オルカン競争の新局面:最安コストと投資家の選択(コスト差0.04%が示唆する市場構造の変化)
1. はじめに
現在、オルカン(全世界株式)は、信託報酬0.05775%水準で三菱UFJ、野村、日興の3社が競い合っています。純資産残高では、三菱UFJのオルカンが圧倒的な優位性を保持しており、2024年10月28日時点で4.5兆円を超える規模となっています。
直近の純資産伸び率を見ても、三菱UFJの元祖オルカンが圧倒的な強さを示しており、今後もシェア1位を維持すると予想されます。しかし、私は野村アセットの「野村-はじめてのNISA・全世界株式インデックス(オール・カントリー)」(以下、はじカン)の動向に注目しています。本稿では、はじカンが今後、三菱UFJの元祖オルカンに追いつく可能性を検討します。
2. はじカンの総経費率の優位性
結論から述べると、野村の「はじカン」には、三菱UFJのオルカンを逆転する可能性が若干ながら存在すると考えています。野村アセットが公開している各社オルカンのコスト比較によれば、はじカンは三菱UFJのオルカンよりもトータルコストで優位性を持っています。
特筆すべきは、総経費率0.07%という数字です。通常、投資信託の第一期決算ではコストが膨らむ傾向にあるにもかかわらず、野村は極めて低いコスト水準を実現しています。確かに、野村は約11か月という短い期間で一期目を計算していますが、その点を考慮しても三菱UFJのオルカンよりも若干安い水準を達成しています。
三菱UFJのオルカンは、長年の運用実績と巨大な純資産規模を持つにもかかわらず、信託報酬以外の諸コストが野村を上回っている点は注目に値します。
3. 市場競争の現状と展望
普通に考えると、このコスト差は今後も維持される可能性が高いと考えられます。eMAXIS Slimシリーズは総コストでの競争を標榜していますが、野村のコスト優位性に対して具体的な対抗措置を講じていません。信託報酬の引き下げや諸コストの削減についての方針も明確にされていません。
この背景には、野村のはじカンの純資産が現時点で約350億円と、三菱UFJのオルカンの1/100以下に留まっていることが影響している可能性があります。規模の観点からは実質的なライバルとみなされていないのかもしれません。
しかし、この判断は経営的には合理的でも、投資家とのエンゲージメント(信頼関係)の観点からは問題をはらんでいます。eMAXIS Slimの主要な差別化要因は最安水準の維持にあり、これまでライバルのコスト引き下げに追従してきた経緯があります。最近の対応の鈍化は、市場支配的な立場からの慢心とも受け取られかねません。
4. 投資家の選択と市場の展望
この状況は野村にとって機会となる可能性があります。私自身、2024年8月以降、新規積立のオルカンを三菱UFJから野村に変更しました。投資家として、わずかな差異であってもより有利な条件を追求するのは当然の判断です。同様の選択を行う投資家は確実に存在すると考えられ、実際に夏以降のはじカンの純資産伸び率には加速傾向が見られます。
三菱UFJが現状を維持したまま来期を迎えた場合、様子見をしていた投資家の一部が野村への新規積立の変更を決断する可能性があります。三菱UFJにとって、収益性の観点からこれ以上のコスト引き下げは避けたい状況でしょうが、対抗措置を講じない場合、既存投資家の信頼を損ない、資金流入の鈍化や資金流出のリスクに直面する可能性があります。
0.04%程度のコスト差への投資家の反応は、一見些細に思えるかもしれません。しかし、現代のSNSや動画サイトを通じた情報拡散の影響力を考慮すると、決して無視できない要素となり得ます。投資系インフルエンサーが一斉に「三菱UFJのオルカンはオワコン、これからは野村のはじカンがベスト」という主張を展開した場合、市場の潮目が変わる可能性も否定できません。
このような市場動向は、インデックス投資における競争の新たな局面を示唆しています。超低コスト競争が限界に近づく中、投資家との信頼関係構築や情報発信の重要性が増していくことが予想されます。
5. まとめ:投資の本質と実践的な選択
本稿では、オルカン間の僅かなコスト差について詳細な分析を行いましたが、ここで投資の本質に立ち返る必要があります。長期投資において最も重要な要素は、何よりも投資の継続です。
以下の点を特に強調したいと思います
1. 継続投資の重要性
- 長期的な複利効果の実現には継続性が不可欠
- わずかなコスト差よりも投資の習慣化が重要
- 市場変動に惑わされない投資姿勢の維持
2. 投資家のリソース配分
- 投資に割ける時間や労力は投資家によって異なる
- 頻繁なトレンド分析や商品比較が困難な場合も多い
- 安定性と継続性を重視した選択の重要性
このような観点から、投資に多くの時間を割くことが難しい投資家にとっては、三菱UFJのオルカンによる積立投資の継続が、最も確実な成果につながる選択となる可能性が高いと考えられます。実績、安定性、そして運用の継続性という観点で、十分な信頼性を有しているためです。
本稿で展開した分析は、主として以下のような投資家に向けた考察となります。
- わずかなコスト差も重視する投資家
- 定期的に市場動向をチェックできる投資家
- 積立先の変更に伴う手続きを厭わない投資家
投資の成功は、個々の投資家の状況や選好に合った戦略を選択し、それを着実に実行することにかかっています。コスト最適化は重要な要素ですが、それ以上に投資の継続性を確保することが、長期的な資産形成の鍵となることを忘れてはなりません。
最後に強調しておきたいのは、本稿の分析はあくまでもコスト効率を追求する投資家向けの考察であり、すべての投資家にとっての最適解を示すものではないという点です。各投資家が自身の状況を踏まえ、最適な選択を行うための一つの視点として活用していただければ幸いです。