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ファンド分析 為替ヘッジの有無とリターンの関係性

1. はじめに 

 投資信託を眺めていると時々、同一ファンドで「為替ヘッジあり・なし」という表記を見かけます。今回はファンド運用手法としての為替ヘッジについて整理します。 

2. 為替ヘッジの目的とコスト

 為替ヘッジの目的は日本円で外貨資産に投資する際の為替変動(円安・円高)の影響を受けないようにすることです。外貨建て資産に投資している投資信託の基準価格は対象の価格変動以外にも為替の影響を受けます。 

 S&P500が上昇しても為替が円高に振れた場合には日本円換算で計算されるファンドの価格は下落するケースがあります。これが為替の影響でこれを回避するのが為替ヘッジです。 

 為替ヘッジは一見すると良さそうですがデメリットも存在します。それは「ヘッジコスト」の支払いです。為替ヘッジにはコストが発生します。為替ヘッジのコストは対象通貨の金利差に依存します。

 日本はゼロ金利で米国は昨年から急速に利上げを進めてきました。よってドル建て資産の為替ヘッジコストは1年間で急激に増加したことになります。為替ヘッジありのファンドを購入する場合はコストに見合った効果が期待できるかを吟味する必要があります。

 とはいえ、長期投資が前提の個人投資家の場合、為替ヘッジは不要です。統計的にはヘッジコストは長期リターンを大きく棄損する結果となることが証明されております。外貨建て資産への投資では為替リスクは受け入れるべきリスクであり、無理に回避するものではありません。 

 ではなぜ為替ヘッジありの商品が存在しているのか。それはヘッジありのファンドを購入する投資家が存在するからです。販売側の金融機関としても顧客ニーズに合わせて選択肢が増えます。言い方は悪いですが投資家の無知に付け込んでいる面がないとは言えません。 

 短期で為替の影響をヘッジする目的での為替ヘッジには意味がありますが、長期投資で資産を増やす投資信託の場合には為替ヘッジは不要です。よって投資信託と為替ヘッジは手段と目的が一致していないと言えます。

 投資信託ではなく、短期売買の為替変動をカバーする目的で利用すべきです。商品の設計上、為替ヘッジを利用しているファンドは例外です(レバレッジ系投信など) 

 実際にネット証券で主流のノーロードの激安信託報酬のファンド(eMAXIS SlimやSBI Vシリーズ)には為替ヘッジありは存在しません。長期投資において為替変動は許容すべきリスクと言えます。 

 為替ヘッジの是非に関しては検索すると色々と出てきますが参考になりそうなレポートのリンクを1つ紹介します。分量は多くないので一読ください。

  

3. 為替との向き合い方

 為替ヘッジの目的は為替変動の影響を回避することですが、長期投資が前提の投資信託との相性が悪いことが分かりました。そこで別の方法で為替変動との向き合い方を検討します。

 日本人として日本に生まれ、日本で生活していると意識しませんが、資産は複数の通貨に分散させた方が良いです。日本人が意識せず日本で生活していると資産は日本円に偏ります。

 日本円で給与を受け取り、日本円で銀行に預金をして、日々の生活では日本円で決済しています。全て日本円で完結しています。しかしながらグローバルで見た場合、日本円が占める割合はそれほど大きくありません。

 基軸通貨は米ドルであり、昨今では人民元の存在感が一部地域で高まっています。為替市場における通貨動向に関しては下記のレポートが参考になりました。 

2022年BIS世界外国為替市場調査について(公益財団法人 国際通貨研究所)
https://www.iima.or.jp/docs/newsletter/2022/nl2022.27r.pdf

 調査レポートによると、外国為替市場取引額の通貨別シェアは、1 位が米ドル、2 位がユーロ、3 位が日本円、4 位が英ポンドという順位であり、日本円はいいポジションのように見えますが、油断はできません。

 近年は人民元の伸びも大きく、経済成長率とGDPの影響を受けるため、将来的にはインドルピーの増加も予測されます。とはいえ、現時点において日本円は優良な通貨であることは間違いありません。であれば日本人はこの利点を利用すべきです。

 外貨を獲得する方法として利用しやすいのは銀行の外貨預金です。メガバンクではなくネット銀行を利用することで為替コストを抑えることができます。ネット銀行では様々な通貨の取引が可能ですが本稿では米ドルを前提に話を進めます。FXでノーレバ・現引きという手段もありますが、一般的ではないので割愛します。 

 為替ヘッジを用いず為替変動を上手く活用する方法は長期目線で現物をコントロールすることです。為替は短期的に上下に大きく変動することがあります。2022年はドル円相場が大きく動きました。戦略は単純で統計的に見て大きく円高に振れたタイミングでドルを調達し、円安の状態ではポジションを維持します。 

 外貨への投資を考えた場合、①外貨で外貨建て資産に投資する方法、日本円で外貨建て資産に投資する方法があります。②は投資信託を利用した外貨建て資産への投資です。(S&P500など)

