伊豆大島ミステリー② 黒い砂に鉄は何%含まれるか?検証してみた
日本には砂漠が2つある。
1つは『東京砂漠』。
もう1つは同じく東京都内だが伊豆大島にある「裏砂漠」だ。
因みに鳥取県にあるのは「砂丘」で、「砂漠」の定義とは異なる。
大島に渡るなら「三原山」はもちろん「裏砂漠」にも行きたいところ。
「裏砂漠」の行き方は?
レンタカーで最寄りの駐車場「月と砂漠ライン駐車場」まで行き、そこから徒歩で約10分。なるほど。(こっちは堂々の「砂漠」表記なのね^^)
他にも大島には観光スポットがいっぱいだ!事前に決めておかないと。
何々?ここは「砂の浜」?
こっちの砂も黒いんだなー。ってか、たぶん成分は同じでしょう?
「裏砂漠」と「砂の浜」。
その黒い砂はどちらも三原山の噴火による噴出物=玄武岩で出来ている。
「この砂、何だか鉄分が凄く多そうな気がする〜」
そうした訳で、我が家でかつてDIYに用いた「超強力マグネット8粒」(100均)を大島旅行に持参することに。
果たして結果は…?
* * *
連休中は車両侵入禁止エリアがある
島に着いてまずはレンタカー屋に。店のおじさんから注意事項あり。
「連休中の砂漠エリアへの車の乗り入れは、禁止です」
そ、そうなん?
理由は「連休中はJAFが出動できないから」とのこと。納得。
つまり「裏砂漠」の最寄りの「月と砂漠ライン駐車場」は連休中、利用できないのだ。
島のルールには従いましょう。とは言え三原山の火口ぐらいはチラッと拝みたい。
と言う訳で「裏砂漠」に向かうのではなく、店のおじさんのすすめで
「三原山頂口」の駐車場に車を止め、そこから徒歩で火口を目指すことに。
* * *
ミハラヤマノボレ
いや~、圧巻!美しい!!海もいいけど山の景色もいいよね。
山肌には溶岩が流れ出た跡が目に見えて残ります。自然の脅威は神の御業ですね。
にしても「ヒィー!今からあそこまで歩くのかー!?」
はい、歩きましょう。
あ、意外と歩ける。道も舗装されていて歩き易い。
晴れてて風が心地よく、気持ちいい。気温も暑過ぎなくて丁度いいね。
道中、両脇に黒い岩がゴロゴロ。流れ出た溶岩が冷えて固まったもの。黒い砂も多い。
結局「裏砂漠」の砂と成分は同じみたいだ。
ではそろそろ、ミッション開始!
マグネットをサラサラ黒い砂の上に置いて…
想像通り、黒い砂には鉄がかなり含まれている!!
凄いぞ〜、砂鉄、取り放題だ〜~!!
では引き続き、頑張って火口まで。
三原神社・上社を参拝。海を臨む絶景かな。
雲が無ければ鳥居の正面に富士山が(この日は見えなかった)。
正規ルートに戻り、ゴジラ岩を通り過ぎ…
火口到着。
お鉢巡りはさらにこの先を進み、1周するのに約50分かかります。
私たちは帰りの体力を温存するため、お鉢は巡らずこれにて帰途に。
無事戻って来ました。良い登山だった。汗もさほどかかず、ペットボトルの水も殆ど飲まなかった。(夏に行かれる方は、暑さ対策必須!)
三原山は至る所に黒い岩、黒い砂(の上にも緑は生い茂る)。
そしてその砂はどうやらほぼほぼ砂鉄!!ということが分かりました。
仮説が立証できたのもあって達成感。
さて、次なるミッションへ。
* * *
砂の浜
噂の黒い浜辺にやって来た。
では、2度目のミッション開始。
すぐにビッシリ付着してしまいます!
つまりこの海岸の砂も、ほぼ砂鉄!!
今回行かなかった「裏砂漠」も、おそらく同様でしょう。
つまりこの島中にある黒い砂の正体は、殆ど鉄なのです!!!
そして…島の黒い砂を
砂鉄とは知らずにみんな観光してる!!
砂鉄とは知らずにみんな写真撮って「映える〜」「異世界」と言って満足して立ち去る。
これって、どういう状況??
* * *
大島町郷土資料館
旅行先で郷土史を知るためには是非立ち寄りたい所。
資料館での黒い砂の展示は以下のようなものだった。
大島の黒い砂(玄武岩)と
神津島の白い砂(流紋岩)とを並べ、
「溶岩の成分の半分以上はシリカ(SiO2)」なる説明が。
いやいやいや、シリカならあんなに磁石にはくっ付きませんよ?
つまり神津島の白い砂(流紋岩)の主成分が「シリカ」なのでしょう。
では大島の黒い砂の成分分析については?
どこにも展示がありません。
資料館の職員の方に、大島の黒い砂に含まれる鉄分量がかなり多いことを告げたところ、
「はい、黒い砂も玄武岩も、磁石にくっ付くんですよ」
と、その場で小さな磁石を用いて黒砂が吸着する様子を見せて下さった。
(え?磁石が置いてあったの~?)
