空間が変わる、と思うのです。
私は自分でも画廊で個展をやるし、人の個展もよく見に行きます。
同じ画廊でも飾られる作品でこうも空間が変わるのか、と、いまだに驚くことも多いです。
作品は何も言葉では語らないけれど、たくさんのことを発信していたりもします。
それを感受するのは自分の感覚であり、心であり、魂であり。
アートと暮らす、というのは、案外面白い発見も多い物です。
作品から、も自分からも。