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ステーブルコインの需要はあるの?


1. はじめに 

 本稿ではステーブルコインの概念、現在の市場動向、および個人にとってのその意義に焦点を当てます。法改正により様々なステーブルコインの発行が計画されていますが、本当にステーブルコインに需要はあるのでしょうか?

 本稿ではその問いに対して仮説を提示します。ステーブルコインは個人向け・法人向けの用途が想定されますが本稿では個人向けにフォーカスします。 

以下は参考記事です。

2. ステーブルコインは誰が利用するか?

 ステーブルコインは特定の資産を裏付けとしたデジタルマネーです。(本稿では法定通貨を裏付けとしたステーブルコインを前提に話を進めます)ステーブルコインは仮想通貨の基盤となる技術を用いながら法定通貨を裏付けとすることでコインの価値を確かなものとしています。CBDCの民間版という立ち位置です。 

 お金は「現金・銀行預金・電子マネー」など様々な形で流通しています。広義の決済手段まで含めれば、●●payやクレジットカードなども含まれます。多様な決済手段が既に存在する現状においてステーブルコインがどのような意義を持つかを考えます。 

 ステーブルコインは法定通貨の裏付けを持つことから、裏付け資産が存在しない仮想通貨とは一線を画します。とはいえ、仮に1SC=1円であれば、現金や銀行預金・電子マネーではなく敢えてステーブルコインを保有するインセンティブはありません。 

 個人の生活にフォーカスすると固定費は銀行引落としかクレジットカードの引き落としが一般的であり、日々の支払いに関して高額商品はクレジットカードで、少額は電子マネー・●●payの利用が多い傾向にあります。 

 若年層を中心に現金をほぼ使わない層も一定数存在し、現金決済しか利用できない店舗での買い物など出番は限定的です。私も日々の支払いは可視化と集約を目的にクレジットカードが中心であり、現金は現金決済オンリーの飲食店などで利用する程度です。 

 日常生活における支払いは既存ツールでカバーできていると評価できます。だとするとステーブルコインはどのような場面で利用されるのでしょうか? 

 既存の決済手段と比較するとコンシューマー向けステーブルコインは電子マネーや●●payに近いサービスと評価できます。電子マネーの場合は現金→電子マネーの一方通行で電子マネーを現金に戻すことは出来ない等の違いはありますが、現金が形を変えたモノという立ち位置です。 

 電子マネー・●●pay・ステーブルコインはどれも現金をベースにチャージする点が共通です。これらはクレジットカードと異なり、決済が即時という点においても共通しています。3つの決済手段は適用される法律が少し異なることで運用ルールが異なりますが大枠では似た性質を持つ決済手段と評価できます。 

様々な決済手段と比較されるステーブルコインのイメージ

 ではこのような特徴を持つステーブルコインを誰が・どのような場面で、利用するのでしょうか?実はこの根本的な問いが最も難しい問いでもあります。従来、ステーブルコインは仮想通貨の決済に用いられてきました。 

 とはいえ仮想通貨取引の媒体というユースケースは一般向けではありません。マス向けのユースケースを新たに開拓する必要があります。この場合、既存の決済手段と競争になります。よって既存決済手段と比較した明確なメリットが必要となります。 

 ではステーブルコインのメリットが何かを考えます。 

 実はステーブルコインには明確なメリットはありません。強いて言えば送金手数料の節約です。(確定ではなく可能性の話です)ステーブルコインは民間事業者が運営しますので慈善事業ではありません。どこかで収益を確保する必要があります。 

 当然ながらステーブルコインの発行・管理・決済のインフラを維持するにも費用が掛かります。加えて関係する事業者の利益を上乗せし、既存決済手段よりも便利なサービスを組み込む場合には相応のコストが発生します。 

 表面的にはコストは事業者が負担しているように見えますが、最終的な負担は利用者です。当社は利用者獲得のキャンペーン等が実施されると思われますが、どこかのタイミングで回収フェーズに突入します。 

 直近のPayPayなどの●●payの改悪がわかりやすい事例ですが当初のお得な仕組みは持続困難な大盤振る舞いであったことが証明されました。決済インフラの構築には膨大な投資が必要であり、利用者の獲得にも膨大な投資が必要です。 

 PayPayの累積損失額を見ると分かりますが、ざっくり1,000億円単位の投資は最低限必要であり、初期投資以外にも一定のランニング費用が継続的に発生するビジネスモデルです。

 様々な決済手段が乱立することで手数料競争が加速し、事業者のマージンはより薄くなります。結果として誰も(ほとんど)儲からないビジネスになるかもしれません。利用者にとっては逆に有難いことです。 

 ステーブルコインは実体としては払い戻し可能な電子マネーに過ぎないため、新しい決済需要が生み出されるわけではありません。電子マネー・●●payとの喰い合いが生じるだけです。 

 可能性として外国人の決済手段として普及するかもしれないというユースケースが考えられます。訪日外国人は増加傾向にありますが、日本は外国人にとって便利な決済インフラが整っているとは言い難いです。 

 主要な施設ではクレジットカードが利用できますが、外国人でも気軽に利用できる電子決済サービスが不十分です。外国人でも利用可能な現金・クレジットカードに代わる第三の決済手段としてステーブルコインが位置付けられれば普及しそうな気がします。(まずは観光地から) 

外国人の決済手段として利用されるステーブルコインのイメージ

3. ステーブルコイン普及するか否か?

