The Great Battle of students
神奈川県横浜市。
海が見える丘陵に鈴山はいた。
特にすることもないが、練兵がひと段落つき、軍長達にも少しの休暇を与えたため、足の赴くままにこの地に来た。
先日、尾上が最前線に北上するという報を聞いた。
どうやら猛華の動きがきな臭いらしい。
万が一に備え、上律も手を打った形だ。
そして、それに続く報が自分の元にも届いている。
程なくして、我ら鈴山軍も東京都に渡り、最前線近くに配属になる。
まだ軍長にも、御代川にも伝えていない。
猛華の動きは鈴山自体も多少は観察している。
ただ、尾上軍・鈴山軍を最前線に動かすほどの大きな動きは鈴山自身、察知出来ていない。
本部の命であるため、従うつもりではあるが、空回りするのではないかという考えもなくはない。
少し気になるのは、尾上雅弓はこの命に対して二つ返事で返し、凄まじい勢いで北上し、最前線の城に入ったということだ。
聞いた話によると、全く悩む素振りもなかったという。
尾上雅弓がここまで自信を持って従う命であるなら、ある程度の信憑性があるのか。
それとも、時々ある尾上の気まぐれか。
現在、朝の9時。
いつまで海を眺めるかはわからないが、今すぐには立ち去るつもりはない。
鈴山はもう少し考えに耽っていたかった。
上律本部も今回の猛華の動きに決定的な確信を得られているわけではないようだ。
それは鈴山が属する経済学部の学科長から聞いた。
学科長が質問することもできないほどの急転直下の決定だったらしい。
そして、その命を下した学長には大変な自信が見られたものの、それ以外の大学本部の人間達は明るい顔をしていなかった。周りの同意が全く得られないままの決定だったに違いない。学科長はそう述べていた。
明日、休暇が明ける。
鈴山軍の集合場所は神奈川県横浜市。
そこで皆に今回の件について話すつもりでいる。
鈴山は今日のうちに気持ちを固めたかった。
戦って功をあげたい気持ちは十二分にあるが、長として大切な仲間に不用意な不安を煽りたくはなかった。
全容がわからないまま最前線に行くなど、誰と戦ってるかわからないまま戦うことと同じだ。
そんな不安な中、自軍が最高の結果を残せるわけなどない。
ただ、命を無視するという選択肢はない。曲がりなりにも自分は一年生。そして、上級生の女性が既に現地入りをしている。行きません、などという言葉は口が裂けても言えない。
どのように伝えれば、アイツらを安心させたまま共に最前線に連れて行けるか。
正直に事を全て話すか、こちらのいいように言うか。
ふと時間を確認すると、日が上り、
12時になっていた。
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