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芥川さん(20前後)

ランチャを始めた初期に出会ったのが芥川さんだった。

眠たそうなかわいらしい声。

このノートを書いてみようと思ったきっかけになった子だ。

年齢は20手前。

それは夕方くらいの時間だったと思う。

僕「はじめましてー」

芥川さん「はじめましてー」

僕「僕、アラサーの男ですけど大丈夫ですか?」

芥川さん「いえいえ、全然〜」

てな感じでぬるっと会話が始まった

僕「今日は何されてたんですか?」

芥川さん「さっき起きたんですー、ベッドでうとうとしてます」

僕「お仕事大変なんですね、ご苦労さまです」

芥川さん「そーなんです、ほんと大変で。。」

僕「差し支えなかったらどんなお仕事されてるか聞いてもいいですか?」

芥川さん「大丈夫ですよw 動物の飼育をしてます」

僕「ほえー、餌やったりとか?」

芥川さん「はい、そんな感じです」

僕「まだお若いのに大変ですね」

芥川さん「そうですね、もう数年になるけどまだ慣れないですねー」

僕「あれ?高校は?」

芥川さん「途中でやめちゃってー」

僕「あ、すいません。。」

芥川さん「いえいえー、昔の話なので笑」

僕「もし差支えなかったらなんでやめたのか聞いてもよかったりします?」

芥川さん「全然いいですけど、あまり愉快な話ではないですよ?」

そういって彼女は自身の境遇を話し始めてくれた。

彼女はとにかく厳しい環境で育ったみたいで、門限も厳しく宿題を終わらせてからじゃないと遊びにいかせてくれなかったそう。
彼女はそこまで要領がいいほうではなかったみたいで、宿題が終わるともう夕方になっちゃってたそうだ。

芥川さん「やっぱりよく遊べる子の方が仲良くなれますよね。。。」

遊ぶ時間を確保できない芥川さんはクラスからは浮いた存在になってしまったようだ。

小学生も中学生もそんな感じで、あまりいい思い出はなかったそう。

しかし、高校で転機が訪れる。

芥川さん「私歌うのが好きで、合唱部に入ったんですよね。歌ってる間だけはイヤなこと忘れられるから、唯一幸せな時間だったかも。」

高校に入るとコンクールにも出場するようになったそう。

そして彼女はあるコンクールに出たところ、思いがけないことが起きる。

芥川さん「私、そのコンクールに出た後、スカウトされたんですよね」

彼女はそのコンクールに出場していたアイドルグループのマネージャーに目を付けられ、よかったら一緒にアイドル活動してみないか?とのお誘いを受けたそうだ。

厳しい親御さんがアイドル活動を容認してくれた理由までは聞いていないし、もしかしたら秘密にしていたのかもしれない。

とにかく高校に入ってからのアイドル活動は本当に楽しかったみたいだ。

しかし、彼女の人生のなかで大きな課題となる出来事が起きてしまう。

芥川さん「私、家に居場所がなくて。家にいると定期的に(気分が)落ちてたんですよね。」

芥川さん「いつだったけな、高校の頃親と大きな喧嘩をしてしまって。」

芥川さん「そこで私、過去最高に病んじゃって。」

芥川さん「このままだと死んでしまう。って」

芥川さん「そんな大げさなって思うでしょ?でも当時の私にはそれが全てだったの。」

芥川さん「でも私も死にたいわけじゃないから、ない頭を絞って考えたの」

芥川さん「そして、家を出て働くことにしたの」

芥川さん「高校を辞めて、住み込みで働ける場所を必死で探した」

芥川さん「人間やる気になればなんとかなるものなんだねっておもったよ。就活はすぐに終わった。」

芥川さん「そして親には必死で説得したよ。」

芥川さん「半分逃げるようにして家を飛び出したの。」

芥川さん「今はその時からつながってるって感じかな?」

彼女は縁もゆかりもない土地で寮生活をしながら暮らしているそうだ。

芥川さん「今は本当に生きるために働いて寝るだけって感じだけど」

芥川さん「私には夢があるの」

芥川さん「私ね、お店を開きたいんだ」

話を聞くに、それが口だけの夢物語ではないのがわかった。
生活費を切り詰めに切り詰めてお金を貯めていた。
スキマ時間で店を開くためにはどんな資格や許可がいるのか必死で勉強していた。
もちろんSNSでのマーケティングなども詳しかった。

芥川さん「私ってアイドルやってたわけだから、まだファンの人っているのよね」

芥川さん「きっと来てくれる気がするんだ。私、人気だったし笑」

芥川さん「でもアイドル活動をしていたのは地元なの。」

芥川さん「つまり、実家があるんだよね」

芥川さん「ちょっとまだ実家の問題にケリをつけるには心の準備が足りないけど」

芥川さん「店を開いた際には実家に帰ってケリをつけようと思う」

芥川さん「だから応援しててね!!!」

彼女はそういって通話を切った。
本来ならまだ高校に通っているような年齢の子だ。

話しながらも

「ごめんね、私ばっかり話して大丈夫?」

「こんな暗い話、おもしろい?」

とにかく気が付く子だった。

心底思う。

この子には成功してほしいし、
おそらく成功するだろう。

おそらく二度と会うことも話すこともないだろうけど、
こういった人生に触れられるのは貴重な体験だったなーって思った。


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