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満員電車中の電話

■邱力萍

ある朝の満員電車の中だった。その日、運よく私は席が見つかり、座ることができた。缶詰めにされたように、電車の中に人がいっぱい。それなのに、誰一人も喋らない。みんな静かに立ち、揺れる電車と一緒に一駅、また一駅と前へ進む。

いくつかの駅を通り過ぎたそのときだった。隣の席で寝ていた男性のほうから突然電話が鳴った。静かな満員電車の中、電話の音はかなり響き渡っていた。男性は四十代前半だろうか、彼は慌てて、ワイシャツの胸あたりのポケットに差し込んでいたスマートフォンを取り出し、躊躇しながら耳に当てた。「もしもし、今電車だけど」男性は声を最小限に抑えていた。「もしもし」電話の向こうから年配の女性の声がした。声が大きくて、隣にいる私は声だけではなく、その声にある焦りまで聞こえてきた。「もしもし、わたし」。わずかのアクセントは何かのぬくもりを感じさせた。その話し方からは奥さんでないことをなんとなく推測できた。「今電車だけど、しゃべれないんだ」男性は周りを気にしながら、声はちょっと不機嫌だった。「用事がないけど。あのねぇ-」女性は自分の話だけ済ませようとしていた。「あのねぇ、今日はあなたのお誕生日だよ!」まるで何かの大切な忘れ物を届けに来たように、女性の一語一句に力を込められていたことを感じた。「あ、ありがとう。お母さん」男性は照れくさく感じていただろうか、言いながら電話を切るタイミングを計っていた。「あのね、用事はないけどねぇ、お誕生日、おめでとう」まるで大切な届け物を手渡しできたように、女性はそう言って電話を切った。

切られた電話を胸のポケットにしまい込み、男性は再び席の背もたれに身を寄せた。そして、腕を組んで目を閉じた。

満員電車の中はまた静けさに戻った。まるで何もなかったように。電車の気持ちのいい揺れと共に、人々は一駅、また一駅と前へ、前へと進む。

男性はまた夢の中。

「お誕生日、おめでとう」

赤の他人なのに、なぜか、私はその日、彼にそう言いたかった。

【作者:邱力萍】


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