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⑤そこには探究学習の「答え」がある?ーHigh Tech Highの示す未来の学びのカタチ5

前回に引き続き、High Tech Highの学びについてつらつらと書いていきます。この記事から来られた方、ぜひ①からご覧ください!順に見ていただくと理解が深まるように書いております。

【前回のおさらい】
・HTHにはプロジェクトチューニングという時間があります
・中でも、「プロトコル」が優れたプロジェクトを生み出すキモ

【今回の10秒まとめ】
・HTHの考える、「アクセス」と「エージェンシー」
・HTHもまだ、悩んでいる


では、本編いきます!

■HTHの考える、「アクセス」と「エージェンシー」

社会につながる成長、コミュニケーションやプレゼンテーションはじめ、「ソフトスキルの習得」を目指し子どもの成長を後押しし、世界的にも評価をされているHTHですが、一部の保護者の方や周囲からは今も、「PBLやってないで大学受験の勉強をさせてほしい」「本当に力がついているのか不安」と言われることがあるのだそうです。

今回私たちを受け入れてくださったHTHの大ベテランのジョン先生は、この問いについて、「AccessとAgency」の違いの理解が重要であると話していました。


HTHの進路指導室


確かに、受験に直結する学びをすることは一見して大学受験の最短ルートであるように見えますが、「なんのためにこれを学んでいるのかわからない」という状態では、せっかくの学びの時間も意義あるものにならず、結局すぐに忘れてしまう(講義型の授業の定着率は10%というデータもあります)。

また、もし仮に大学に「Access」することを目的に学びを届けたとして、彼らが大学に行ったあと、彼らが社会で通用していく力は十分に身についていない状態になってしまう。それ以上に重要なのは、彼らが「Agency(主体性)」を持てている状態である。激しく変化する社会で、どこでも通用する力がついていれば、彼らはその自信をもとに進路を自ら選び取っていくことができる。

HTHは、大学に「Access」するための学校ではなく、その先の社会で通用する「Agency(主体性)」を育てる学校であると。


数学の捉え方を考える生徒の制作物


より意訳すると、Agencyは「行為者が主体的に外部に働きかけるさま」を表す言葉です。つまり、大学に「入れてもらう」学びをするのではなく、自ら自己実現のために大学のドアを叩きにいく、主体的に自分の進路を選択し叶えていくさまが、HTHのあるべき姿である、と話してくれました。

昨今、総合型選抜含め多様な入試形態が増えてきていますが、この社会的な変化を大きなテコにして、「Agency」を持つ学生たちが主体的に自分の進路実現をしていく世の中になれば、もっともっと日本は元気になる、と強く共感しました。


■HTHもまだ、悩んでいる

一方で、現地に行ったからこそ見えた、HTHの悩んでいるポイントも、非常に興味深かったので2つだけ紹介したいと思います。

・先生の育成

HTHと先生の育成HTHの抱える大きな悩みに、「PBLを運営できる先生の育成」がありました。何もない状態から始まったPBLの設計ですが、歴代の先生の試行錯誤の中で、一定の「Structure(構造)」が作られてきています。それ自体は凄く価値のあることなのですが、逆に今では先生から「もっと構造がほしい!」と言われるようになっていることが課題であると話していました。


6週間のPBLを組み上げるワーク


意訳すると、新しい先生からすると、自分たちでPBLを組み上げていくというよりも、細かなルールや構造に従ってそれを「埋めていく」進め方のほうがやりやすい。しかしそれを埋めていく作業は、本来良いPBLを組み上げるという目的のために作った構造が、構造を埋めるという「手段」に変わっている、この状況が、かえって良いPBLをつくる妨げになっている、もっというと先生の成長・変容に繋がっていかないことを危惧しているようでした。

決して構造を軽視しているわけではなく、構造を伝えできるようになることは非常に重要なんだけれども、実際にはより柔軟に内容を組んだり、変更したりする力も必要になってくる、よって構造だけでは理想のPBLをやり切ることは難しい、というメッセージでした。

