【毎日短編台本-2月20日】 焚く (4人劇)
基本情報
タイトル-焚く
作-臼井智希
ジャンル-恋愛、悲劇、現代劇、会話劇
目安時間-20分
登場人物
彩智(さち) 女性 少し大人しい
由紀(ゆき) 女性 あっけらかんとしている
和紗(かずさ) 男性 やさしく誠実
雅弘(まさひろ) 男性 気のいいアニキ気質
本編
第一場 和紗のいない食卓
第二場 帰ってきた和紗
第三場 二人の夜
第四場 心、焚く
第一場 和沙のいない食卓
彩智、一人立っている。
彩智 「君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも。知ってますか?この歌。好きな人が行く長い道を手繰り寄せて、折って畳んで、焼き尽くす天の炎が欲しい。そうすればあなたは私のもとから離れないでくれるのに。そんな歌です。昔、出張となればもう帰っては来られない、そんな時代に歌われた歌。でも、時折思うんです。好きな人が、離れていこうとした時点で嫌だなって。道を焼き尽くして残ってくれても、そこに残っているのは一度行こうとしたあなた。一度、私を手放したあなた。だからもし天の炎があれば、私の心を燃料としてくべて燃え上がって。道だけじゃなく、あなたも私も焼き払ってほしいと思うんです。」
食卓。彩智、由紀、和紗、雅弘がシェアハウスで暮らしている家の食卓。由紀が座っている。その隣に彩智、座る。雅弘が両手に皿をもって出てくる。
雅弘 「はいよ!」
由紀 「あれ、今日の夕飯当番雅弘だっけ?」
雅弘 「いや、ほんとは和紗なんだけど、あいつ仕事今繁忙期だろ?遅くなる代わってくれって言われたからよ。」
由紀 「あ、そうなんだ。」
彩智 「最近ぜんぜん見かけないよね」
由紀 「ね~」
雅弘 「皿運ぶの手伝ってもらっていいかねお嬢さんがた」
由紀 「雅弘がんばれ~」
雅弘 「慈悲ねぇのか」
由紀 「そこになければ無いですね」
彩智 「手伝おうか」
雅弘 「助かる」
由紀 「彩智はいい子だねぇ」
彩智 「そんなんじゃないよ」
雅弘、彩智、追加の皿をもってきて座る。
雅弘 「よし、じゃ」
三人 「いただきます!」
三人、食べながら。
由紀 「和紗の分は?」
雅弘 「ああ、まだ向こうにあるから」
由紀 「あとでラップして冷蔵庫入れとこうか」
雅弘 「おう」
彩智 「和紗、大丈夫かな」
由紀 「きつかったら自分から言ってくれるでしょ、大丈夫大丈夫」
彩智 「だといいけど…」
雅弘 「ま、あとひと月もすれば落ち着くんじゃねぇか。去年もそうだったろ」
由紀 「去年はやばかったね…新卒の社会人一年目とは思えないくらいやつれてたもん。あれはもう30すぎだった」
彩智 「ちょっと言い過ぎだよ」
由紀 「いいのいいの」
雅弘 「2人は最近仕事どうなん?」
彩智 「ほどほど」
由紀 「そこそこ」
雅弘 「同じく。」
由紀 「なんで聞いたし」
彩智のポケットの携帯が鳴る。
彩智 「あ、ごめん」
由紀 「いいよ~」
彩智、ポケットから携帯を取り出し見る。
彩智 「ねぇ見て」
彩智、携帯の画面を雅弘に突き出す。
彩智 「舞ちゃん子供生まれたんだって!」
雅弘 「え、マジ!?え、」
彩智 「かわいい~!」
雅弘 「赤子、まじ赤子。」
由紀 「舞ちゃん?」
彩智 「あ、中高の時の友達。和紗のお隣…いや、隣の隣…?なんかご近所だった子、めっちゃいい子なんだよ!大学行かないで就職して結婚して、もう子供かぁ、早いなぁ。」
雅弘 「俺も和紗も彩智も、結婚式行ったくらい仲良かったんだぞ。」
由紀 「え~いいなぁ。あ、ねぇ二人って中高の卒業アルバムとか取ってある?」
雅弘 「あ~実家」
彩智 「あたし持ってるよ、部屋にある。」
由紀 「今度見せてよ。2人と和紗が中高でどんな感じだったか興味ある」
彩智 「いいよ、今晩暇?」
由紀 「うん」
彩智 「じゃ部屋に持ってくよ」
由紀 「ありがと~!」
第二場 帰ってきた
鍵の開く音。
由紀 「あ、和紗かな」
彩智、扉の方に行く。和紗、帰ってくる。
彩智 「おかえり。」
和紗 「ただいま」
由紀 「おかえり~」
和紗 「ただいま」
雅弘 「飯、やっといたからなぁ」
和紗 「ほんとありがと、ごめんね迷惑かけて」
雅弘 「良いってことよ」
和紗 「ちょっと、着替えてくる。」
雅弘 「おう」
和紗、自分の部屋に入っていく。彩智、キッチンから料理を皿にとって空いてる席に持っていく。