 前章で外国人の利用可能性について触れましたが、机上に過ぎません。精緻に検討したわけではなく、直感的にイケるかもと思った次第です。日本人のユースケース発掘よりは外国人向けの方がハードルが低いと感じたに過ぎません。 

 前章ではステーブルコインの流通に向けたインフラ構築に多額の費用が必要と説明しましたが。自前で新規構築する場合は多額の費用が発生しますが、既存インフラに相乗りする形であれば初期投資は抑えることが出来ます。 

 代わりに利用料を他の決済インフラに支払うことになるので長期で見てどちらが得かは一概には言えません。懸念点はトランザクション処理が従来の決済インフラと異なる点です。

 ブロックチェーン基盤(特にパブリック)を利用した決済処理の場合、従来のトランザクション処理とは異なる点に注意が必要です。 

 処理の取り消しが分かりやすい事例ですが、ブロックチェーン基盤のトランザクションには原則として取り消しは存在しません。(プライベートの場合は別)しかしながら一般的な決済では取り消しは普通に発生します。 

 反対トランザクションでマイナス処理すれば問題はありませんが、従来型のシステムと処理方法が異なる点には注意が必要です。加えて処理性能についても整理が必要です。

 VISAなどの既存の決済システムと比較するとステーブルコインの決済処理能力は劣ります。決済ボリュームが小さなうちは問題ありませんが、将来的な課題です。 

 現時点でステーブルコインをインフラ観点から評価した場合、メリットはありませんが、壮大な社会実験としてはやる価値があると考えます。

 本稿で述べた内容も全て机上であり、実際に試してみると想像もできなかった使い方や利点が見つかるかもしれません。社会の発展はそのような挑戦の上に成り立ってきたことを考えると試してみる価値はあります。 

 次に決済サービスとして価値があるかを考えます。新しい決済手段なので既存決済手段よりも利便性が高ければ徐々にシフトが期待できます。

 利便性の観点でステーブルコインを評価すると「現時点」では優位性はありません。ステーブルコインは位置付けとしては払い戻し可能な電子マネーに過ぎません。事業者の創意工夫で+αの機能を上乗せすることは可能ですが、費用対効果が見合うかが分かりません。 

 決済手段に求められる機能はシンプルです。確実な支払い処理に過ぎません。どこでも使えて、安価なコストで決済出来ればOKです。電子マネーや●●Payは特定企業や経済圏への囲い込みに過ぎません。クレジットカードは後払いによる消費の促進です。ステーブルコインはどのような位置づけとなるでしょうか? 

 これがステーブルコインの位置づけを決定づける要素となります。経済圏への囲い込みや後払いによる消費の促進であれば従来の決済手段と比較し目新しい役割はありません。よって独自のポジションを確立するのは困難です。早晩、既存決済手段に飲み込まれ埋もれることになります。

 机上に過ぎませんが、ステーブルコインはグローバルステーブルコインに進化することが出来たときにはじめて独自の価値を有すると考えます。グローバルステーブルコインは以前、Facebookがリブラ(Libra)構想を発表しましたが各国政府と中央銀行の圧力で計画が頓挫しました。 

 逆説的ですが各国が本気で潰しにかかるほど本質に迫っていたとも評価できます。単一ステーブルコインはCBDCや既存決済手段と比較し明確なメリットがありませんが、グローバルステーブルコインの場合、話は別です。 

ステーブルコインの進化系としてのグローバルステーブルコインのイメージ

 価値の保存媒体としても単一通貨と比較して安定している点が優秀であり、世界中の様々な場面での流通が期待できることから決済範囲も問題ありません。為替を意識する必要もなく無国籍通貨として機能すると考えられることから、裏付けが存在するビットコインのような位置づけです。 

 とはいえグローバルステーブルコインには解決しなければならない課題が多く、まずはドメスティックなステーブルコインの普及が必要です。尚、グローバルステーブルコインの場合、法定通貨に代わり安全資産である各国の国債などの可能性もあります。リブラのように主要通貨のバスケットに連動する設計は課題も多いが利便性が高いことは疑いようがない事実です。 

 自国通貨の価値が安定しない途上国の場合、グローバルステーブルコインの方が価値の保存・決済利便性に優れるというケースも想定できます。 

 ステーブルコインの未来はグローバルステーブルコインにあり、というのが私の仮説です。まずは目の前の一歩としての国内ステーブルコインの動向を見守りたいと思います。

 尚、ステーブルコインの将来性に関する仮説は、実際の市場動向や技術的な進歩に大きく依存します。現段階ではその真の価値と普及の可能性は、時間と共に明らかになるでしょう。

 

 

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