ふたりのり
僕の背中に寄りかかる君はどんな気持ちで居たのだろう。
背中に寄りかかる、君の耳の形しか僕には伝わらなくて思わず声をかけたんだ。
どんな表情をしているのか分からないから。
「ねえ、あのさ」
「あっごめん。何の話だっけ?」
声は少し悲しそうで下を向いているからかいつもより小さな気がした。
「いやー。なんか元気ない?」
と聴くしかできなくて
それでも僕は前を向いて漕ぐしかできない。
ただ君の声が僕の体に響いただけだった。
「別に何もないよ」
と返事が返ってきたのが君との最後の二人乗りでの会話だった。
お家に着いてブレザーを脱ぐと君の温もりが跡になって残っていた。
あなたの背中はとても大きくていつも暖かった。
少し出張った骨に耳を寄せるとあなたの声が二つになった感じが好きで、
帰り道はよく二人乗りして帰った。
それも今日がきっと最後になる。
私は彼と自転車にとって重荷でしかないと、思ってしまった。
きっと傷つける。突然だと怒るかもしれない。
それでももうあなたの隣にいられる自信がないの。
噂が私を苦しめてその内あなたも苦しめる。
別れよと言うと思いながら君の後ろに乗った。
もうこれが最後と言い聞かせていたら泣いてしまいそうで抑えるのに必死で話を聞いてあげられなかった。
私の返事をあなたはどう感じたのかな。
深掘りしてこない優しさに冷たい涙がブレザーに沁みた。
私の耳だけはずっと暖かいままだった。