雅弘 「去年よりは元気だな。」
由紀 「去年がやばすぎたんだよ。大学の卒論締め切り直前でもあんなやつれてなかったもん」
雅弘 「卒論って結局何で書いたん?」
由紀 「和紗は経済のなんか…」
雅弘 「ざっくり過ぎ」
由紀 「難しいんだよ」
彩智 「由紀も経済だったでしょ」
由紀 「まあ。彩智は何で書いたっけ?」
彩智 「あたしは日本古典。短歌のことやってた」
由紀 「なんか、おしゃれ」
彩智 「そうかな?」
雅弘 「おれが延々と数式とにらめっこしてた間にお前らそんなことしてたんだな。」
和紗がラフな格好になって入ってくる。
和紗 「あ、ありがとう。」
彩智 「ううん」
和紗 「いただきます」
雅弘 「おういただけいただけ」
4人の食卓。食べつつ。
和紗 「何の話してた?」
由紀 「卒論の話!」
和紗 「ああ、思い出したくない…あれは人生2番目の地獄だった」
由紀 「一番は?」
和紗 「去年のこの時期」
雅弘 「だろうな」
由紀 「知ってた。」
彩智 「あ、舞ちゃん、子供生まれたんだって」
和紗 「ほんとに!?」
彩智 「ほら、見て」
彩智、携帯を見せる。
和紗 「すげ~」
雅弘 「びっくりだよな」
和紗 「でももう結婚から、何年?」
雅弘 「俺らがまだ大学生だったから、最低でも2~3年?」
和紗 「なら不思議でもないか」
彩智 「確かに。あ、そういえば今度同窓会あったよね、高校の」
和紗 「あ、ある。いつだったかちょっと覚えてないけど」
彩智 「来るかな舞ちゃん。久しぶりに会いたいかも」
雅弘 「さすがに来ないんじゃないか?」
彩智 「まあそっか~」
由紀 「いいないいな~中学の友達、高校の友達」
雅弘 「由紀、そういうのいないの?」
由紀 「いるけどこの場じゃだれにも伝わらないの!」
雅弘 「そりゃそうだ」
和紗 「ごめん置いてけぼりな話題で盛り上がっちゃって」
由紀 「許す!」
雅弘 「仕事どうなんだ?」
和紗 「去年ので覚悟はできてたからギリギリなんとか…でもその分給料に反映されてるからね。」
雅弘 「この中じゃ和紗が一番稼いでるか。」
和紗 「そうじゃない?」
雅弘 「だよな。あ、でもなんだかんだみんな結構貯金できてるんじゃないか?そのためのシェアハウスだし。なぁ?」
由紀 「うっ」
和紗 「由紀?」
由紀 「あんま~り、かも?」
和紗 「しようね?貯金。将来は不安定だよ?」
彩智 「ま、まあまあ」
由紀 「彩智~!」
彩智 「よしよし」
和紗 「そうやって甘やかす~」
由紀 「キッ!」
彩智 「睨まないの」
由紀 「うう~」
雅弘 「まさか、大学卒業してからもお前らとずっといると思わなかったけどな」
和紗 「そうだね。誰の発案だったっけ」
彩智 「私」
雅弘 「そうだったっけか」
由紀 「そうだよ。手配もほとんど彩智がしてくれたし」
雅弘 「助かりました!」
彩智 「どういたしまして?」
和紗 「ちょっと…言いたいこと、というか、いわなきゃいけないことがあるんだけど」
彩智 「え?」
しばしの間。
雅弘 「突然なんだよ?」
和紗 「……出ていこうと思ってる。」
雅弘 「…はぁ?…ああ。まあいずれはそうなる話か、うん、まあ。」
彩智 「……そう、だね。どうしよう。3人で続けられるならそれがいいかな。必要なら私ちょっと多めに出すし、」
和紗 「それが…」
彩智 「……由紀?」
由紀 「ごめん…私も出ていく」
彩智 「………え?」
由紀 「和紗と、2人で暮らそうって、思ってて。てか和紗、こういうこと言うならあらかじめ相談してよ」
和紗 「ごめん…」
彩智 「え…由紀…?」
和紗 「由紀と、付き合ってるんだ。ここ半年くらい」
雅弘 「マジで!?!?」
由紀 「気づかなかったでしょ?」
雅弘 「おう!あ~そっか…寂しいけどそういうことなら笑って送り出してやらねぇとな。俺と彩智がどうするかはともかく、そんなすぐって話でもないんだろ?」
和紗 「もちろん。半年とか、一年とか、そのくらい先の話にはなると思う。2人になるべく迷惑が掛からないように」
雅弘 「いい迷惑だぜ」
和紗 「はは、ありがとう。すまないね」
雅弘 「彩智、どうするか考えるのはとりあえずあとにしようぜ。時間はまだあるんだしよ。……彩智?」
彩智 「……ごめん」
彩智、出ていき部屋に戻る。
雅弘 「あらら、そんな寂しかったのか?別に友達じゃなくなるわけでもねぇってのに。なぁ」
