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r>gと経済格差

1. はじめに 

 今から10年前の2013年に「r>g」で有名なピケティの「21世紀の資本」が刊行され、2014年以降、各国で翻訳版が出版されました。「21世紀の資本」は膨大な過去のデータから歴史的な特徴として「r>g」を証明しました。

 注意点は数学的に証明したのではなく、過去の膨大なデータを参考に「歴史的」に証明したという点です。 本稿では「r>g」が今も、そしてこれからも有効かどうかを整理し、投資家はどのように振る舞うべきかを考えます。

 一般に「格差」は「悪」として扱われることが多いですが、格差とは言い換えると「違い・差異・差分」に過ぎません。

 それこそ歴史を俯瞰すると古代から格差が存在しなかった時代・地域は存在しません。格差自体は悪ではなく、単なる事象に過ぎないと考えを改めた方が良さそうです。 

 ※「21世紀の資本」ではrは資本収益率を指しますが、本稿では少し広い意味で用いており「資本収益」そのものを指す形でも用います。gも同様に経済成長率を指しますが「労働資本・労働所得」も含む形で用います。 

2. r>gの今と未来

 ピケティが「21世紀の資本」で結論付けたr>gは10年後の2023年においても変わりません。これは資本主義が続く限り継続します。世界大戦のような有事が発生した場合には過去同様に一時的にr>gは成立しなくなりますが、平時においては有効です。 

 次に今後もr>gが有効かを考えます。仮に今後は株主利益を重視しない経営がスタンダードになった場合にはr>gが成立しなくなる可能性が存在します。r>gの前提として利益の追求が背景にあります。 

 これは資本主義の本能であるため、簡単に覆ることはありませんが万が一、収益以外の要素を重視する経営がスタンダードとなった場合にはr>gの不等式は成立しなくなります。

 具体的には労働分配率の急激な上昇です。これまでの数十年間はグローバル化・技術革新によって労働分配率が低下傾向にありました。仮にこれが逆回転しだした場合、r>gもまた逆転する可能性があります。

 しかしながら資本主義自体が資本を有する側がルール設計する世界であるため、このようなシナリオの実現可能性は低いと言えます。よって今後もr>gは引き続き有効と考えます。  

3. 投資家と経済格差

 良い・悪いは別としてr>gが資本主義の基本であることを投資家は理解する必要があります。投資家は経済格差の是正を意識する必要はありません。それは国・政府の課題であり、投資家は自身の資本収益の最大化を目指すべきです。 

 格差というと「是正すべき」という議論が盛んになりますが、政策で一時的に是正しても資本主義のメカニズムによって次第に拡大します。

 社会全体としてフラットを目指すのであれば共産・社会主義へのシフトが必要ですが、経済全体が縮小・疲弊・腐敗し社会全体として貧しくなるリスクが増大します。 

 「資本主義は最低だが他に比べればマシ」と言われる通り、欠陥を抱えた仕組みですが原理原則を理解しルールに従い、効率的に攻略すれば投資家としては特に問題ありません。

 多くの方は資本主義の原理原則を理解しないまま経済的な不満を表明していますが、それはルールを知らずにスポーツをするのと同じくらい無謀なことです。 

 宝くじに当選したなどの例外を除くと、経済格差は過去の行動に起因します。原因と結果がストレートに経済格差となって表れているに過ぎません。子供は前提が異なりますが、大人の経済格差は自身の選択の結果に過ぎません。 

 重視すべきは格差の増減ではなく、ボトムアップに尽きます。人類史を振り返ると過去数百年は圧倒的に生活水準が上がりボトムアップが実現されてきました。(この辺りはFACTFULNESSを参照ください)

 絶対的貧困の総数は大きく減少し、次第に相対的貧困をどうするかに論点が変化しました。しかしながら相対的貧困は基準値との比較なので、どれだけ社会全体が底上げされてもゼロにすることは困難です。 

 格差と貧困は同時に語られることが多いですが、本質的には別物です。格差自体は無理に是正しようとしても仕組みとして埋め込まれており無意味です。貧困も相対評価を続けている限り格差同様に解消されることはありません。 

 ベースの底上げによる最低限の生活の保障が実現されれば格差は結果に過ぎません。投資家はただルールを理解し最適な行動を選択し続けるだけです。

 投資家はrの最大化を目指しつつ得た収益の一部を適切に納税すればその責務を満たしていると言えます。税の徴収・再配分を含めた格差是正のアクションに責任を負うのは投資家ではなく国・政府に他なりません。 

 一部では世界の富の多くが上位1%の富裕層によって独占されているという批判がありますが、富の独占は程度の差はあれ歴史上、当たり前の事象であることを「21世紀の資本」では示しています。過去と比べて貧富の差が拡大しやすくなった背景は技術革新に尽きます。 

