The Great Battle of students #1

大学生が血で何もかもを争う時代。
20XX年。飽和状態を迎えた日本の大学群は、他大学との差別化を図るため、自らの大学の地位向上を他大学を攻撃する事で高めようとし始めた。


「戰シミュレーションシステム」


これは現在、大学が自らの頂点を極めようとする上で採用しているシステム。
生徒がとある時代に設定されたシステムに入り込み、他大学生徒を敵として戦うものである。

時代設定はシステム開始当初に参加大学によって決められている。
システム内で殺されて場合は、大学卒業までシステム内に参加はできない。
逆にシステム内で生き残っていても、現実世界に戻る事は可能だ。学生は勉強も本業であるためだ。



西大大学、灌頂大学、猛華大学、上律大学、智鶴大学、玲穣大学。
この六つの大学が、現在の日本の大学勢力を主たるを占め、鎬を削りあっている。

どの大学がどの大学を潰し、占領し、頂の座を掴むのか。
日本は大学戦国時代に突入したのである!


"上律大学"
尾上雅弓。大学2年生。この上律大学で1つの師団を率いる女将軍である。性格は慎重かつ強気。この二つの性格は矛盾し合っているようで、実は上手く共生している。そして何よりチビであった。
学部は文学部歴史学科。私立大学トップ3には入るこの上律大学内においては、偏差値は割と下の方だ。
しかし、流石は歴史学科。戦術、傭兵術はお手の物。
あらゆる手で敵を翻弄し、大学2年生ながらも将軍の座に上り詰めたのだった。
彼女の軍は同じ歴史学科の同級生らを軍長などに任命しており、密な連携を取りながら、団体行動を得意とする。特に彼女が先頭に立った際の爆発力は凄まじいものだ。だが、それゆえに彼女を失った時の顛末というものを軍内で予測できてないというのが尾上自身の懸念であった。

上律大学は関東6県の神奈川県、東京都の領土を有している。海産資源に恵まれ、それと同時に海軍の訓練も進んでいた。ただ、時代設定は近世より以前を基準としているため、大砲等の近代的な海軍整備は存在しない。
尾上は現在、神奈川県川崎市あたりの城で根を張っている。他大学との攻防が膠着状態にある中、軍全体で前線から下り、来たる戦のために着々と練兵や戦術の見直しを行なっているのだった。



「10万の兵の内、5万を騎兵にしよう!」
尾上は学科会議の中で声高らかに言った。
「!?!?」
空いた口が塞がらない一同。だが、本心では驚いてはいなかった。彼女の突拍子のない言葉は今に始まったことではないからだ。
「じゃあ、どうやってよ。今、うち達には2万の騎兵しかいないんよ。それを急に3万も増やすなんて、割と無謀なんじゃない?」
彼女にフランクな言葉で投げかけたのは、石松杏果。
尾上とは同級生であり、常に彼女の側で戦い続けた、いわば腹心である。
「きょーか!お前もそう思うのか!さっき教授にも言われたよ!!!」
この世界にも教授は存在する。ただし、実力主義の世界。戦の実績を残していない教授はただの一兵卒として見られるのだ。幸いにも歴史学科の教授、実松実は戦闘能力は皆無に等しいものの、その膨大な歴史の知識を使い、なんとか軍師的な位置にいることができていた。ただ、裏では「回文」というあだ名で呼ばれ、現実の講義では舐められてしまうようなタイプの男である。軍師的な位置を獲得できたのも、尾上の「さねっちは一応、軍師でおねしゃーす!」の言葉がなければあったからと言わざるを得ない。
そして、そんな教授の名前を出してきた事にも、石松は反応した。
「あんたさ、まだ教授に意見聞いてんの?
今、歴史学科がこの大学内で優位なポジションにいるのも、まだ戦いでほとんど負けてないのも全部あんたの力のおかげでしょ?」
「そんなこと言っちゃいけないよー。私は確かに強いかもしれないけど、私より強い人はいるし、教授の知識量には私は敵わないもの。それに尊敬してるし。」
「尊敬されるってことと実力は別物でしょ。現に教授は意見は出すけど、それはあんたの意見に捕捉説明をしてるだけ。要はあんたの実力なのよ。」
「そうかなぁ〜。」
周りの人間はこのやりとりについていけない。
なにも、周りの人間達が教授に対して思うところがないわけではない。ただ、このやりとりが当軍隊のツートップによって行われてる事に重きがあるのだ。
歴史を見てもそうだろう。権力者同士のやりとりに平民は容易に入っていくことはできない。


「でもね、絶対に騎兵は5万は用意するよ!これは絶対。いつしか騎馬のスピードが必要不可欠になる時が来るから!」
「いや、私はその意見そのものに反対はしてないじゃない。問題はどうやってってことよ。騎馬の経験も浅い私達がどうやって3万も騎馬兵を増やして、実戦で戦えるほどの戦力にしてくのよ!」
「どうやって増やすかは考え中。でも!実戦で使える騎兵を作るって事に関してはアテはあるんさ!」
「はぁ…、だと思った。まぁ、じゃあさ、そのアテって何よ。」
「そんなの松田しかいないでしょ、そりゃあね。」
「やっぱ、そうだよね。でもあたし、あの人苦手なんだよなぁ。」
「いいの!まぁとにかく、それに向けてね、色々準備をしていくよ!まずは歩兵の練兵!次に戦術勉強会!そして周辺国に放っている密偵からの情報の精査!あらゆることを行なって来たる戦に備えるよー!」
「元気だねぇ。来たる戦っていつなんだか。」
これを最後に歴史学科、定例学科会議は終了した。
これから各軍長は各々がやるべき事に取り掛かり始める。尾上の言葉には実績を裏付けとした確固とした信頼性を秘めている。彼ら軍長が従わない理由などない。そしてそれは石松も変わらない。彼女もまた、歩兵の練兵から取り掛かろうとしていた。
「やることが増えたなぁ」
歴史学科の将校は総じて、そう思っていた。
尾上が軽々しく言った、「来たる戦」がそう遠くないところまで来ていることを知らずに。










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