AI時代のファイナンシャルアドバイス: Vanguardの先見性とAdvisor's Alphaの役割通じて
1. はじめに
バンガードは日本人投資家には低コストETFのブランドとして認知されていますが、ロボアド(VPAS)や401kの受託など様々なサービスを提供しています。本記事では単なるローコストETFブランドを超えたバンガードについて「Vanguard Advisor's Alpha」を教材に理解を深めます。
以下はバンガード社のAdvisor's Alphaの概要ページです。
2. AIの進化と心の琴線に触れる行動コーチングの力
ファイナンシャルアドバイザーはクライアントに対して運用にかかる様々なサービスを提供します。(アセットアロケーション、モデルポートフォリオの提示、定期的なリバランス提案、手数料の節約、税金の最適化など)本記事ではこの中で「行動コーチング」についてフォーカスいたします。
行動コーチングは異質なサービスです。他のサービスは期待値の数値換算が可能(期待値の●%の向上、●ドルの節税など)ですが、行動コーチングはそうではありません。行動コーチングのポイントは「何もしないこと」です。
マーケットが急変する際、クライアントが不安に陥り不要な売買をしようとすることがあります。このような状況において、当初に合意したルールやマネープランに基づいた判断を促し、クライアントの不当な行動を諫めるのが行動コーチングの主要な役割です。
Vanguard Advisor's Alphaではこの行動コーチング(behavioral coaching)に重きを置いており、ファイナンシャルアドバイザーの役割のなかで特に重要との見解です。私自身、20年以上の投資経験を持つ者としても、この見解に強く同意します。特に今後この傾向はより顕著になると予想されます。
なぜ今後は行動コーチングの重要性が高まるのか?それは高度なAIの普及によって行動コーチング以外のファイナンシャルアドバイザーの担う業務(サービス)の殆どが、将来的にAIによって自動化されるからです。
アセットアロケーション、モデルポートフォリオの提示、定期的なリバランス提案、手数料の節約、税金の最適化などの機能はクライアントとAI FPが会話をすることで最適化された提案が可能です。これは一般的に最適解が存在する課題だからです。
一方で行動コーチングはクライアント(人間)の心・精神が対象であることから普遍的な最適解は存在しません。よって個々のクライアントに応じた対応が求められます。これは感情マネジメントであり、AIではなく人間が得意とする数少ない領域です。
未来のファイナンシャルアドバイザーの生きる道はここにあります。ファイナンシャルアドバイザーが提供するサービスの全体像には変化はありませんが、基本的サービスは主にAIを活用してシステムが提供するようになります。人間のアドバイザーはクライアントの感情コントロールを通じた行動コーチングに注力するようになります。
役割分担としては、理論上の最適解が存在する分野はAIが担当し、最適解が存在しない感情に左右される分野は人間が担当することになります。投資の世界は物理学の世界とは異なるため、一般論として正しい理論が常に当てはまるとは限りません。
市場は概ねランダムウォークですが、ときどき原則から大きく外れた動きをします。それは市場が結局のところ、非合理的な人間の集合体に過ぎず一見すると合理的でありつつも、ときとして感情に左右され非合理的に動くことに他なりません。
仮に投資家心理が物理学の法則のような規則性があれば、アドバイザーによる行動コーチングに付加価値は存在しません。投資家の精神が脆く不安定であるため、羅針盤としての行動コーチングが価値を発揮します。バンガードの創業者であるジョン・ボーグル氏も生前「航路を守れ」と言っています。
よってクライアントのパフォーマンスの最大化には、平時の対応はAIとシステムに一任し、アドバイザー自身はクライアントの感情コントロールに注力することが鍵となります。アドバイザーはメンタルコントロールによってアクセルにもブレーキにもなることで感情に左右された衝動的な取引を回避し航路を維持します。
私は少し前までは、ファイナンシャルアドバイザー(FPとも呼ばれる)は将来的にAIに代替されほとんどが不要になると考えていましたが今は少し違います。将来的にはハイブリッド型に落ち着き、AIと人間の役割分担を前提に高品質なサービスが低価格で提供されるようになります。
従来のFPサービスは時間制で予め単価が決められており、時間×単価で価格が決まっておりました。しかしながらAIの普及により今後はサブスクモデルが普及すると考えます。
アセットアロケーション、モデルポートフォリオの提示、定期的なリバランス提案、手数料の節約、税金の最適化などの基本サービスがAIで対応可能となると人手がほとんど必要なくなります。FPに限らず専門性を有する専門職・士業の方はこれまではスケーリングが困難でした。しかしながら今後はコア・ノンコアを切り分けることで業務の5~8割くらいはAIによる自動化が現実的になります。