 ②の場合は常に為替の影響を受け、自身でコントロールする余地はありません。①の場合は自身でコントロールできる余地が生まれます。為替変動自体はどうしようもできないので「タイミング」のみ自身でコントロールできます。 

 外貨で直接投資する方法は二段階の手順を踏みます。最初に円を外貨に交換するタイミングを調整します。これは円高のタイミングを狙います。次に外貨で資産を購入するタイミングです。これは昨年のように対象の価格が値下がりしたタイミングを狙います。

 難易度は上がりますが、円高で調達した外貨をタイミングよく指数が下がったタイミングで投資できると、大きな投資効果が期待出ます。 

 上記が上手くいけばベストですが、円高のタイミングでドルを調達してドル建てMMFでポジションを維持しておくだけでも通貨分散の効果は期待できます。加えて現在であれば3.8-4.0%程度の金利も期待できます。そこそこの金利を得つつ、投資対象が適切な価格まで下がるのを待つだけでOKです。 

 尚、例外的な運用として敢えて外貨建ての損失を計上する場合は円安のタイミングでMMFを購入し円高のタイミングで売却します。これによって外貨ベースでの損失はゼロで日本円換算の損失を計上することが可能で、特定口座内の利益と損益通算が可能であり、ポートフォリオの整理等に活用可能です。詳細は下記の記事を参照ください。

 外貨建て資産を外貨で保有することの意義は通貨分散にありますが、長期目線では日本という国に対するヘッジとなります。日本の経済成長率の停滞・少子高齢化の加速は周知ですが、このままの状態が続くと世界3位の通貨のポジションを維持することは不可能です。円の価値は相対的に低下を続けます。 

 投資の世界では自国を過大評価することを「ホームカントリーバイアス」と呼びます。日本円に過度に依存することはホームカントリーバイアスに他なりません。

 全世界における日本株のシェアは6%程度です。仮にポートフォリオの50%を日本株が占めていたらホームカントリーバイアスの影響を強く受けている状態であり、見直しが必要です。 

 通貨も本当は米ドル以外にも複数通貨への分散が好ましいですが、利便性・調達コストを考えると米ドル以外の通貨の保有は難しいのが現状です。よって、まずは米ドルから通貨分散を開始し、金融機関の対応状況や経済情勢を見つつ他通貨の保有を検討すれば良いです。 

 米ドルの調達方法ですが住信SBIネット銀行の利用がお勧めです。理由は2点あります。まずネット銀行なので為替コストが安いです。片道6銭で積立の場合は3銭です。

 2点目はSBI証券に外貨で直接入金可能な点です。これは他の証券会社・ネット銀行には無いメリットです。外貨入金サービスが利用できるため、証券会社のバカ高い為替手数料が不要となります。 

ここまでの手順を整理すると以下となります。

1.       円高タイミングで住信SBIネット銀行で米ドルを調達
2.       外貨入金で米ドルをSBI証券に入金
3.       SBI証券で米ドル預り金を米ドルMMFに転換
4.       S&P500などが割安になるまでMMFでポジション維持
5.       タイミングを見てMMFを解約しVT・VTI・VOOなどを購入

 正直、日本円で投資信託を積み立てる場合と比較して手間がかかりますが、やってみる価値はあります。尚、為替のタイミングを見極める必要がありますので最初のドル調達のタイミングも一年に一度くらいと考えた方が良いです。短期で全てのプロセスを完結させることは不可能なので数年を目途に考えてください。 

 投資はロングゲームであり短期で成果を得ようとすると、どこかで歪が生じます。焦ってポジションを構築しようとすると為替のタイミングを誤ったり、割高なバリエーションで投資してしまうことになります。

 よって脳死で運用可能な投資信託の積立と併用することで長期においては資産の通貨分散とリターンの改善が期待できます。上記の手法は積立と異なり、為替のタイミングと資産価格のタイミングの両方をアクティブに調整する前提であるため、難易度は上がりますがリターンの向上が期待できます。 

 話を為替ヘッジに戻しますが、ヘッジコストを支払うくらいであれば為替変動を長期目線で味方に付ける手法を活用した方が良いのではないかという提案です。昨年のように30円以上も為替相場が動く場合は為替だけでリターンが25%程度は変化します。そこに資産価格自体の変動も加味すると更にリターンの変動が大きくなります。 

 私はリスク資産の約35%をドル建てで保有しています。このポジションは数十年維持する予定で円に戻す予定はありません。将来、1ドル=300円くらいになった場合に役立つかもしれません。 

 老後の日常生活に必要な資金は円建て資産の売却等で調整すれば良いと考えています。来年からはNISA枠が1,800万円に拡大するのでそちらも上手く活用することで将来資金の確保は容易になりそうです。

 ちなみに新NISAは資産管理会社との併用で上手く活用するとこで資産形成を活用できそうなので別の機会に取り上げたいと思います。

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