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野球ものの名文・名セリフ(11)

野球がスローで退屈と思う人、それはその人が退屈な心の持ち主に過ぎないからだ

「ニューヨーク・タイムズ」紙、レッド・スミス記者
『野球は言葉のスポーツ』より

『偽りのスラッガー』(水原秀策)の冒頭で引用されたものであり、同作と直接関係はない。

 現役引退後野球から離れていたかってのスラッガー秋草隼は、大学の先輩でバーバリアンズの敏腕GM栗林紀之に誘われ現役に復帰する。表向きは選手としてだが、真の目的はチームに蔓延するドーピング疑惑を内偵する事だった。

 この作者の同じ野球ミステリーもの『サウスポー・キラー』での事件があまりにも荒唐無稽だったのに対し、ドーピングというリアルな事件を扱っており、色々と共感しながら読める。俺の役目は内偵であり野球の実力はもう通用しない、と自分を納得させながら捜査を続ける秋草だが、プレイヤーとしての本能が疼く。そんな心境の変化と捜査の展開が絶妙な呼応を見せる。

 登場人物がそれぞれに狡いが、それぞれに弱く、根っからの悪人が登場しないところに救いを感じる。狡いけどそれぞれの野球論を戦わせる時は純粋な野球人であり、特に『マネー・ボール』で展開された理論を選手が反証しようとするくだりは興味深く、同書を読んだ人にも読んでみて欲しいところ。


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