【第1回 私のゆるネタ】 古川 耕
"ゆるネタ"をゆるく楽しむ人々に、普段実践している"ゆるネタ"をご紹介いただく本コーナー。記念すべき第1回ではラムネのお題出題者でもある、放送作家の古川耕さんにゆるネタをご紹介いただきました。
うどんvsラーメンはどっちの味が強い?
新競技「フードマウンティング」で料理の本質を見抜いてみる
「うどんのつゆにラーメンの麺を入れたら、どっちの味になると思います?」
立ち話の最中におもむろにそう問いかけてきたのは、ヌードルライターの山田祐一郎さんでした。
今から2年前、2017年4月。博多のラジオ局主催で開かれたトークイベントの懇親会で、山田さんは初対面からわずか10分足らずの私に向かい、この興味深すぎる質問を投げかけてきたのです。話が速い。
山田さんは九州を中心に活動しているライターで、「ラーメン」「うどん」といったカテゴリーにこだわらず麺類全般を扱っています。こういうスタンスの人は全国的に見てもかなり珍しいらしく、となるとこの問いは、山田さんのアイデンティティに深く根ざした重い問題提起なような気もしてきます。
では、いったいその回答は──?
それから一年後。私がよく仕事をしているTBSラジオで『興味R』という新番組が始まり、私はその番組の中で、山田さんの了承を得て冒頭の問いかけをバトル形式で展開していく企画を考えました。
その名も、「フードマウンティング」。
「Aという料理の要素と、Bという料理の要素を掛け合わせたメニューを食したとき、我々はどちらの料理を食べていると感じるのか?」。その勝敗を生放送で白黒つける、言わば食の公開マウント合戦です。
その記念すべき第一回に、冒頭の山田さんの問いかけを持ってきました。
ラーメンどんぶりに濃い関東風のうどんつゆを注ぎ、そこにスーパーで買ってきた細めの縮れ麺を投入。具はなにも入れず、「素うどん、もしくは素ラーメンの可能性が重なった状態」で、ジャッジとなるアナウンサーとゲストがおそるおそる試食していきます。
そして、ふたりのジャッジの結果は……
勝者、「ラーメン」!
うどんのつゆにラーメンの麺を入れたものを食べたら、それは「ラーメン」でした。
この結果は、博多の夜に山田さんから聞いていた答えと同じであり、私が自宅で試した感想とも一致していました。となれば、これはそこそこ一般性の高い結論だと言っていいのではないでしょうか。
ではなぜ、我々はうどんのつゆにラーメンの麺を入れたものを「ラーメン」だと感じるのでしょう?
おそらくそれは、ラーメンという概念の巨大さにあります。今、ラーメンと一口に言っても、醤油・塩・味噌、そして出汁も具も盛り付けも無数のバリエーションがあり、ほとんどそれは広範な味を包括するひとつの食体系のようなものです。
その中にはもちろん和風味もあるわけで、めんつゆのようなスープでも、ひとたびラーメンの麺が入り、ラーメンの様式で提供されれば、我々の脳はそれを「ラーメン」という引き出しの中に収めてしまうようなのです。これに比べればうどんはまだまだ狭い概念であり、少しでもうどんの範疇から外れたら、脳はすぐそれを「うどんではないもの」として除外してしまいます。それに比べてラーメンの輪郭線はあまりにも曖昧であり、それゆえあまりに越境が容易く、それがさらにラーメンという宇宙を膨大させていくのです。
このようにフードマウンティングは、その料理の本質にあるものをむき出しにしてしまいます。露出したコアとコアを掛け合わせ、そこで残るものと失われるもの、どちらもが、その料理の本質を示しているのです。
今、趣味でフードマウンティングをすることはありませんが、しかしたまに食事をしているとき、箸を止めてふと思い出すのです。
「君を君たらしめているのは、いったい何なのだい?」
古川 耕
放送作家/ライター/編集者。TBSラジオ『アフター6ジャンクション』『ジェーン・スー 生活は踊る』、月刊GetNavi「文房具でモテるための100の方法」、世界睡眠会議「入眠調査室」など。
https://mobile.twitter.com/2dawn/
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