【毎日短編台本-3月18日】 涙がかける虹 (2人劇)
基本情報
タイトル-涙がかける虹
作-臼井智希
ジャンル-恋愛、現代劇、会話劇
目安時間-5分
登場人物
佐倉朱里
片岡氷織
本編
高校の屋上。ベンチが2つある。3月1日の午後。肌寒い。雨が降っている。ビニール傘が落ちている。
ベンチの一つに朱里が、傘もささずに制服で座って、茫然としている。靴と靴下はあたりに投げ捨てられている。
卒業式の後であるが、あたりは静か。朱里も、卒業式らしい正装でもなく、むしろ世捨て人のようである。
氷織が、ビニール傘をさしつつ入ってくる。氷織、柵に体をもたれさせて遠くを見ている。
しばらくして
氷織 風邪ひくよ……中戻りなよ、てか帰りなよ。それかみんなと卒業パーティー行きなよ。みんなもう行ったよ
朱里 氷織だって行ってない
氷織 私はいいんだよ最初から行く気なかったし
朱里 なら私もいい
氷織 なにそれ……
氷織、近づいて傘を差しだそうとする。
が、朱里、もう一個のベンチに移動して離れていく。
氷織 そっか
朱里 ……なんの用
氷織 ……わかんない
朱里 なにそれ、変なの
氷織 風邪ひくよ
朱里 いいよ、どうでも
氷織 よくないよ
朱里 氷織には関係ないでしょ
氷織 ……うん。
氷織、柵に戻る。
朱里 ……何しに来たの
氷織 朱里がいたから
朱里 意味わかんない
氷織 朱里こそなにしてんの
朱里 ……濡れに来たの
氷織 え
朱里 洗い流しに来たの
氷織 なにを
朱里 いわない。
朱里、上着を脱ぎ、投げ捨てる。
氷織 寒いよ
朱里 いい。
朱里、ブラウスも脱ごうとする
氷織 良くないよ
氷織、ジャケットを脱いで朱里にかける。朱里、おとなしくかけられる。氷織、落ちた朱里のジャケットを拾って袖を通さずに羽織る。
氷織 つめたっ、すごい雨染みてる。
朱里 ……なんなの
氷織 え?
朱里 私の事、嫌いなんでしょ
氷織 そんなこと言ってないでしょ
朱里 じゃあなんで振ったの。なんで別れたの
氷織 それは言ったじゃん。友達に戻りたいって。……友達がこんなとこで濡れてたら心配するよ
朱里 嫌い
氷織 …そっか
朱里 中途半端
氷織 ……うん
朱里 嫌い。どっか行って
氷織 分かった
氷織、さしている傘を朱里が濡れないようベンチに立てて、柵に戻る。
朱里 優しくしないで
氷織 するよ。友達だから
朱里、傘を払ってどかす。傘が倒れる。
しばらく。
朱里、氷織を見る。傘を拾って氷織に渡す。
氷織、受け取らない。
朱里 ねぇ
朱里、渡そうとする。氷織、受け取らない。
朱里、無理やり押し付ける。氷織、下に傘を投げ捨てる。
朱里 なにしてんの!?
朱里、落ちている傘を拾って差し出す。氷織、受け取らない。朱里、ため息をついて2人で傘に入る。氷織は何の抵抗もしない。
朱里 氷織……私の事さ、まだ、好き?
氷織 うん
朱里 …じゃあ…また付き合わない?
氷織 それはできない
朱里 ……そっか
しばらく。
朱里 なんでか、聞いてもいい
氷織 なんも教えてくれないから……朱里なんでも隠しちゃうから
朱里 ……うん
氷織 付き合ってても、なーんにもわかんなかった
朱里 ……そっか……隠してるつもり無いんだけどなぁ
氷織 逃げてるんだよ、隠れてるの、朱里は
朱里 氷織は、踏み込みたかった?私の中に
氷織 うん
朱里 でも、最後に逃げたのは氷織だよね。
氷織 ……そうだね
朱里 逃げるなら、踏み込まないでほしかったなぁ。……知ってた?私、氷織の事、太陽みたいに思ってたんだよ
氷織 そうなの?
朱里 うん。でも、光がさして明るいことが、イコール良いことじゃなかった。一縷の光、なんて言うと良いことみたいだけど。やだね。もう、まぶしい明かりが苦手。
氷織 私は朱里を知りたかったよ
朱里 知られたく、見透かされたくなかったよ
氷織 なんで知られたくないのに、付き合ったの?
朱里 好きだから。
氷織 ……そっかぁ
しばらく。
朱里 雨、いいよね
氷織 好き?
朱里 未練を洗い流せる気がする。
しばらく。雨が止む。
氷織 やんだね
朱里 やんじゃったね...
氷織 虹でもかかれば良いんだけど
傘を畳む。雨か涙か、2人とも顔が濡れている。
朱里 ねえ、見て
氷織 なに、あ
朱里 言った通りの、虹だよ。
氷織 そうだね
朱里 またね。
氷織 うん、また。
朱里、出ていく。階段を降りる音が聞こえる。
終幕。
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