余談ですが、プロジェクトは学びを「Drive」させるものである、という話もありました。
長いプロジェクトの道のり(Journey)がある中で、車に何を積めばいいか(どんなコンテンツを用意すればいいか)、そのコンテンツによって学びが進んでいき、途中に休憩をとって振り返りをして、望んだ道のりを走れているかを確認して、必要に応じて生徒も先生も休憩を取って、車の積荷を変えてみたりして、また走っていく、これがプロジェクトのあるべき姿である、という話もしていました。


EPIC JOURNEYS

つまり、どんなに緻密に練った計画でも、途中インターバルを挟みながら計画の修正は行われていくものであって、その柔軟な対応力が先生には求められる、ということですね。

よって、先生がどう挑戦するようにできるかが大事で、先生にとってもZPD(Zone of Proximal Development:最近接発達領域)を見つけること、スイートスポットを探す作業が大事、とのことでした。

ZPDについてはコンフォートゾーンと近しい考え方なのですが、以下の記事がわかりやすかったので勝手ながらご紹介させていただきます。


・チャータースクール認可のためのジレンマ

もう一つ、「テストがない」と聞いていたHTHですが、実際に校舎を回ってみると、MAPテストに取り組んだり、英語の文法などをしっかり教えている様子なども見受けられました。

MAPテストとは、日本でいう「学力調査テスト」みたいなもので、全国的に自分の学力がどこに位置してるのかを相対的に確認できるテストになっています。

チャータースクールは国から支援をもらって運営されているのですが、このMAPテストの成績が悪いと、チャータースクールとしての存続に関わってしまうんですね。

なので、PBLを主軸にしつつも、こうした塩梅を取らざるを得ない状況もあって、バランスに悩みながら運営をしているようでした。


数学の学び



■総括

HTHで過ごした3日間で、まさに「百聞は一見に如かず」の体験をさせてもらったな、というのが率直な感想です。
直接見てはじめて知ることのできた事実もあれば、PBLを運用するうえでのほんの小さな声かけや態度、進め方、生徒へのペンの渡し方の1つまで、どう運用において徹底ができるのかを見せつけられた、そんな素晴らしい経験になりました。おそらくここまで生々しく世界最先端のPBLを学べる環境は、他にないのではないかと思います。

今回の素敵な機会を作ってくださった平岡慎也さん、ジョン先生はじめHTHのホスピタリティあふれる先生方、一緒に学校を案内してくれた生徒さん、フォローで入ってくださったみほさん、塚越さん、一緒に学びをシェアしてくださった参加メンバーの方々、本当にありがとうございました!


ここまで長文にお付き合いくださった皆様、ありがとうございました!


私はHR高等学院という通信制高校サポート校の責任者をしております。
早稲田大学はじめ招聘講師も担当しております。
今回の記事を読んで、もしなにかコラボしたい!授業してほしい!などご相談がありましたら、遠慮なくご連絡ください。以下に連絡先を載せております。


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恒弘 大輔
Tsuneiro Daisuke
株式会社RePlayce / HR高等学院 
事業開発本部長

daisuke.tsunehiro@replayce.co.jp


私たちの手掛けている高校、HR高等学院では、日本を代表する大企業たちと一緒になって行う、社会につながるPBL/探究活動を学校の柱にしています。

ぜひご興味があれば、見てみてください!


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最後に、PBL歴22年の大先輩、ジョン先生の一言を添えて、今回のHTH研修の振り返りの総括とさせていただきます。

「授業において、もし生徒が思ったようなリアクションでなかったり、退屈そうにしていたら、それは”Gift”だと思ったほうがいい。授業に没入できていない生徒がいるということは、プロジェクトが良くない点がある証拠。生徒たちの行動・様子が一番の答えだと思っているよ。」


「宇宙から地球の写真を撮りたい!」という生徒の思いに一緒に伴走した結果、
天気気球を組み立て本当に宇宙からの撮影に成功してしまったジョン先生


また他の学校に視察する機会があれば、更新していきます!
(北欧の学校とか、行ってみたい!)

ありがとうございました!


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