【毎日短編台本-3月11日】 欠けた月の美しさ (2人劇)
基本情報
タイトル-欠けた月の美しさ
作-臼井智希
ジャンル-青春、現代劇、会話劇、社会
目安時間-5分
登場人物
白崎ゆめ(しろざき-ゆめ)男子高校生 高3 美術部
山野麻耶(やまの-まや) 女子高校生 高1 美術部
本編
放課後の美術室。山野が絵を描いている。
白崎が入ってくる。
山野 白崎先輩!
白崎 はぁ...もう誰もいない時間だと思ってたんだけどな
山野 みんなもう帰りましたよ。私は今いいところだったので!......先輩、なんで最近部活来てくれないんですか?
白崎 もう3年だ。どこも引退してるだろ?
山野 でも先輩は絵で受験するんでしょ?だったら引退する理由なくないですか?っていうか、そう言ってついこないだまで来てたじゃないですか
白崎 ...やめたんだ
山野 はい?
白崎 美大受けるの。
山野 え
白崎 俺、絵上手くないし。
山野 そんなことありません!
白崎 あるさ。山野は見たことあるか?
山野 なにをです
白崎 俺の受ける大学の、受かったやつの絵
山野 ...ありません
白崎 なら見てみるといい。嫉妬どころか、絶望することすらできないくらい上手いぞ。......あんな、あんな絵が描けるやつと競っても、なんにもならん。ただ金と時間とを使うだけだ。
山野 だから、やめるんですか
白崎 そうだ。俺が描く意味がない。
山野 意味ならあります。
白崎 なんだ
山野 先輩の絵は先輩にしか描けません。
白崎 描けるさ。俺程度の絵、誰にでも描ける。
山野 それでも、あの絵もあの絵も
山野、美術室に立てかけられている絵を指差す。
山野 先輩しか描いていません。
白崎 誰にでも描ける程度の絵だ。努力すれば誰でも描ける
山野 でも先輩しか描いてない。先輩だけの絵です。物理的に、あの絵は、先輩だけの絵です。他の誰も描いてない絵です。
白崎 それはそうだ。そんなことを言ってるんじゃない
山野 どれだけ優れた画家も描ける量には限りがあります。先輩もです。だから、描ける人が、描く努力をする人が、代えが効くから描かなくていいなんてことはないんです。描く人は有限です。
白崎 そうだ有限だ、ただ受験の合格者の枠はさらに少ない有限だ。俺が受けても無駄だ。
山野 違います
白崎 何が違う?コストを使って、悔しさしか得られないことのわかっている負け戦に出ることは無駄ではないと?
山野 無駄ではありません。先輩、自分で言ってるじゃないですか。悔しさが得られます。
白崎 そんな、マイナスを得てなんになる
山野 挑んで得たマイナスはゼロより価値があります。
白崎 ......は
山野 悔しさはバネになります。自分の愛になります。挑んだという証が残ります。有名な画家たちが真剣にあなたの絵と向き合います。あなたがいたことを知ります。あなたの絵が、他の人の絵を押し除けて選ばれるものではなかったとしても、あなたの絵が存在して、それを知ることができます。光を浴びなくても、在ることができます。
白崎 ......詭弁だ
山野 捉え方です。先輩の絵は素敵です。選ばれるかは知りません。でも、在るべきです。ないまま消えていいものではありません。ないままでいいものなんてないんです。
白崎 選ばれないとわかって挑めというのか!!
山野 選ばれるつもりで挑んでください!
白崎 本気か..?
山野 本気です。選ばれるつもりで挑んだものは、どうあろうと、在ることができます。
沈黙。
白崎 帰る。
山野 先輩!
白崎 受験生は忙しいんだ。今日は荷物を取りに来ただけ。
白崎、部屋の鞄を取り、自分の絵を取る。
白崎 じゃあな山野
山野 ゆめ先輩!!!
白崎 ...なんでその名前で
山野 頑張ってください
白崎 ......ふん。
白崎、手をひらひら振って出ていく。
終幕。
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