The Great Battle of students

「…………………。」

ただ見ているしかなかった。

眼前には白石と御代川の防衛陣。

完璧に作り込まれており、これを突破するのは不可能。

仮にできたとしても冨樫さんを救えるほどの戦力は残らない。

北門を迂回し、東門を通って辿り着く手もあるが、眼前の敵に背を向ければ、追撃されるが必至。

もう自分はここで見ているしかなかった。


敵を倒すことを目的としたならば。




堀北は既に冨樫を直接救うことを諦めていた。

だが、命を救う手を他に思いついていた。

堀北が直接、松田・小田に介さなくとも、命を救う手を。




それは退路を確保すること。

北門を迂回し、先に道を作る。

そして、冨樫さんが逃げてきた所を見て、堀北が盾となる。

そうすれば冨樫さんの命を救うことが出来る。

勝利と引き換えに。




堀北は仲間に話す。

「諸君、君達は死に物狂いでこれまで戦ってくれた。俺らはすでにボロボロ。敗軍だ。だが、これは俺たちが弱かったんじゃない。相手が悪すぎた。これに尽きる。」

彼は続ける。

「尾上、鈴山、松田、白石、小田。そしてその副長ども。全員が俺らの想像を超えた。俺らは敵わなかった。実力不足だ。だが、いずれは必ず超えなければならない。」

口を挟んできたのは、堀北軍副長、狭山香織。2年。堀北の姉さんのような存在である。

「まどろっこしいよ。晃一。さっさと要件を言いな。私達は何もかも打ちのめされてる。六大学随一の勢いを誇ると言われた私達の軍が何一つ通用しなかったんだ。もう今更何を言われても驚かないさ。」

「悪いな、香織。では、単刀直入に言おう。これから我らは冨樫さんを救出しに出る。しかし、その道は正面ではない。北門を迂回し、猛華の領土に戻る形を取る。」

狭山香織が堀北を見る。鋭い目で。

「私達だけ逃げて援軍を呼びに行くのかい。多分、その間に冨樫さんは死んじゃうよ。」

「そんなことするか。俺たちは盾となるんだ。先に逃げて、逃げ道を作る。冨樫さんが俺たちに続き逃げてきた所でその道を俺たちで塞ぐ。敵を食い止めるんだ。」

「出来るの?もう私達、ボロボロだけど。」

「やるしかない。もう時間がない。あの人を今、救い出せるのは俺たちだけだ。報告によると、冨樫さんは後軍を尾上らに攻められ、逃げられないようだ。まずはそれをどうにかしないといけない。そこで俺たちは北門を迂回し、尾上らに圧をかける。奴らももうボロボロだろう。後ろを突かれると知ったら少しは怯むはずだ。それを後に俺らはすぐに南門側に退路を作る。その動きを見たら冨樫さんから絶対に乗ってきてくれるはずだ。」

堀北は力説する。柄にもなく。
彼らを説得するにはもう勢いで押すしかないのだ。


だが、その必要もないようだった。


「はいはい。わかったよ。もう十分よ。じゃあすぐにでも動こうか。時間がないんでしょ。」

狭山は笑う。意外や意外。どつき回されるかと思ったが。

「晃一が言うなら信じるよ。だって大将だもん。私達の。死んだらあんたの責任だけどね。」

「香織、すまない。それにみんなも。」

「辛気臭いのはなしね。帰ったら沢山お礼してよね。冨樫さんにも何か貰わないと気が済まないわ。」

「わかった、伝えておくよ。」

「ふふふ、冗談よ。じゃ、行きましょう。」

「ああ、みんなこれで最後だ。死闘になるやも知れんが、力を貸してくれ。」





「行くぞ!」



俺たちは走り出した。

つくづく、俺はいい仲間を持ったものだ。

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