人間の専門職の方は付加価値の創出に注力することになります。結果として優秀であることに加え、人間性がより重視されます。コミュニケーション力・関係構築が重要となります。正しいアドバイスを受けても、信頼できない方からの言葉は響かないからです。
3. AIと共に歩む: ファイナンシャルアドバイザーの未来と役割再考
前章では行動コーチングに焦点を当て、アドバイザー業務のコア・ノンコアの分離とAIと人との役割分担などについて整理しました。本章ではそれらを前提にファイナンシャルアドバイザーの未来像を解像度高めで考察します。
アドバイザーの未来像の大枠はAIとの役割分担による効率化とクライアントマネジメント(行動コーチング)による航路の順守です。これを様々な角度から分析します。
ファイナンシャルアドバイザーは厳密な定義が難しい用語であり、日本ではファイナンシャルプランナー(FP)が近い立ち位置ですが、その類型は様々です。仲介業者・代理店として特定の銀行・証券・保険会社に所属している場合もありますし、無所属の方もいます。
また法人格で営業している組織もあれば、個人事業主として独立営業されている方もいます。収益の稼ぎ方も金融機関からのキックバックがメインなのか、クライアントからのフィーがメインなのかで本質が大きく異なります。
ファイナンシャルアドバイザーという用語にはこれら様々な類型が入り交じっていることを認識する必要があります。私が考えるアドバイザーの未来像での主役は「無所属(独立系)・個人事業・クライアントモデル」に合致するアドバイザーです。
まず初めにはっきりとさせるべき点として、アドバイザーは両面ビジネスを展開すべきではありません。金融機関からキックバックを受けつつ、クライアントからフィーを徴収するのは職務の性質上、誠実ではありません。
本質的にどちらか一方の利害を尊重する片方の代理人にしかなれないことを認識すべきです。現状は両面ビジネスを展開する悪質な業者がそれなりに存在します。これらは早急に駆逐されるべきです。
次に個人か法人かですがこれはテクノロジーの発展により、敢えて法人格で営業しなくても個人でもビジネスが可能になった点を評価し個人事業としてのアドバイザーの可能性を見込んでいます。
元来アドバイザリー業務は箱ではなく、中身であるアドバイザー(個人)が重視されてきました。コンサルやアドバイザーは〇〇さんを指名します、というような担当者の指名が日常的に行われています。これまでは資金力・ブランド力がモノを言う場面もありましたが、今後はAIの活用することで法人と個人の格差が縮小します。
無所属とクライアントモデルは同一ベクトルの話なので纏めて整理します。これはアドバイザーは顧客第一主義であれ、という考えです。金融機関のために金融商品を売るのであればアドバイザーではなく、単なる販売代理店です。アドバイザーという肩書を用いると中立的な専門家と言う印象を受けやすくミスリードに繋がります。
アドバイザーの収益がクライアントからのフィーによって支えられることでアドバイザーは金融機関からの独立を果たし中立性を確保できます。この場合、特定の金融機関に所属するのは特定の金融機関に縛られるのと同義であり、デメリットとなります。
数年前に金融サービス仲介業が登場し所属性の呪縛から解放されましたが、アドバイザーが誰を向いてサービスを提供しているかは慎重に見極める必要があります。今年から金融経済教育推進機構が設立され、その一環として「中立アドバイザー制度」が予定されています。
これは金融商品等の販売に携わる金融機関から独立した専門知識を有するアドバイザーを金融経済教育推進機構が認定し、金融教育や資産運用のアドバイスを広く国民に提供しリテラシーの向上を目指す試みです。新年度が開始しました本制度の詳細はまだ公開されていないので別の機会に取り上げたいと思います。
4. まとめ
未来のファイナンシャルアドバイザーは、AIとの共存のもとで新たな価値を創造していくことが求められます。AIがアセットアロケーション、ポートフォリオ管理、リバランス提案などの基本的なサービスを担う中、アドバイザーの役割はより人間固有の能力に焦点を当てる方向へと進化していくでしょう。
特にクライアントの感情を理解し、行動コーチングを通じて彼らの長期的な金融目標達成を支援することが、ますます重要になります。高度なAIの普及が進む中で、アドバイザーはテクノロジーを駆使しながらも、人間ならではの洞察力、共感力、倫理観を活かし、クライアント一人ひとりのニーズに合わせたパーソナライズされたアドバイスを提供することが求められるのです。
ファイナンシャルアドバイザーは既に取引の実行や判断支援といった複合的なサービスを提供していますが、この変革期を通じて、クライアントに対するより深い理解と関係の構築によって、その役割と価値をさらに深めていくことができるでしょう。適応と進化を続けることが、未来におけるファイナンシャルアドバイザーの成功への道となります。