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森川先生のメッセージ「強くなれ」とは
連日SNSで漫画家が単行本の表紙を無償で描くことについての議論がなされていますね。
議論に参加したりいっちょ噛みするのは苦手なのでXでは賛否両論も一通り目を通したうえで静観しておりました。
その上で考えたことを、自分の為にも残しておきたいので筆を執りました。
内容の是非ではなく、それを踏まえた心構えのお話ですので、議論をしたい方は面白くないかと思います。
単行本表紙の報酬について
Xでは漫画家、読者、他業種のクリエイター、様々な観点からの意見が飛び交っていました。
そして一言に漫画家といっても同じ立場ではなく、大御所と呼ばれる方、ヒット作を持ったベテランの方、新人作家、コミカライズ担当の作家、原作者、担当編集者との関係が良好な方、担当編集者との関係に上下関係を感じる方など、様々な方がいらっしゃいます。
表紙の問題でも異なる契約で異なる問題が混在する中で、0か100かで是非を判断することなどとてもできません。
特に森川先生のポストには批判や対立を煽る言葉も多く集まりました。
個人事業主と出版社は雇用関係でない、対等に交渉するべきだとわかっていても、立場が弱いから言えないという方はとても多いのだと思います。
立場が違えば反対意見もあるのは至極当然のことですが、目指すのは対立することではないはずです。
ここにたどり着いた方はいろいろ見てきた方だと思うので詳しいことは割愛させていただきますが、なんのことやらという方はこちらの杉井先生の記事が大変分かりやすかったので是非。
さて、森川先生のポストが賛否両論の中、師走トオル先生の理論的で建設的なリプが目を引きました。
森川先生も拾ってくださりいくつかのやりとりの後、その日のうちにスペースを開くこととが決まりました。
両者共に仕事がお早いです。
森川先生と師走先生のスペース
そんなこんなで昨夜、森川ジョージ先生と師走トオル先生のスペースを拝聴いたしましました。
大変興味深く勉強になる内容でございました。
大ベテランの森川先生と、漫画の原作者もされていらっしゃる師走トオル先生がお話してくださり、また師走トオル先生の顧問弁護士である河野冬樹先生が同席して話を纏めてくださいました。
3時間に渡るたくさんのお話がありましたが一部だけ。
森川先生はお若い頃から「舐められるものか」と編集者と対等に渡り合おうと交渉されてきたそうです。
今のお立場になったからではなく、お若くして鷹村マインドだったのですね。
(師走先生が「森川先生は鷹村なんです」と仰ったのが個人的にツボだったので使わせていただきました)
もちろん世の中には鷹村マインドの持ち主だけではありません。
企業と個人では個人の方が弱くなることも多いです。
その中でフリーランス新法はどのように適用されるのか?ということを話してくださいました。
単行本表紙だけではなく、連載準備期間のことも含んでいて大変興味深いです。
河野先生がわかりやすく纏めてくださっています。
出版業界にフリーランス新法を適用していこうとすると、今の出版権制度の「作家が書き上げた著作物が完成した段階で出版契約を締結し、出版社はそれに出版権の設定を受けて複製、頒布を行う存在」という建前と、業務委託、すなわち作家が依頼を受けて著作物を制作したことを適用要件とするフリーランス…
— 弁護士 河野冬樹 (@kawano_lawyer) October 24, 2024
議論の中で、森川先生は漫画家と出版社の間で行われてきた慣習を教えて下さいました。
感情を抜きに事実は事実として理解することがまず必要かと思います。
それが正しいか間違っているかということではなく、今までの漫画業界の歴史です。繰り返しますが今までのことです。
そしてその慣習の中、森川先生は交渉してきたということ。
作家と出版社は雇用関係でない、対等に交渉するべきだとわかっていても、立場が弱いから新人だから強く言えないということはかなり多いのだと思います。
ではそれを解決するために出版社からの委託ということにすると、権利を出版社に渡してしまうことになります。
それは森川先生や先代の作家が守ってきた作家の権利だということです。
昨今でも作家の権利についてはたくさんの問題があがっていますね。
著作権以外にも著作人格権や著作隣接権などの権利があります。
報酬と権利は切り離せません。
最後までお話を拝聴しましたが、どれもケースバイケースであり、個人で交渉を重ねていかなければならないのでしょう。
森川先生は最後に「漫画家たち、強くなれ」と締められました。
「強くなれ」ということ
ここからは個人的な解釈となります。
森川先生がスペースを開く際に「特に漫画業界の若い人が聞いたらいい」とポストされていました。
そして最後に漫画家さんたちへ「強くなれ」と仰っていました。
これは鷹村マインドで生意気であれという意味ではないです(個人の解釈です)。
歴史を知って、法を知って、交渉の材料を揃えて、個人事業主として最善の選択をできるようになれという意味だと受け取りました。
理論武装しろという意味ではないです。
出版社も編集部も敵ではなく、役割が違うだけで同じ作品を売りたい同士のはずです。
森川先生や編集者を敵のように感じて対立するのは勿体ないと感じます。
森川先生の元へたくさんの立場からの意見が集まったからこそ、それを納得しなくてもその立場の意見なのだと理解し、そこで知った知識を自分のものにして、自分の価値をあげる武器、または自分の権利を守る防具にしていくことが「強くなる」ということだと感じます。
慣習は時代によって変わります。
なので繰り返し「今までのこと」と述べました。
歴史を知り、大切なのはそれを未来に活かすことです。
昔からの出版社ばかりではなく、新しい形態の編集部がどんどんできています。
新しいタイプの契約も増えています。先日は職務著作的な契約方式がある編集部が話題になりました。
web掲載が増え、コミカライズや原作付きが増え、タテヨミや分業が増え、世の中はどんどん変化していっています。
11月にはフリーランス新法が施行されます。
勉強し続けなければ時代に置いていかれます。
SNSが発達することによって、立場が弱いからと言えなかったことが可視化され、問題が表面化していきます。
SNSでの愚痴は両手を上げて賛成できるわけではないのですが、弱い声や小さい声が表面化して業界が変わるきっかけになるというのは、SNS時代における光明かと思います。
昔からの慣習を変える転機はきっとこれからもたくさんあって、それは先人たちが守ったもの、今の人たちが苦しんでいる声、その土壌に新しいものを皆で築いていくことになります。
自分の力で自分の置かれた環境をより良くしていく、その機会を逃さない為にたくさんのことを知らなければいけないのです。
ここまで個人的な解釈です。頓珍漢なことを言っていたらすみません。
偉そうなことを書き連ねてしまいましたが、これは自分にそれだけの覚悟があるのかという問いでもあります。
自力で全て行わなければいけないということは個人事業主の最も大変なところだと思いますので、会社員という立場に甘んじている自分には茨の道のようにも感じます。
もしこれから自分が交渉をする立場になるのならば、いろいろなことを勉強して知っておき、様々な立場を理解し、協力しあい、win-winな関係を目指していきたいと思った次第でございます。
取り留めのない話ですが、読んでくださってありがとうございました。