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野球ものの名文・名セリフ(15)

「曳かれものの小唄かもしれんが、きみだけは信じてくれ。おれの目標もプロ野球の浄化にあった。ただ泥の世界を探るためには泥にまみれるのもやむを止んと思ったのは間違いだった。いうまでもなかろうが、おれの轍はふまんでくれ。いつかきみにも危機が来る。そのとき今のおれを思い出してくれ。そのためにおれはわざわざこの姿を見てもらいに来たんだ」

天藤真『鈍い球音』

 日本シリーズを前にした球団の監督が失踪した、という話。当然シリーズをめぐる周囲の汚い思惑を巡り様々な人間が暗躍するのだけど、その中で当の選手達にはほとんど「キャラ」は与えられず、主要人物の多くはフロントの人間だったり記者だったりする。それなのに本編では「モブ」である筈の、彼らの清廉な戦いが胸を打つ。話の中では端役である人々の姿に感動させられた事は決して多くない。そういう表現もあるんだな、と感心したものだが、残念ながら作者は故人という。

 あと、なぜか「俺女萌え」の人にお勧めという意外な一面を持つ(笑)。1971年発表という事実にも驚く。


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