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奇跡と殺人が社交場にはある


あれはまだ俺が小学校低学年の頃だ


奇跡と殺人が社交場にはある。


兄達にまじり砂煙上げながら田舎の片隅の公民館の前の広場でサッカーをしていた

見知った顔の友達たち

いつもの広場

茹で上がりそうな夏も終わって秋に入った天気のいい日曜の昼下がり

俺達は子供なりに精一杯笑い合いながら小さなルールを作ってサッカーをしてた

この公民館前の広場にはサッカーゴールはひとつしかない、

あとは大きな木が1本とジーさんバーさんが人生の唯一の楽しみであり救いであるゲートボールをする時の休憩所があるだけだ

あっ、ジーさんバーさんにはあとラジオ体操があった

いったい人っていうのは何歳になったタイミングで朝早く起きて近所の広場に集まってラジオから流れる音に合わせて踊るコミュニティに参加するようになるんだろう

あそこは老人の社交場、ナンパ広場。


まぁそれは置いといて、とにかくゴールは1つしかなかった

ゴールが1つじゃサッカーなんてできやしないからもうひとつのゴールを作らなきゃいけない

誰が考え出したのかは忘れたけど
その老人達の社交場であり
ある意味では祭壇であり避難所であるゲートボール休憩所を俺達はゴールにしていた

老人の休憩所をゴールにするなんて危険だと思うかもしれないけどジーさんバーさんってのは不思議と朝早くしか生きてなくて夕方にはみんなどっかで死んでる

とにかく、俺達はサッカーゴール、大きな木、老人達の休憩所(サッカーゴール)、みたいな感じの広場で楽しくサッカーをしていた

これこそ子供のルールで作られた子供の社交場だ

みんなも経験あるかも知れないが友達の親父が仕事が暇だったのか休みだったのか知らないけどそんな子供の社交場に参加してくることがある

そんな乱入者が今回はウチの親父だ

親父は元プロボクサーで運動神経抜群。

そして何より負けず嫌い。

兄貴と将棋をする時は負けそうになると将棋盤をひっくり返したりするのが当たり前

もちろん子供の社交場でもそのスタンスは変わることなく徹底的に勝ちに来る

「と、とめろぉぉ!!」

「らむの親父をとめろおおお」

もちろん運動神経抜群、誰にも止められぬドリブル

そもそも小学生と大人じゃフィジカルが違いすぎてとても勝負にならない

それなのに親父はスライディングだ

子供っていうのはバカなもんでそんな大人の方が好きだ

子供達は囃し立てる

「らーむのおーやじ♪!さいーきょ!らーむのおやーじ!すごーーい♪」

親父はノリノリで踊るようにさらにドリフト

そして圧倒的運動神経とカラダのバネからでてくるシュート


ギュオオオオオ


その時の事を俺の友達達はシュートの残像がドラゴンに見えたという


ギュオオオオオ


老人達の休憩所目掛け一直線にうねる様な圧倒的シュートが差し込む



その時誰もが目を疑った


午前中しか生きていない生命体


老人。。。


誰が想像できただろうかゲートボール休憩所に杖をついたメガネのおばあちゃんがいたなんて。


親父のドラゴンがおばあちゃんのメガネを貫く


おばあちゃんのメガネは宙を舞う




ゴーーーーール!!!!




青ざめる俺達。

頼む、親父よなんとか言ってくれ、子供には乗り越えられぬこのプレッシャー、そして実行犯はあなただ

親父は唇を噛んで俺達の方を振り向いた


「お前達!!!謝れ!!!!」


最低だ!!!子供に擦り付けた!!!


不服だが反射的に仕方なく急いであやまる


「おばあさんごめんなさい!!!」


「イタァイ、、、もう、、、かえる、、」


バーさんはフラフラとした足取りで立ち上がり家の方向にむかって歩き出した
 

雲ひとつない秋空


あまりのボールの威力のせいなのか奇跡が起きた


なんと

ヨロヨロとバーさんは杖を付かずに自分の足で帰っていったのだ


俺達は唖然としながら車道を歩いて帰るバーさんの背中を見つめていた。。。


空っぽになった休憩所にはバーさんの杖とサッカーボールが転がっていた。


傾いた太陽が俺達の影を長く伸ばしその日は解散した


それから1週間。小さな街だからすぐ噂は流れる。



噂によるとバーさんは1週間後に死んだ

しかしその1週間、メガネも杖も付かなかったらい。

奇跡と殺人がいつでも社交場にはある

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