館内の展示物はもちろん「お手を触れないで下さい」。
…つまり居合わせた職員の方に直接お聞きしない限り、
「黒砂の鉄の含有量が高い」ことが分からないシステムだ。
これでは見学者が「あの黒い砂、シリカなんだぁ〜、ふ〜ん」と誤解して通り過ぎてしまう。
(最近はシリカも健康成分として需要が高まっているようだが…シリカゲルだよ?)
これまでも旅先の史料展示で何度も経験してきた。
「分かりにくい展示」ではなく、多くの人に認知して欲しくない内容は
「展示されていない」のだ。
今回、丁寧に接して下さる大島郷土資料館の職員Kさんには、別の質問をさせて頂くことに。
「三原山」山頂遊歩道脇の砂鉄と、「砂の浜」の砂鉄。
両者を見比べると砂の粒の大きさが異なり、
「砂の浜」の方が大きく見える。
「三原山から流出して浜に辿り着いた溶岩から成る砂ならば、砂の浜の粒の方が小さくなると思いますが、逆なのは何故でしょうか?」
対するKさんのご意見はこうだ。
「海岸にある砂は全てが三原山から流れて来た訳ではないと思いますよ。
例えば海底の岩が削れて波で打ち上げられたものも含まれると思います。」
確かに。島全体が火山島のこの島ならば有り得ることだ。
* * *
トウシキ海岸
その後、私たちは島の南側、トウシキ海岸へ移動。家族の一員が「ちょっと泳いでみたい」とのことで…。
ここは砂の浜と違い、至る所に溶岩がゴロゴロ。
なるほど。海岸や海底の玄武岩が砕けて波で浜に上がり、黒い砂になるものもあるだろう。
郷土資料館を出て約1時間後、Kさんからわざわざお電話を頂いた。詳しい方に問い合わせて下さったそうで、
「海岸によって、あるいは1つの海岸の中でも採取場所によって、砂の粒の大きさには大小あるそうですよ」
とのこと。
Kさん、最後まで真摯に対応して頂き大感謝です!
大島にはご親切な方が多いなぁ…(ジ~ン)。
* * *
ファイナル・ミッション
帰りの船に乗る前に、再び砂の浜へ。
名物「大島牛乳プリン」のカップに黒い砂を入れ持ち帰らせて頂きました。
(島の物を持ち帰って大丈夫か?念のためネットで検索したところ、特に問題なさそうでした)
という訳でファイナル・ミッションは自宅にてスタート。
黒い砂は全部で178g。
砂の上に磁石を載せました。
1度で2gの砂鉄が吸い着きます。
この調子でしばらく続けていきます。
殆どくっ付かなくなったところで終了。
どうやら「黒い砂が全て鉄」という訳ではないようです。
が、吸着した砂(左)は圧倒的に黒砂です。
白い粒も若干混じりましたが、これは静電気でビニール袋にくっ付いて混入した模様。
対する吸着しなかった砂(右)は白い粒が目立ちます。
ではそれぞれの重さを測定。
【140 : 38】という結果に。
x:100=140:178
×=14000÷178
×=78.6516…
【結果発表】
砂の浜の黒い砂のうち、
なんと《約79%が砂鉄》
という結果が出ました!!!
* * *
なぜ鉄の含有量が多いのか?
約79%が砂鉄、というのは玄武岩の定義とは異なります。
日本の玄武岩は島弧玄武岩です。
なぜ大島の黒い砂はこれほどまで多くの鉄が含まれるようになったのでしょうか?
ここから先は専門家に委ねるところですが…
長い年月をかけて何かの理由で鉄分を多く含む黒砂が堆積されていった、
ことになるのでしょうか。
これも自然の成せる業、まさしく《神の御業》なのでしょう。
* * *
大島に製鉄遺跡は?
これだけ砂鉄があるにも関わらず、大島に製鉄遺跡はありません。
紀元前から大島は近隣諸島と交易を行っていたことは分かっているのですが…なぜでしょう?
大島は古来から噴煙・噴火が多く、とても製鉄が営める環境ではなかったのでしょうか?
あるいは古代の人は優れた鉄製品を作るため、砂鉄ではなく鉄鉱石から製鉄することを既に知っていたのでしょうか?
今回、訪れることができなかったのですが、島の東側にはかつて役小角が幽閉された伝説が残る洞窟があります。
小角は夜ごと洞窟を抜け、海を渡り富士山へ登り、また翌日には洞窟へ戻る、悠々自適な流刑ライフを楽しんでおられたようです。
彼が履いていた鉄の一本歯の高下駄は、どこで特注されたものなのでしょう?
小角、製鉄、富士山…謎は尽きることがありません。
* * *
おまけ
大島旅行の第一の目的は、実は乗馬でした。
ここでは馬に乗るだけではなく、エサをあげたりブラッシングしながら馬とコミュニケーションする「ホースセラピー」が楽しめます。
歴史ドラマや映画に出て来る馬は大きくて立派ですが、実際に戦場で活躍した馬は小型。日本人の平均身長も昔はずっと低かったのですね。
馬を操り丈夫な鉄製の刀を振るう者が、歴史の勝者に。
平和な時代に生まれた私たちは、たいへんラッキー。
ご先祖様たちに感謝して…
のんびりこの世界を楽しみたいものです。
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