今晩はフィンランドのパンとスープだ
■邱力萍■
紀伊國屋で硬いフィンランドのパンを買った。そして 急にスープを作りたくなった。
ずっしり重たいパンを手にして、私の頭の中に鍋が急に現れて、そしてじゃがいもや、玉ねぎ、ソーセージ、トマト、キノコ、カラフルな豆まで、鍋の中でコトコトと煮えていた。
どんな味だろう?市販のコンソメの味?違う。
油を引いて、刻んだニンニクをしばらく炒める。それから玉ねぎやキノコ、じゃがいも、トマトを入れて丁寧に炒める。最後に丸ごとのソーセージをぶち込んで、水をたっぷり入れて、じっくりと煮込んでいく。味付けは少々の白ワインと塩。それだけ。
じゃがいものホクホク感、スープに溶け込んでゆく甘い玉ねぎ。香りも食感も絶妙な白いキノコ、赤い皮を浮かばせながら若干の酸味が残るトマト。お豆はすでに柔らかくなり、スープの中で転がっている。ソーセージは大事に食べる。指の長さくらい細めのソーセージは、真ん中から一口噛む。そうしたら、プチっと、中の油が飛び出す。熱い熱いと唸りながら、濃いめに味付けられたソーセージから飛び出すハーブの香りはまた人を夢の世界へと運んでゆく。
そうだ、そんなスープの具材を一周味わった後 次の出番はパンだ。フィンランドのパンの中身は少しざらざらしている。けれどそれがちょうどいいんだ。薄く切ったパンを持ったままで角からスープに浸して、少し固めのパンはすぐに柔らかくなるはず。その角を囓る。今度はトマトの酸味とソーセージのうまみとキノコの香りとタマネギの甘みを融合したスープは口の中で大合唱する。
美味しいパンとスープに、オレンジ色の光を発する照明が似合う。大きなダイニングテーブルに、家族全員が集まる。スプーンで食べてもいい、フォークで食べてもいい。とにかくみんなでたくさんの話をする。そして、いっぱい笑う。どこかの洋画のなかにあるように、職人気質のおじいちゃんと元気なお婆ちゃんもいたら最高。
金曜日の夜、仕事の帰りにたまたま紀伊国屋でフィンランドのパンを買った。
そして、今夜、スープを作ることにした。