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five minutes to tomorrow

真夜中の5分前

上海で撮影された日中合作映画で日本へは凱旋上映で2014年12月27日とその年の暮れに封切りされた行定勲監督の10年間に渡る紆余曲折に依って出来上がった作品だ。

昨夜初めて視聴をして一晩置いて三回観た。一度目は純粋に作品の世界観に浸った。二度目は少しそれぞれの登場人物の気持ちを想像しながら、三度目は何度も戻しながら確認してヒロインの気持ちになって考えてみた。

最初の感想は「なんて美しい映画なんだ」という感動。映像と音楽の奏でる世界観に引き込まれた。

とりわけ時計店の場面の美しさとゆっくりした時間の流れを感じさせる雰囲気は見ていてため息が出る程だった。その中で寡黙に時計を修理する良は自然にそこに存在した。ただ毎日同じ事の繰り返しの生活を送りながら異国に住み込みで働く青年として …
そんなある日、出逢った美しい女性とのラブストーリーが始まるのかと思わせながらミステリーの世界へと誘われる。双子のルオランとルーメイ。一卵性双生児ゆえの逸話にサスペンスの要素が仕込まれている。それが物語全般を支える要として混在する。

前半では似ていて否なる双子がリー・シーシーにより個性を持って表現されている。それが多分ルーメイのイタズラ心により引き起こされた1つ目の歯車のズレ。良の存在によりルオランと同じ髪型にする事でいつものように楽しもうとするルーメイ。その為に勘違いをした婚約者に妹と間違えられて、彼女(ルーメイ)へのプレゼントのワンピースを受け取ってしまう。そして遠いアフリカのモーリシャスへと旅行に出掛けた姉妹に待ち受ける運命のいたずら。その運命は必然だったのか偶然だったのか?


双子の姉妹として常にお互いを感じながら成長してきたふたり。一卵性であるが故に親でさえ見分けも付かない入れ替わりで同じ経験を同時にする事でお互いの記憶の混在に苛立ちを隠せない姉のルオラン。自分の好きなものを全て奪っていくと感じている姉と何でも持っている姉が羨ましい妹。この記憶や体験はわたしなのに…自分だと言う妹に苛まれながら疎ましさを隠せない。孤独な心が引き寄せる恋は運命の事故に引き裂かれてしまう。

どちらが生き残ったのか分からなかった二人の男たちは病院で心配そうに生死の境にいる彼女を見つめている。やがて目を覚ました彼女が手を伸ばしたのはティエルンだった。良に再び何の変哲もない毎日が戻ってきた。戻ってきた彼女は別人だという疑念に憑りつかれた夫は妻の言葉に耳を貸さないばかりか、恋人に見分けさせようと良を呼び出して再会させる。恋人は死んでしまったと諦めた男には余りにも酷な仕打ちである。微かな期待と共に逢った良が導き出した答えはルーメイ。どちらとも取れる小物が仕掛けられていたけれどその意味を知る良にとっては、もしも彼女がルオランだったとしてもその時計の指し示す時刻が全てだった。だからこその階段の踊り場でのやり取りなのだ。それでも納得の出来ない夫は出て行き、ひとつの愛が終わる。すがるように良のもとに身を寄せて心の傷を癒すルーメイ。まるでルオランとの日々をやり直すようにくり返す見覚えのある日常に錯覚さえ覚えている良。そんなある日時計店の店主の老人が落とした詩集に我に還ったのか良のもとを去ってしまう。

事故の後の彼女は姉妹のどちらでもない女性に見えた。片割れを失った事でルオランでもルーメイのそのどちらでも無くなってしまったのだと思う。互いが居たからこそルオランでありルーメイであったと、独りになって気付いたのだろう。自分を見失ったことで別人と化してしまったのではないかと感じた。いわゆる第三の人格ではないのだろうか?自信に満ち溢れたルーメイでもどこか一歩引いた感じのルオランでも無い不安に苛まれた悲しげな表情が切なかった。本当に愛していたのは誰なのか?愛が必要だったのは本当は姉妹の間では無かったのか?異性との愛よりも姉妹としての不確かな愛情の疑念が招いた不幸なのか…家族なのに妹として愛せない姉。

最後に教会でロザリオを戻す彼女は本当はどちらだったのか?記憶の入れ替わりによる誤認なのか?意志を持って成り替わっているのか?
なぜ良に貰った時計を返しに行ったのか…
もしかしたら彼女は事故の直後は本当に自分はルーメイだと信じていたルオランだったのか?偽っていたのでは無くて、そう思い込もうとする深層意識がそう思い込ませたのか…良と過ごすうちに自分を取り戻したのか?罪悪感から彼のもとを去る事を選んだのか…愛ゆえに混沌とするミステリーだった。


春馬くん演じる良の過去。
短いやり取りで説明される。その過去は異国に来てからの出会いなのか…異国へ来る前の悲しい出来事なのか…なぜか気になった。5分遅れの現実に神さまのバチが当たった?当たったのは彼女だったのか…彼の方だったのか?何気ない会話に引っ掛からされる。彼にとっての5分は取り返しの付かない時間だったから。この異国の地で愛を見付けることはできるのだろうか…時計修理という仕事は過去と現実を繋ぐ仕事なのだろうか?と思ってしまった。
真夜中…深夜0時の意味するところ。昨日と今日の間なのか…今日と明日の間なのか…見る人にとってどちらと取るのか?全てが委ねられている。



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かずっち
拙い文章への共感やサポートありがとうございますm(_ _)m