持ち込みと処女作を超えられない壁
出張編集部にいってきました
ちょっと今回は自語り多めです。
先週末、わが街にとある編集部が来てくれたのをいいことにまた持ち込みをしてきました。
地方在住の者にとっては顔を合わせて話せる数少ないチャンスですからね。今は大体のところはオンライン持ち込みもできますが、顔を合わせて話せる安心感や緊張感は格別ですからね。そういう機会はなるべく逃したくないですからね。
しかし自分にはまだ出せるものが少ないのです。
メニューが1つしかない定食屋みたいなもんですね。早くメニュー豊富な定食屋になりたいものです。
①自分の為に描いた処女作、完成原稿
②賞や読者を意識したほぼネーム、冒頭だけ仕上げ済
今回もこの2つを持ち込みました。
下の2つの記事は②について講評をもらい悩みながら修正した記録です。
前回持ち込みで見てもらった編集さん同様、①の処女作のほうが面白かったとのこと。
構成や話のまとまりは②のほうが綺麗にまとまっているし作画も良くなっているけど、①の方がキャラに感情が乗っていてコミカルで笑えたし面白かった。
①の方はモロに自分の精神世界であるから当然感情が乗るわけです。漫画描けないキャラ動かないどうしたらいいって。なんなら少し泣きながら描きましたからね!
②のネームも9月上旬に講評してもらったあと修正を重ね、少しは良くなったかな?と思っていたものの、前作よりも面白いということはなかったのです。
じゃあ①を商業用に向けて練り直しするのはどうだろうと聞いてみたのですが、これはこれで完成しているので(もちろん100点という意味ではなく自分の感情を形にした作品としてです)、これを作り直す意味はなさそうです。
とある漫画家の先生が言っていたことを思い出しました。
「私小説なら誰でも一作は描ける。そのあとは別な奴を描けるかどうかだ」
まさにこのことだと思いました。
①の話はまた別の記事で各社の講評を纏めるので、ここからは②の話になります。
纏まっているけど説得力がない
この話は石好きなのに現実では鉱物採集を禁じられている少年がゲームの中で鉱物採集を楽しんでいるけれど、ある出来事をきっかけに現実世界で鉱物採集できるように現実に目を向ける話です。
話としては小綺麗に纏まっているけど面白くない(意訳です)とのこと。
「この話を描こうと思ったきっかけはなんですか?」
実は知人の子が引きこもってしまって、でも他人の子だから自分が何かできるわけじゃないのがすごくもどかしい。でも現実ってしんどいことあるけど出てみたら楽しいこともいいこともあるよ!という気持ちがありました。
もちろんそれだけじゃないのですが、きっかけはそこでした。
「じゃあこの作品を読んで現実って楽しいのかもと思って貰えれば『勝ち』ですよね?勝ちというか、ゴールというか」
確かにそうです。言語化していただけました。
でもこれを読んでそこまでのワクワク感や楽しさがあるでしょうか?いえ、全然足りないんです。
編集者が引き出す解
なんで面白くないんだろう。他に原因は何があるんだろう。
主人公の気持ちについていけなくて置いていかれてしまう。なんで主人公がここに拘ってるのかわからない。
主人公の好きなことが鉱物採集だったのですが、ゲーム内でコンプリートすることを強く望んでいました。
「なんでコンプリートに拘ってるんですか?たぶんコンプリートが大事なわけじゃないのでは?」
「そうですね…本当に望んでいるものは別なところにあります」
表と裏のストーリーがあるなら、表の目標です。これは設定したなという自覚がありました。
「室月さんは石を好きなんですね。なんで好きなんですか?」
との問いかけがありました。
地球が長い時間をかけて作り出すこと、同じものはふたつと無いこと、複数の鉱物が組み合わさることで違う魅力がでることをお話しました。
そこで気付いたのは、コンプに熱量・情熱が乗らないのはコンプに魅力があるからじゃないから。鉱物自体の魅力じゃないから。
表の目標にしても、設定では説得力がないわけです。
編集者ってすごい。対話で解を引き出してくれるんです。
もう少しここを練り直してみることにします。
絵柄はどうか?
絵柄について聞いてみました。古いとか画力が足りないとか言われるかなと構えていました。なんといっても丁寧さは以前別のところで指摘されていましたもので。
情報量が足りない、ディティールが足りない、リアリティが足りない。
「これを言うのは野暮なんですが、洞窟の奥深くはこんな軽装じゃ来ないですよね。リアリティが足りないというか」
「ゲームの中だから軽装のアバターということではあんまり納得感がないでしょうか。いっそのことうさみみとかつけてアバター感を増すとか…嘘をつくなら大胆に嘘とわかる嘘というか」
「というか理由がある嘘がいいです」
なるほど。
しかしゲームの中のアバターなのでリアリティは必要なのかな?リアリティに拘るよりは絵面の楽しさを優先させたい。これを取り入れようかどうかは少し悩むところです。
一応アバターだからという理由はあるのでどうやって読者に納得してもらうかですよね。
少年の膝の裏が描きたいので、ショートパンツは譲れません。
理由を伝わるように考えたいところです。
商業としてやっていくには何が足りないか?
