仮想通貨税制の改正は必要か?
1. はじめに
2024年10月25日の日本経済新聞で「仮想通貨ETF、ビットコインなど優先 業界横断で初提言」という記事が掲載されました。業界からの提言は、以下の3つの柱で構成されています。
1. ETF対象資産の限定
- ビットコインとイーサリアムへの絞り込み
- 流動性と市場規模による選別
2. 制度整備要望
- 投資信託法における「特定資産」の範囲拡大
- ETFの組入れ対象化
3. 税制改正の提案
- 現行:現物取引の総合課税(最大税率55%)
- 要望:申告分離課税(税率20%)への移行
これらの提言を踏まえ、仮想通貨に関する制度設計の在り方について考察を行います。
2. ETFを認めるべきか
結論から言えば、仮想通貨ETFを認めるべきではありません。この判断の根拠は、以下の観点から導き出されます。
第一に仮想通貨の本質的価値の問題です。現時点において投機的な性格が強い仮想通貨をETFという形で金融市場に組み入れることは、投機の助長につながるリスクが高いと言わざるを得ません。米国でのETF上場は、日本市場における導入の十分条件とはなり得ません。
現行の特定資産は、以下のような収益生成構造や権利を持つ資産で構成されています。(一部抜粋)
- 有価証券(株式、債券等)
- デリバティブ取引
- 不動産関連資産(不動産、賃借権、地上権)
- 金銭債権
- コモディティ
これらの資産は、配当や利子、賃料などの形で収益を生み出すか、あるいは明確な権利を表象するものです。一方、仮想通貨は本質的に電子データに過ぎず、収益生成構造を持ちません。
さらに、ETF化による市場への影響も懸念されます。
- 一般投資家の参入増加
- 本質的理解を欠いた投資の拡大
- 過剰流動性環境下での投機的取引の助長
注目すべきは、金融界の重鎮たちの評価が明確に分かれている点です
・否定的見解
- ウォーレン・バフェット
- 故チャーリー・マンガー
- バンガード
- ゴールドマン・サックス
・肯定的見解
- ブラックロック
- フィデリティ
分散投資の観点からも、仮想通貨より貴金属(金・銀・プラチナ)の現物保有が合理的です。これらの資産は現在高値圏にありますが、少なくとも本質的価値を有する実物資産です。
3. 課税方式の再考
税制については、安易な申告分離課税化は避けるべきです。ただし、現行制度には以下の改善点が存在します 。
1. 仮想通貨間取引の課税タイミング
- 現状の問題:円換算前の課税による納税原資の不存在
- 改善案:円換算時点までの課税繰延検討
2. 申告手続きの合理化
- 現状:税理士でも忌避する複雑な確定申告
- 必要な対応:簡易計算方式の導入
- 目的:確定申告率の向上
3. 所得区分の適正化
- 現状:雑所得での暫定的区分
- 代替案:「生活に必要でない資産の譲渡所得」としての位置づけ
- 参考事例:ゴルフ会員権、絵画、金での取り扱い
- 検討事項:特別控除や優遇措置の導入可能性
具体的には仮想通貨同士の売買においても益が発生した場合に確定申告が必要な点です。仮想通貨同士の取引は日本円に交換していない以上、納税原資が存在しません。この状況においても納税を求めるのは酷であり再考の余地があります。
あわせて確定申告の煩雑さも見直すべきです。仮想通貨の確定申告は税理士でもやりたくない仕事です。投資家の手間を削減し、確定申告率を高めるためには簡易計算や簡易申告の仕組みが不可欠です。
優遇に関しては金の「特別控除50万円」や5年優遇の「1/2(半額制度)」が参考になるかもしれません。アセットの性質上、分離課税での優遇は難しい気がしますが金取引程度のちょっとした優遇は落としどころではないかと考えます。
4. 実務的な対応戦略
現行制度下での効率的な運用方法として、法人形態の活用が有効です。法人活用のメリットは以下の通りです。
1. 税務上の利点
- 所得の統合による損益通算
- 累進課税の回避
- 経費計上の柔軟性
2. 運用上の注意点
- 期末時価評価の影響(特に活発な市場を持つ通貨)
- キャッシュフローと課税タイミングの管理
- 年度跨ぎリスクへの対処
3. 具体的な活用方法
- 株式やFX取引との損益通算
- 不動産事業との連携
- 減価償却等の税務戦略
分離課税化された場合、法人活用のメリットは損益通算の範囲に限定されます。しかし、投機的な性格を考慮すると、現時点での分離課税化は時期尚早と判断されます。
注意点としてはビットコインのような「活発な市場が存在する」場合には期末時価評価が発生する点です。評価額次第では手元にキャッシュが無い場合でも多額の法人税が発生するケースがあるので年度を跨ぐ保有は避け、単年度で売買を完結させる運用が安全です。