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前略草々 オペラ『ペレアスとメリザンド』

 特別な予定のある日はヒヨドリが起こしにくる。昨日はキーと甲高く鳴いて、オペラに行くのだろうと急かした。どこからか紫の実を持って来て潰し、何かを伝えようとしている。

 ヒヨドリの指摘する通り、私はオペラ『ペレアスとメリザンド』に行く予定だった。ドビュッシーの唯一のオペラで、なかなかお目にかかることのないオペラではないか。午前中に仕事を終わらせ、何を着るべきかと迷ったがオペラのための正装というほどの衣装はないのでいつも通りのものを着て、それでもいつもより長いコットンパールを身に付けた。オペラの内容に合わせて髪は下ろし、そこで鞄に迷う。ショルダーバッグはいつも通りでよいとして、寒い場合に備えてのカーディガンや買ったパンフレットなどを入れるための鞄をいつも通りのリュックにするのはさすがに気が引ける。ナイロン製で音もするので、演奏中に音が出てもよくないだろう。そこで、ヒヨドリの好きな麦わらの鞄にした。ややカジュアルだが――と悩んでいると、フランス製のシルクのスカーフを思い出して、それを持ち手に巻き付けた。恐らく、朝のヒヨドリの紫の実を潰したメッセージは、あのスカーフがあるだろうということだ。というのも、そのスカーフは薄紫で、紫の実を潰したかのような染め模様なのだ。いつものアイテムに敬意を添える程度でよいとのことか。

 これでどうにかなりそうだと思って家を出た。新国立劇場は賑わっていて、和装や特別な敬意を表した衣装を着た人も多いが、失礼のない程度の軽装の人もいる。人生のシチュエーションの中で出来る範囲の努力で気持ちを示せばいいのだろう。

 私は水とパンフレットを購入し席に着いた。あらすじなどは把握しているが、パンフレットを読んでおくことである程度の心構えができる。そこで、このオペラはメリザンドの夢であると設定されていることを知った。今回、そのように設定されたのだ。オペラの悲劇はメリザンドの夢想であり、なんらかの夢おちがあると予想できる。

 さて、オペラは始まり、まったく驚いた。これまでには見たことがない。オペラフリークの方ならそんなものは当たり前と仰るのかもしれないが、衣装に関して驚くべきことが起きたのだ。まだ開催中なので具体的に書くことを控えるが、私はまだまだ世界を知らないと確信した。朝からオペラに向かう為には何を着るべきかが問題だったのだが、悩む過程が大事であると悟ったのである。

草々

(米田素子)

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