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ざっくり解説再生医療-1
おばんです。プラ金です。今日も当直です。
さて、最近わりと、プラセンタだの、エクソソームだの、幹細胞培養上清だのと”再生医療"と称したビジネスが世の中に悪い意味で浸透してきたようで、時折知り合った方からアレってどうなの?と尋ねられる機会が増えました。一応ワタシ、大学院では再生医療を臨床応用しつつ研究しているラボで研究して博士号いただいた身ですので、そこそこ一般の方よりは知識があるような気がします。
アカデミアから足を洗って3年ほど経つので、ちょっと内容は最新とはいきませんが、ちょうど以前バイトに行っていた再生医療のクリニックのスタッフにレクチャーするときに使ったスライドが残ってたので、流用してざっくり解説しようと思います。一般の方にはちょっと難しい用語が多いかもしれませんが、その辺はご容赦を。
スライドのシエーマは、主に再生医療ポータルから引用させていただいております。
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現在"再生医療"と呼ばれるものは、ほぼほぼ"細胞治療"のような意味合いで使われているような印象を受けます。
主に"幹細胞"を用いた治療として認識されているようです。部分的にはすでに臨床応用されて結果も出ています。
基本的にはニンゲンの組織は一部を除いて損傷、破壊されると瘢痕組織というものに置き換わってしまうので、まったくの元通りの機能をもった組織、臓器になることはほとんどありません。肝臓が壊れて瘢痕組織に置き換われば肝硬変ですし、肺が壊れて瘢痕組織に置き換われば肺線維症、間質性肺炎です(ざっくり)。コレを元通りにできる可能性がある、というのが再生医療の魅力ではあります。
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元通りになるには、もととなる細胞が増えて(自己複製、増殖)、ちゃんとそれぞれ役割を持った細胞になって(分化)、ちゃんと機能できるように配置(組織化)されなければならないワケです。
実は白血病に対する骨髄移植なんか、まさにコレ実現しちゃってるワケです。本人の骨髄を徹底的に破壊して焼け野原にしたあとにドナーの骨髄(造血幹細胞)を移植して骨髄を再生させちゃう。生着後はドナーの血液型になっちゃうことは知られてますね。
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究極の再生医療といえばクローンで、ドリーさんが有名ですね。
体細胞から取り出した核をもとに生存個体を再現してしまったもんですから再生医療そのものです。"幹細胞"ってすごい!
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んで、"幹細胞"といっても、いろいろ種類があるわけで、先述のクローン羊のように、生物個体のありとあらゆる細胞に分化できる幹細胞は限られていて、"多能性幹細胞"ってやつだけなんです。
いわば受精卵そのものから取り出した"ES細胞"、受精卵の核(遺伝子情報)を取り除いてほかの体細胞の核を移植した"ntES細胞(クローン羊のドリーさんはコレ)"、山中センセイがノーベル賞もらった”iPS細胞"、(追試、再現ができてないのでまだ実在するかわからん"STAP細胞")が"多能性幹細胞"に当たります。これらは導入する遺伝子や環境によりいかなる細胞にもなれる性質を持っています。こいつらの違いについて説明すると、
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てな感じになるんですが、ES細胞はあくまで他人の細胞なので、疾患の治療に用いるとなれば自分自身の細胞から作られるiPS細胞が選択肢に上がるわけです。研究が進んだことにより、がん遺伝子を導入しないで作れるようになってきたので、代替臓器を作るための研究が行われています。(STAP細胞は外来遺伝子を用いず、環境変化だけで作れるそうなので、実在するなら最適なのでしょうが、今のところはオバケだと思っていてください)
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んで、実際に微小な機能単位は再現できて、ホント小さい臓器であれば、もう作ることはできているんです。"オルガノイド"と呼びます。
ただ、こいつらは生きていくための糧を自分で得ることができません。それぞれの細胞に酸素やアミノ酸などの栄養素を送り、二酸化炭素やアンモニアなどの老廃物を運び去る血管を持っていないからです。
働くことはできるけど、食事、排泄、整容がダメ。
生体内に移植したところで、燃料は片道分。食料もなし。カミカゼアタックです。滅びるしかない。これが代替臓器の現状です。
さて、いままで"多能性幹細胞"について説明してきましたが、もちろんそれ以外の幹細胞もあるわけで。
それが"組織幹細胞"ってやつです。"多能性幹細胞"が可能性たっぷり、これから何者にでもなれる赤ちゃんだとしたら、”組織幹細胞"は高校3年生くらいでしょうか?学歴至上主義というワケではないですが、ある程度将来の進路が限定されつつあり、でもまだ可能性は残っている、というイメージです。
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基本的なお役目はそれぞれの組織の細胞が老化その他で死に絶えることがないよう、自己を複製しつつ新陳代謝をおこない、恒常性を保つのが役割です。この細胞は比較的容易に採取できるし、培養で増やすこともでき、分化の方向性も限定されているので、狙った組織を形成する細胞を得やすいのです。
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オルガノイドが実用化できない問題点は、血管を伴い血流を届ける機能がないことでしたが、生存に血管を必要としない組織もありまして、虚血に強い、あるいは血漿からの浸透だけで生きられる組織であれば細胞が分化して増えて、規則的な配置で組織を形成すれば機能できるワケで、この条件に当てはまる皮膚(表皮)と軟骨に関しては再生は実現できているんですよね。
"組織幹細胞"であれば、本人の組織から採取して培養して分化させればまさに本人の組織が得られるわけで、商品化もされています。
京アニの放火犯の広範囲熱傷もこの技術のおかげで、貴重なご献体からの同種皮膚移植片を使用することなく救命できて裁判を受けられたわけです。(かなり高額な医療費はかかっているはずですけど)
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同じく組織再生を目的として作られた商品として ネピック、ハートシートがあるのですが、ハートシートは期限付き承認だった期間に優位性を示せず、本承認に至らず販売終了となってしまいました。そりゃ心筋は横紋筋だし、酸素要求量も多いし、血管付きじゃなきゃ養えないよな、と後出しじゃんけんですが考察します。
ってあたりが"幹細胞"を分化させて失われた臓器を再生させて治療しようっていう戦略の現状となります。
あれ?プラセンタとかエクソソームの話は?となりますよね。そうなんです。"再生医療"とひとくくりには扱われていますが、実は全然コンセプトが違うんですよ。全くです。幹細胞が分化して失われた組織になってくれるワケじゃないんです。
・・・さて、ここまで書いてもう26時を回ってしまいました。明日もおしごとなので今日は寝ます。続きは次回以降の当直のときにでも。
みんな興味ありますかね?スキいただけたらモチベになるかも。
おやすみなさい・・・