(去年酩酊しながら書いた日記をコピペして載せてみます)
今日は仕事の都合で珍しくタクシーに乗った。
ドライバーの顔を一瞥すると、それは紛うことなきチャゲアスのChageその人であった。
「チャゲさんじゃないですか‼︎こんなところで何してるんですか⁉︎」
「…出発いたします。」
「最近見ないと思ったらタクシードライバーなんてしてたんですね‼︎しかもこんなコスタリカの片田舎で‼︎」
「………」
「チャゲ…さん……?」
「……償い。」
「へ?」
「償ってるんです。チャゲは。」
チャゲの一人称はチャゲであった。
コスタリカの変わり映えしない野山を眺めている内に連日の仕事の疲れも相まって俺は寝てしまっていた。
どのくらい寝ていたのだろうか、目が覚めると目的地である首都サンホセの綺麗な街並み……という訳でもなかった。
相も変わらず野山野山野山野山鹿野山
「…ああ寝ちゃってました。あとどのくらいでサンホセですか?チャゲさん。」
チャゲは俺の問いには返答せず、何故か遠くを見据えていた。
すると、目の前に何やら仰々しい建物が見えてきた。そこに吸い込まれるように何台かの車が列をなしている。国境ゲートだ。
「え⁉︎チャゲさん⁉︎これ国境ゲートじゃないですか‼︎出ない出ない‼︎サンホセ‼︎サンホセ‼︎」
「……」
「っていうかなんでさっきから何も言わ…」
その瞬間、チャゲのサングラスの奥が鋭く光り、同時に自分の身体がとてつもないGに押さえつけられていることに気づいた。
チャゲの右足はアクセルをベタ踏みしている。
「うわああああ‼︎‼︎‼︎‼︎」
ゲートは思ったより脆く、衝撃はあまり感じなかった。
野山の中、一筋の道を更にスピードを増したタクシーが駆け抜けていく。
耳を劈くサイレンの輪唱に追われながら、ようやくチャゲが口を開いた。
あなたは「ふたりの愛ランド」という曲を知っているだろうか。石川優子とチャゲのコラボレーションシングルであり、嫌というほど能天気な曲である。
その曲におけるチャゲの歌い出しは「小麦ぃ色にぃ灼けてぇるお前のせいさぁ♪ 風のない都会をぉ忘れてみないか〜♪」という、やけに高くてねちっこいメロディなのだが、目の前の不法入国者はこのメロディを引用して、
「チャゲにぃ命ぃ任せぇたお前のせいさぁ♪ニカラグアの街をぉさすらってみないか〜♪」
と銀歯を強調しながら歌ってみせた。
奇跡的にパトカーを巻くことに成功した我々は人気のない森の中に車を停めた。一刻も早く街へ出てしまいたい気持ちは山々なのだが、日が沈んだニカラグアの森は獣や崖崩れなど何かと物騒なので、一先ず身を潜めることとした。
美しい月の下、俺はチャゲと結ばれた。
そして今、ブランケットに絡まりながら助手席でこの文章を書いている。チャゲはこちらに背を向けたまま、喉を労わるように優しく寝息を立てている。
ついさっき悪戯心が働いてしまい、サングラスをかけていない寝顔を覗いてしまった。
そこにあったのは、なんとテフロン加工のフライパンであった。