エンターテイメント〜極上の娯楽の目指すところ…
昨年、新型コロナウィルスの感染拡大による「緊急事態宣言」を受けて中止を余儀なくされたミュージカル『アニー』が1年後にまたもや公演延期の影響を受けることとなった。
2019年の10月に行われたオーディションにより選ばれた二人のアニー。オーディションの予定日が台風に当たるなどアクシデントの有ったことも去ることながら、この二人のアニーは奇しくも三度目の挑戦で見事主役を射止めたと言う。子役のオーディションには対象となる年齢が在るからエンドレスに挑戦出来るわけではない。昨年中止となってからは1年間本番に向けてレッスンを頑張って来たはずだ。今度こそ!と気持ちも盛り上げながらみんなで稽古に励んで来ただろう。正式な発表はされないらしいから分からないが、一部に言われているには4500倍の倍率を通り抜けて彼女たちはその頂点に選ばれたのだ。しかも一度公演中止を受けてから再び緊急事態宣言による上演中止は幼い心に暗い影を落としたことだろう。子どもたちの夏休みに合わせ公演が再開される方向で調整中だと発表されているが、無事に乗り切って上演されることを祈りたい。幼い孤児院の子どもたち役も居る。数年後の演劇界を担う役者が含まれているかもしれない。希望に満ちたその芽が摘み取られる事無く、伸び伸びと育ってくれる事を望んで止まない。
大きなオーディションを通ってプロジェクトに組み込まれる様な舞台だけでは無い。それ以外にも通常開幕されている舞台の子役たちも今回の緊急事態宣言による劇場閉鎖の余波を受けて中止や延期を決定したカンパニーに混じって小さな心を傷付けられている。上演を楽しみに待っていた家族や友だちの落胆に「頑張るから」と虚勢を張って人知れず泣いているかもしれない…この舞台を最後に学業に専念する事を決めた子どもたちが居たかもしれない。そんな子どもたちにとっての思い出の舞台が、もしかしたら失くなっているかも知れない。
舞台は毎日が本番でやり直しの効かない真剣勝負だ。その舞台で闘っているのは何も大人だけでは無い。年端もいかぬ幼子も居るのだ。演劇を含むエンターテイメントは確かに毎日の生活に欠かさざるものでは無いかもしれないけれど…日々の生活に潤いや励みを与えるエッセンスでは無いのだろうか?このドラマを毎日見る、この映画を観に行きたい、この舞台を楽しみに待っていた…と悦びや愉しみを与える事の出来るものだと思う。伝統芸能の歌舞伎や能、日本舞踊の世界に触れて磨かれる感性など、それでしか体験出来ない世界も在る。災害や疫病が流行り景気が悪くなる度に不要なモノ扱いを受けるエンターテイメント。今では余り見る事も稀になったけれど、子どもの頃はサーカスや手品ショーなどのイベントは特別なモノではなくて生活の中に密着した娯楽だった気がする。まさにチンドン屋のパレードは最たる物だろう。エンターテイメントと一緒にするな!と言われるかも知れないが、人々に娯楽を提供するのがエンターテイメントだと思っているので…観阿弥世阿弥や出雲阿国の頃から生活に根差した娯楽なのだと。今の時代になり、エンターテイメントが進化してその形は変わっているのかも知れないけれど…極上の娯楽を与えるのがエンターテイメント業界の使命なのだと感じる。
前述のミュージカル・アニーの舞台だが、急遽編成を替えて全ての子役たちが板に乗れる様に調整が行われたと聞きました。このような大人の配慮が後に子どもたちが大人になった時にきっと良い思い出となって残ってくれる。この先の再演に向けての希望に成ってくれるのだと思います。
私たち一人一人が立ち止まり考える事で子どもたちに残してあげられるものがあるはずです。
朝のワイドショーでこのニュースを耳にして、どうかコロナ禍で心まで荒んで終いません様にと願った朝でした。