The Great Battle of students
上律大学本部。
神奈川県鎌倉市。
かつての幕府になぞられて置かれた中枢に1人の男が訪れていた。
向かうは学長室。
狭い道を通り、迎えるその部屋で待つは上律大学学長、村島修二。
学長室の扉が開く。
軋む音。
響く足音。
男は一礼をして話し出した。
「村島学長。ただいま参上致しました。」
声は低い。ゆったりと話す。
「待っていたよ。」
こちらも声が低い。
「僭越ながら申し上げますが、今回の謁見は猛華についてでしょうか。」
「さすがだ。君との会話は話が早い。」
昼の16時。この日は尾上と鈴山が対猛華前線地へ派遣された日であった。
「君はどう思っている。此度の猛華の動きに関して。こちらに攻めてくると思うか。」
村島が男に切り出した。
「えぇ。侵攻してくることに関しては間違いないでしょう。私の軍の間者が猛華と玲穣で動きがあったと報告をしてきました。あの二大学が共同で動いていたとしたら、我々にも話が来るはず。我々は猛華と玲穣にしか面していませんから。ですが、そのような話は来なかった。では、どういうことか。これはあくまで私の予想ですが、猛華と玲穣は手を組み、横一線の防衛線を作ることで、西大・灌頂・智鶴を抑え、陸の孤島となった上律を狙っているのということではないでしょうか。」
男は話す。一点の曇りもなく。凛として。
「今回、尾上と鈴山を派遣したのは君の考えに乗った形ではあるが、では彼らにその考えを伝えなかった理由はなにかあるのかな。」
「彼らは頭がキレます。敵の牽制と伝えておけば、無理な侵攻はせず、城に篭り、様子を見るでしょう。もし侵攻を食い止めよ、と最初から言ってしまうと彼らは自分達の得意な白兵戦に持ち込むため、城を出るはずです。今回はその白兵戦だけは避けていただきたいのです。」
「なぜかな。」
村島はこの男を信頼している。
だから何の躊躇いもなく純粋な疑問をぶつけられる。
「早く終わってしまうためです。白兵戦は兵の損害も激しいですから、早期決戦に持ち込むのが彼らのやり方です。それで実際に戦果を上げてきた者達ですから。では、なぜ早く終わることが都合が悪いのか、ということですが、それは後に申し上げます。まず先に彼らの今回の役割について申させていただきたい。結論、今回の尾上と鈴山の役割は餌、そして囮です。まず、彼ら2人の存在は先の大戦で知れ渡り、今や他大学の脅威であります。そして的でもある。もし、猛華が玲穣と手を組み、大規模な動きを見せているのであれば、それなりの戦果を望んでいるはず。彼らはその十分な戦果になり得る。彼らが前線の城にこびりついていれば必ず狙われます。ですが、彼らを失うのは我々にとっては大損害。ゆえに此度の全容を知らせず、死ぬ恐れが相対的に減る籠城戦に持ち込むようにしたわけです。そして、先の話で、なぜ白兵戦で早く終わることが都合が悪いのか。それは此度の我々の的が関係しています。」
男の話はこれで終わりではない。
ただ村島がこれより先を遮った。
「彼らをそのような粗末な扱いをしたことは、この戦いの後、彼ら本人から色々言われるだろうな、君は。」
「えぇ、承知の上です。」
「援軍の手配は?」
「すでにしております。」
「よろしい。では本題へ戻ろう。此度の我々の的。それは猛華ではない。と、君は言いたいのだろう。」
男は笑う。
「さすがです。学長となら話が早い。猛華と玲穣のこのような動きはいかんせん不自然です。特に玲穣。なぜ先の大戦で宣戦布告をぶつけた相手からの話を聞き入れたのか。世間の目を気にしなかったのか。私が思うに、ここには大学同士の利害ではなく、それを超えた何かが二つの大学の中に存在しているのでしょう。」
「つまり、揺さぶりをかける、ということだな。」
「いえ、揺さぶり程度ではありません。徹底的にやります。」
「そうか、その覚悟受け取った。たが今回はタイムリミットがある。尾上と鈴山の命だ。アイツらの命の火が消えるまでにこちらで大局を制す。すぐに船を手配しよう。」
「よろしくお願いいたします。幸いにも私を含む軍は先の大戦では鈴山にこそ目をつけられましたが、敵大学には私以外はほとんど知られることはありませんでした。このこともうまく利用できるでしょう。また、今回は学長のおっしゃる通り、早さが命。尾上と鈴山が果てるまでに、こちらも徹底的に叩きます。」
「君達が出るのか。」
「私達にしかできない仕事です。」
「そうか、では任せたぞ。大将軍"達"よ。」
「はい。お任せを。」
部屋を出た身長179cm、素朴な顔をした、その男。
名前を松田瑞貴。
上律大学が誇る大将軍筆頭であり、戦の天才である。
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