 現在は様々な方法で生産性にレバレッジをかけることが容易になりました。結果としてGAFAのような国家に匹敵する規模の超大企業が誕生しました。昨年登場したChatGPTのような生成AIの普及によって今後は更なるレバレッジ格差が生じると考えます。 

 例えばイーローン・マスクやジェフ・ベゾスは超一流のビジネスマン・起業家です。彼らが超富裕層である理由は「社会にもたらした付加価値」の総量に起因します。

 本来は人間一人で生み出せる付加価値には限界がありますが「先端IT技術」を活用することで大きなレバレッジを掛けることが出来ます。巨額の個人資産は社会全体に大きな付加価値を生み出した結果に過ぎません。 

 現在は付加価値のレバレッジ効果により経済格差が生まれやすい状態にあることは事実です。しかしながらそれを否定しても仕方ありません。

 投資家はそれぞれの時代における資本主義のルールをよく理解し、適切にゲームをプレイすることが求められます。 

4. 各ステージにおける資産運用とr>g

 r>gは資本主義の原則の1つですが、効果の度合いは時代に応じて異なります。直近20年はグローバル化の加速、技術革新などの影響でr>gが強めに作用した時代です。

 ピケティが提案するローバル累進課税の強化のような政策が実施されない限り、今後もr>gは強めに作用すると考えられます。それは前章で示したレバレッジの影響です。 

 gの収益性はrに劣りますが、rを育てる種銭としてgは必要不可欠です。r>gは一般論であり、人的資本が未熟な若いうちは自己投資を優先することでg>rという状態を生み出すことも可能です。 

 投資家としての資産形成の第一歩は稼ぐ力の強化であり、gを育てることです。gが一定レベルまで成長したらgの一部を資産運用に充ててrの獲得を目指します。

 最終的にr=gの段階まで到達することで経済的な自立を実現できます。r>gの状態であればいつリタイアしても問題ありません。俗に言うFIREの達成と言えます。 この段階までが投資家としての前半戦です。

 後半戦はrを活用した自由な人生の過ごし方・DIE WITH ZEROの実践となります。前半戦は資本主義社会における経済的な隷属状態からの脱出であり、後半戦は資本を背景とした自由な生き方の実現です。 

 前半戦の突破がゴールとなってしまう投資家が多い状況ですが、前半戦は後半戦に進む為のステップに過ぎません。投資家は経済的自立を背景とした「自由な生き方の実現」をゴールに設定すべきです。間違っても3億円貯めることをゴールに設定しないように注意してください。 

 世の中では前半戦の攻略に注目が集まっており、節約や運用については様々なメディアが取り上げていますが、後半戦にフォーカスした体系的な情報は不足しています。 

 「DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール」は経済的自立達成後の後半戦に貴重な示唆を与えてくれる一冊であり、全投資家必読です。DIE WITH ZEROで紹介されている考え方の中で自身が受け入れやすいものだけを実践するだけでも効果は十分かと思います。 

 下記の投稿でDIE WITH ZEROを含め大変勉強になった書籍を紹介しておりますのでご参考ください。

 後半戦の運用資産にフォーカスした書籍であれば「つみたて投資の終わり方 100年生きても大丈夫!: 人生後半に向けた投資信託の取り崩しメソッドを解説!」もお勧めです。資産の取り崩しをメインのした書籍であり、DIE WITH ZERO実践手段の1つと位置付けることも可能です。 

 今後は新NISAを通じて資産運用がより一般的になります。すると自然と次の段階へと進むことになります。どう資産を貯めるのかから、貯めた資産をどう使うかにシフトします。

  貯蓄という行為と消費という行為は心理的に大きく異なります。消費のトレーニングが不十分な投資家はいつまでたっても貯蓄を辞めることが出来ません。

 しかしながら人生は有限であるため投資家は貯蓄モードから消費モードへのシフトを意識する必要があります。

 どのタイミングから消費モードの投資家にシフトするかは生活スタイル・価値観次第ですが、事前に目標数値を定めて達成出来たらスパッとシフトするのが良いと考えます。注意点として消費モードにシフトしても投資は継続するという点です。 

 貯蓄モードは「投資>消費」であり、消費モードは「消費>投資(益)」という関係です。最終的に相続税で国に没収されるのであれば生前に自己の意思に基づいて消費する方が有用です。

 物質的消費でも経験的消費でも贈与・寄付でも何でも構いません。自己の判断に基づいて消費(処分)することが重要です。 

 これまでの金融機関・金融サービスは前半戦の一部しかカバー出来ておりませんでした。これからは従来の金融機関に代わり充実した後半戦をカバーする事業者のニーズが高まります。次世代の金融サービスはこのようなニーズを捉えるサービスになるのではないでしょうか?

 脱線となりますが「21世紀の資本」の続編とも言われる「資本とイデオロギー」が先日出版されました。「21世紀の資本」も相当なボリュームでしたが、「資本とイデオロギー」は前作を上回るボリュームのようです。


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