商業としてやっていくには何が一番足りていませんか?たくさん未熟なことはあるんですが、一番はなんですか?と聞いてみました。
「細かいことを言えばいろいろあるんですが、ページ作りもいいですし、技術面に関してはそんなに言うことはないです。会社勤めで趣味で描いただけじゃなくて本気で勉強されたと思います」
漫画って難しいんですよね。そのたびに勉強して、少しずつ成長できてる実感もあって、今すごく楽しいんですね。青春です。
褒められた!と思ったのですが、問題はもっと深いところにありました。
テーマや題材はもっと自分の人生経験を基にしたものがいいのではないかということ。
端的にいうと今のような題材では話が面白くない(※意訳です!)問題です。
18歳フリーターとは言えることが違う
「室月さんが18歳のフリーターなら言うことも違ってくるんですけど。気合だ!頑張れ!とかではない。たくさんの経験をしてきたと思います。①の作品を見ても、実体験や感情を描きたいんだと思います。そのほうが室月さんにしか描けないものが描けると思います」
自分はいい歳のフルタイムの会社員です。そこそこ波乱万丈の人生を送ってきました。幸せだったり傷ついたり裏切られたり、有頂天になったり挫折したり。たくさん泣いたり笑ったりして生きてきました。
でも今思い返しても当時の感情が薄いというか…なんていうのでしょうか。
気持ちの切り替えが早いんですよね。
また、書く・描くことでも今感じていることを吐き出して気持ちの整理をつけていることがあります。
整理がついた昔の感情なんてとうに薄れてしまっているのです。
体験も特殊なものはありません。
特殊な仕事に就いているわけでも特技があるわけでも無い。多趣味ですが広く浅い器用貧乏。コミュ力はそこそこ高めで人間関係は良好ですが特段尖ったところのある人間ではない。精神は結構タフで辛いこともすぐ乗り越えられる。自分の力で居心地の良い環境を整備してきたという自負もあります。
良く言えばごく平均的な人間です。
こう書くと自己評価も高いようにみえるのですが、飛び抜けたことのない普通の人間だというコンプレックスは常につきまとっていました。
自分にしか描けないことなんて何も無いかもなあ…と少しだけ途方に暮れました。
自分にしか描けないって、面白いって、なんだろう。
初めて凹んだ
今まで厳しいことを言われても初心者だから当然だと思っていたし、自分の人間性を否定されているわけではない。厳しいアドバイスはありがたいフィードバックでありそれを次に活かすだけ。
なので持ち込みの後で落ち込む人がいるのがあまり理解できていませんでした。嫌な奴ですね。
しかしこのたび帰り道、初めて涙が出ました。
悔しかったんです。
たくさん勉強して描いて見せて修正して見せて修正して…今まで時間をかけて直したのに何も良くなっていないじゃないかと。
勉強して身になってるつもりで楽しかったのは自分だけで、作品は何もよくなっていないじゃないか、時間だけ使って何をやっていたんだと。
やったことに対して結果がみえてこないことが悔しかったんですね。
もうひとつわかったことがあります。
面白さの否定というのは、演出方法の未熟さや伝わりにくさやなどのスキル不足によるものだと思っているのですが、それだけじゃなかったんです。
漫画って自分の人生や経験を反映した部分も少なからずあるんですね。
作品の否定(面白くない)=人間性の否定に感じてしまう理由がわかった気がしました。
作品が面白くないから人間がダメなわけでは決してないんですが、それだけ今まで生きてきた自分という魂を込めているものということなんですよね。
悩みどころのステージが変わった
とはいえ立ち直りは早いもので、一晩寝たら元気になりました。
今回はまだ形にできなかったけれど、今まで勉強したことは自分の中に少しずつ蓄積されているはずです。
技術的な面ではそこまで言うことはない(0じゃないけど)とのことで、確実に勉強したことが身についていっている成果なのだと感じました。
作画やコマ割りやページのヒキやメクリ、ロングショットや見せゴマの使い方、そういうのは勉強すれば遅かれ早かれ身に付くんですよね。
話の構成に入ってくるとこれはかなり難しい。でも先人たちが作った型がある以上、勉強はできるわけです。まったくわけがわからない未知のものでもない。
面白さって、そこから更に奥に踏み込んでいくものだと思います。自分の人生経験・人間性・価値観・感情体験が乗ってくる。
それをわかりやすく面白く表現することはまた技術になると思うのですが、完全に技術だけでなんとかできるものじゃない。
計算して作れる人は本当にすごいです。
今まで勉強してきた技術面以上に難しいことなのだと感じました。
逆をいうと、ついにそこで悩む段階まで来たんです!成長です!
立ち直りが早くて前向きでちょっと嫌になります。
こうやって考えるのは昼までです。今夜もペンを動かします。
最近は進みが遅いので頑張らないと!