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『コーダ あいのうた』の感想書く

あらすじ

豊かな自然に恵まれた海の町で暮らす高校生のルビーは、両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聴こえる。陽気で優しい家族のために、ルビーは幼い頃から“通訳”となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期、秘かに憧れるクラスメイトのマイルズと同じ合唱クラブを選択するルビー。すると、顧問の先生がルビーの歌の才能に気づき、都会の名門音楽大学の受験を強く勧める。だが、ルビーの歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず、家業の方が大事だと大反対。悩んだルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶと決めるが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は、意外な決意をし・・・。(公式サイトより)

https://gaga.ne.jp/coda/

はじめに

第94回アカデミー賞にて作品賞、助演男優賞、脚色賞を受賞したこの『コーダ あいのうた(CODA)』という作品。アカデミー賞受賞という事もあって日本でも4月から公開される劇場の数が一気に増えた。
今回はそれに便乗してこの作品を鑑賞したという訳である。(『ドライブ・マイ・カー』と同じ流れ。要するにミーハー。)

CODA

そもそもCODAが「CODA, Children of Deaf Adult/s」、つまりろう者、耳が聞こえない/聞こえにくい親を持つ子供の事を指す単語である(「deaf」で耳が不自由という意味)。実際主人公ルビーの家庭は、彼女を除く3人全員がろう者だった。
鑑賞後に調べて驚いたのだが、その3人共が実際に聴覚的な障害を持っているのだそう。

何度も名前を出してしまって申し訳ないのだが、『ドライブ・マイ・カー』という作品にもろう者が登場し、劇中で手話を操っていた。だが彼女は健聴者で、出演が決まってから頑張って手話を取得したのだそう。この点ではある種対照的と言えるだろうか。

ちょうどアカデミー賞受賞作品が発表された頃に「ろう者の役はろう者にやらせろ! ろう者の仕事を奪うな!」といった議論がなされていたのを見た記憶がある。個人的な感想を言えばこの話には賛成も反対もしかねるのだが、頭の片隅に置いておきたいテーマであるのは確かだ。

この作品で主人公の家族達が操っていたのはいわゆる「ネイティブな」手話である。それと見比べても『ドライブ・マイ・カー』での手話は決して見劣りしないものであった。それはもしかしたら自分が手話への理解が浅いせいもあるかもしれないが、きっと『ドライブ・マイ・カー』の女優さんは大変な努力で手話を練習したのだろうなと、このタイミングで感じさせられた。思わぬ収穫。

耳が聞こえないという事

この作品、単純なストーリー面で言えばそこまで特筆すべきものは無いと思う。家庭に悩みを持つ少女が、家族との絆を確かめ合い、恋もしながら夢に向かって一歩ずつ前進して行く。ある種定番のようなストーリー展開とも言える。(勿論そのストーリーに対して、どのように演技力や演出で色を付けていくかが勝負ではあるが)

となってくるとやはり「ろう者」というメインテーマに対してどこまで価値を見いだせるか、というのがこの作品のミソになってくるだろう。

キャスティングからも考えて、この作品がろう者に対して真摯に向き合っているという事は伝わってくる。
だがどうしても、健聴者とろう者の間には分かり合えない部分があると思う。実際自分も、ろう者の感じている世界というのがどういうものなのか、想像は出来ても真に理解することは出来ないだろう。

この作品では、我々が「耳が聞こえない」状況を体感するための仕掛けが施されていた。しかし、正直その演出は観る前から予想できるものであった。(ただ、予想していたにも関わらず、想像以上の静寂っぷりに怖くなってしまったのもまた事実である。自分にはその時、後ろの人の衣擦れの音が聞こえたのだが、実際はそれも聞こえないのだから)

ただその後、ルビーに父が「歌ってほしい」と言った場面でかなり心を揺さぶられた。自分の娘の歌が実は凄いものなのではないか、そう感じた父親が、自分にできる精一杯の方法でルビーの歌を感じようとする。その姿に感動した。
物語序盤からの伏線、空に広がる星空、車の荷台という舞台、そしてルビーの心を震わせる歌声。その全てが相まって、あのシーンは本当に素晴らしい物であった。

捉え方は人それぞれ

この作品から受け取るメッセージというのは、本当に人それぞれだと思う。扱うテーマがテーマだけに非常に重く捉える人もいれば、ルビー達家族の温かさに触れて笑顔になる人もいるだろう。自分はどちらかという後者側だ。

何と言ってもルビーの家族3人の人物設定が見事だったと思う。
豪快だけどちょっと保守的で、それでもいざという時にはしっかり立ち上がってくれるお父さん。
臆病で怖がりだけど、家族の事をしっかり考えているお母さん。
ヤリチンのお兄さん。(家族の大黒柱としての自覚を持っており、空回りはするけど頑張って行動していた。何より妹の人生のことをしっかりと考えてあげていた)

この3人が本当に魅力的だった。そして全員がルビーの事を大好きで、ルビーがそんな家族のために歌う姿にはどうしても感動させられてしまう。

先生も非常に魅力的だった。ボーイフレンドは……どうなんだろう、実際あまり長続きしなさそうな気もする。

テーマの話

この作品のテーマはCODAであり、それが主人公ルビーの足かせとなっていた。「耳が聞こえない」というある種分かりやすいテーマのせいで目を奪われがちだが、「親が子供の巣立ちの足を引っ張ってしまう」という事自体は、多くの家庭に見られる現象だと思う。実際ルビーのボーイフレンドであったマイルズも同じような問題を抱えていた。ただルビーが巣立ちできたのに対し、マイルズは羽ばたくことが出来なかったのだが。(それでもルビーと過ごすことである種の転換を迎えていたようには思う)

マイルズがルビーに「君の家族が羨ましい」という事を言っていた。確かに耳が聞こえないという問題はあるかもしれないが、それ以外はあまり文句の付け所も無い、素敵な家族だったように思える。(勿論ルビーとしては嫌な部分もあっただろうけど)

まとめ

確かに良い作品だったし、家族の絆という物に触れることが出来てほっこりした部分もある。ただ個人的には、めちゃめちゃ心に響いたかと言われると、そこまででも無い。本当に「ああ、いい作品だったな」くらいの感想。

ただ「CODA」というテーマがある程度のリアリティをもって描かれており、それについて考えることができたのは良かったなと思う。普段はどうしても、あまり触れることがないから。

ただ、良くも悪くもオーソドックスなホームドラマと言った所だろうか。ただ見て損をする作品では決して無いし、幸せな気持ちになれるのでオススメはできる。なんとなくだが、10年くらい経って改めて鑑賞したら、めちゃめちゃ感動しそうな気はする。

どうでもいいけど、ルビーの姿を見てなんとなくスーザン・ボイルを思い出した。

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