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「名選手名コーチに非ず」の話

 本当は「名選手名コーチに非ず」ではなく「凡選手ダメコーチに非ず」と言う方がポジティブで本質的な気がしている。

 元ヤクルトの佐藤由規がコーチに就任した時もそうだったが、名選手でなかった人がコーチに就任するたびに批判して来るような手合いに対して批判的な記事を書いたことがあった。

 実際、名選手でなかった人がコーチに就任後、勉強と工夫を重ね「コーチ」として信頼を勝ち得ていく、そんなエピソードは良いコーチの数だけある筈だが、メディアに取り上げられるのは珍しいので紹介しておく。

なり手不足?プロ野球界のコーチに求められるものは何か 内田順三氏の視点「名選手であっても1年も持たないのが現実」

(前略)
強打者の育成に携わってきた打撃の名伯楽・内田順三氏(デイリースポーツ・ウェブ評論家)の考えを聞いた。
 昭和、平成、令和と時代が移り、確かに今はすぐにチームからコンプライアンスの話が降りてくる。昭和は半強制的に練習をやらせていたが、今のコーチングは選手にどう行動を起こさせるか。叱ることに気を使うコーチもいるが、そっぽを向かれるのを恐れて選手にお願いするようなやり方はコーチングではないよね。
 もちろん、人それぞれに合ったコーチングがある。阿部慎之助、鈴木誠也のように向かってくるような選手にはガンガンやらせることもできるが、岡本和真のようなタイプに同じやり方をしては上の空になってしまう。引っ張るのか、褒めて育てるのか。いずれにしろコーチは「優しくていい人」では務まらないし、ただのお手伝いになってもいけない。
 引退後30歳、40歳くらいの年齢で、球団からのご褒美でコーチをしているんではダメ。見ていると、たとえ現役時代にいい選手だったとしても、教え方やビジョンがなければ1年も持たないのが現実だ。今は各チームにアナリストがいてボールの回転数、打球速度といったさまざまな科学データを提供してくれる。それをもとに技術にどう結びつけていくかというのも、今のコーチには求められている。昔なら振ってナンボというのが通用しないし、コーチも対処できるようにオフも勉強しないと務まらないよね。
 それでも、量で質を作る、という練習が必要になる時もある。そうした時に選手をどうその気にさせるか。コンプライアンスが言われる今の時代、「ばかたれ」と叫ぶようなことはもちろんいけないが、奮い立たせるような叱咤激励は大事だよね。腹の底から声を出して「やろうぜ!」と伝えることがあってもいい。
 もちろん、日頃からコミュニケーションを取ることが前提で、「お前をうまくしたいんだ」という思いをぶつければ選手には必ず伝わる。厳しい練習であっても、「あの時は顔も見たくなかったが、今の自分があるのはあの時のおかげ」。そう選手に言われるような、余韻の残るコーチになれるのが理想だよね。

https://news.yahoo.co.jp/articles/2416f32c43b9d871ff29a078aeb9484e0c703bb3

 内田順三氏と言えば「カープの人」のイメージだが、私が子供の頃、最初にファンになった選手、日本ハムの小田義人のチームメイトで、その小田と仲が良かった選手、として記憶に残っている。

 カープに移籍後の内田順三に関しては、「地味」「代打」の代名詞のような存在で、凄い活躍はしていなかったが、息の長い選手でもあった。昔はそういう「ポジション」の選手が結構いた。

 名選手ではなかった、いや名選手でなかったからこそ、現役時代から色々「思う事」があって、それが引退後に自分の中で具現化というか言語化されていくのだろうと思う。

 日本に独立リーグができた頃、「NPB経験者」が監督やコーチとして選手を指導する、という点がひとつの大きな売りだったが、すぐに辞めてしまうような人もいた。待遇か、仕事が上手くいかなかったのか。現役時代に活躍していたからと言って、それだけで選手が言う事を聞く、というものでもないようで、それだけでもファンの認識というものは現状と乖離している事がわかる。

 コーチは責任職であって名誉職ではない。コーチ業はスター選手の余生、というわけにはいかない。コーチにはコーチとしての修練がある。「引退後30歳、40歳くらいの年齢で、球団からのご褒美でコーチをしているんではダメ」という言葉には重みがある。

 監督のエピソードは好まれるが、コーチのそれはあまり顧みられる事がない。現役時代に大活躍できなかった、という一見ハンデを背負ってコーチのキャリアをスタートさせた人が、どのようにコーチのスキルを得、信頼を勝ち得ていったか、そういうエピソードももっと語られるべきだと思う。そうでないと、ファンも成熟しないような気がする。成熟していないから、由規のような人がコーチに就任するたびに「お前に何が教えられるんだ」と難癖をつけてくる手合いが後を絶たない。

「スポーツライター」を名乗る人たちの仕事なのではないだろうか。

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