和紗 「もちろん、2人は変わらず大切な友達だ。突然こんな話をして悪かった。」
由紀 「…ほんとだよ」
和紗 「さ、食べちゃおう。明日も早いんだ。俺が。」
雅弘 「俺もだ。」
3人、サクサク食べる。
和紗 「ごちそうさまでした」(同時に)
由紀 「ごちそうさまでした」(同時に)
雅弘 「ごちそうさまでしたアンドお粗末様でした」(同時に)
和紗 「じゃあ、おやすみ」
転換。
第三場 二人の夜
由紀の部屋。由紀がパジャマで一人ダラダラしている。少し不機嫌。
ノックの音。
由紀 「ん?」
彩智 (外から)「彩智です。入ってもいい?」
由紀 「あ、もちろん」
由紀、扉を開ける。パジャマで卒業アルバムを持った彩智がいる。
由紀 「どうしたの?」
彩智 「卒アル、見せるって言ったから」
由紀 「ああ…別の日でもよかったのに。どうぞ」
彩智 「おじゃまします」
二人、部屋の中で座る。
由紀 「急にあんな話して、ごめんね?」
彩智、無言。アルバムを開いて、由紀にも見えるようにしつつ見ている。
由紀 「あ、これ和紗?」
彩智、うなずく。
由紀 「これが雅弘…これが彩智かぁ、彩智、前からかわいかったんだね」
彩智 「…ううん」
由紀 「これ、さっき言ってた舞さん?」
彩智 「そう」
由紀 「すごいかわいい子だね…なんか、吸い込まれそうな目…」
彩智 「うん…」
しばらくの間。彩智はアルバムに目を落としている。
由紀 「……和紗の事、好きだった?…あ、違ったらごめんね?あ、あっててもごめんか。」
彩智 「…………ちがう。」
由紀 「そう?彩智、たまに好きな人いる目になるから」
彩智 「……ちがう。」
由紀 「そっか。ごめん、勘違いだね。」
彩智 「……私が好きなのは」
由紀 「うん?」
彩智 「…………私が好きなのは、あなた。」
由紀 「……え?」
彩智 「あなたが好き。由紀が好き。大好き。」
由紀 「…友達として、ではなく?」
彩智 「わかんない。わかんないけど、いてくれなきゃいや。離れようなんて思わないで。私以外を選ばないでほしいって思う。」
由紀 「そっか………ごめん、私は和紗が好きなんだ。」
彩智 「……そっか。」
彩智、立ち上がり出口へ向かう。
由紀 「彩智」
彩智 「おやすみ」
由紀 「……おやすみ。よく寝てね?」
彩智 「由紀こそ。早く寝たほうがいいよ。朝早いんでしょ?」
由紀 「うん。もう、すぐ寝るよ。」
彩智 「おやすみ」
彩智、出ていく。転換。
第四場 心、焚く
深夜、家の前に一人、彩智が立っている。パジャマ姿のまま。
彩智 「君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも。知ってますか?この歌。好きな人が行く長い道を手繰り寄せて、折って畳んで、焼き尽くす天の炎が欲しい。そうすればあなたは私のもとから離れないでくれるのに。そんな歌です。昔、出張となればもう帰っては来られない、そんな時代に歌われた歌。でも、時折思うんです。好きな人が、離れていこうとした時点で嫌だなって。道を焼き尽くして残ってくれても、そこに残っているのは一度行こうとしたあなた。一度、私を手放したあなた。だからもし天の炎があれば、私の心を燃料としてくべて燃え上がって。道だけじゃなく、あなたも私も焼き払ってほしいと思うんです。」
家が燃え始める。怒号と悲鳴とサイレンがけたたましく聞こえる。
雅弘 「くっそ!!!彩智!!!いるか!!!返事をしてくれ!!!」
由紀 「和紗!!!和紗!!!どこ!!!助けて!!!熱い、あついよ…」
和紗 「由紀!!!!!雅弘!!!彩智!!!」
雅弘 「崩れてやがる!!!!!ちっくしょどっか出られるとこねぇのかよ!!!」
由紀 「いやー!!!!!!!!!」
彩智 「思い出も、想いもすべてがこの中にあります。この家、あの人の中、私の中。すべてを焼き尽くす天の炎にまだくべていないのは、私だけ。ああ、天にめします火の神よ。天の炎にこの身をくべます。すべて焼き払ってくださいませ。跡形もなく。私の想い出、想い、心の詰まった心臓と肉体を焚き、燃料としてすべてを燃やし尽くし、溶かしつくして。願わくば、その炎の中で愛する人と一つになれますように。」
彩智、燃え盛る家の中に倒れていく。
炎は一段と激しく燃え上がり、サイレンの音に包まれていく。
家が大きく崩れる。終幕。
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