R6 予備試験再現答案 刑事訴訟法

予備試験再現答案 刑事訴訟法

設問1
1     甲が事件①の犯人であることを、事件②の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることはできるか。
2    
(1)     事件①は、場所や行為態様が類似しているから、事件②で甲が犯人であることを認定するための必要最小限度の証明力はあるといえ、自然的関連性は認められる。
(2)     もっとも、甲が事件①の犯人である事実は、裁判官の認定に不当な偏見を抱かせるものとして、法律的関連性を欠かないか。
ア     前科等によって推認される人の犯罪性向は、実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、裁判所が認定を誤る可能性が高い。また、前科等に踏み込んで争うことになり争点が拡散するおそれもある。よって、原則として法律的関連性を欠く。もっとも、上記弊害がない場合には、間接事実として用いることは許される。具体的には、客観的構成要件に争いがない場合の主観的構成要件要素の認定のためや犯人の同一性の認定のための間接事実とすることができると解する。そして、犯人の同一性の場合、①前科等の被疑者の事件が顕著な特徴を有しており、②被疑事実と相当程度類似している場合には、間接事実として用いることができる。
イ     本件において、事件①は、甲が、夜間に住宅街で人通りが少ない場所において、歩行者に車で衝突し、転倒したところに声をかけて歩み寄り、顔面を殴ってハンドバッグを奪うというものであるが、夜間に人通りの少ない場所で、歩行者を狙って強盗することは、強盗犯がよく行うものであるといえる。また、車で歩行者に衝突することも、ひったくり事案でよくみられるものである。よって、事件①は①顕著な特徴を有するとはいえない。もっとも、事件①と事件②は、被害者が女性と男性で異なること、声のかけ方も異なること、事件①では顔面を拳で殴っているが事件②はそれをしていない点で異なる点はある。しかし、両事件は、令和6年2月2日に行われ、場所は同じ市内の人通りの少ない住宅街であり、態様は背後から黒色の軽自動車で歩行者に衝突し、男性が歩行者に声をかけてバッグを取るという点で共通している。また、事件②の被害者は、50代男性であり、事件①の被害者は女性であることからすると、いずれも反抗されても対応できる力関係の者をねらった犯行であるといえる。さらに、事件①で甲がAの顔面を殴ったのは、Aが立ち上がろうとしたことに対応したのであって、事件②で殴らなかった理由はBが倒れたままであったからであると考えられ、偶然の事情にすぎない。声のかけ方もいずれも被害者を心配させて油断させる性質のものであり、共通しているといえる。よって、事件①は被疑事実である事件②と②相当程度類似しているといえる。とはいえ、①を満たさないから、間接事実として用いることはできない。実質的にみても、事件①と事件②は1時間の間隔があり、現場は、3キロメートルほど離れているから、その間に人通りの少ない住宅街で背後から黒色の軽自動車で歩行者に衝突することを実行した甲以外の者がいた可能性がある。そして、事件①は強盗犯ならば同じ犯行を行う可能性があること、事件②では軽自動車のナンバーを目視した者がいないことからすると、甲以外の者が事件②を起こした可能性は否定できず、反対仮説が成立する。そのため、甲が事件①の犯人である事実は、甲がまた同じような犯行を行ったのだろうという偏見によって、事件②の犯人性を認定する可能性が高く、裁判所が事実認定を誤る可能性が高い。
ウ     したがって、法律的関連性は否定される。
3     以上より、甲が事件①の犯人である事実を事件②の犯人が甲であることを推認させる間接事実として用いることはできない。
設問2
1     事件①で甲が金品奪取の目的を有していたことを、事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることはできるか。
2    
(1)     事件①は、上記の通り事件②と類似した事件であるから、甲が金品奪取目的を有していた事実を推認させる必要最小限度の証明力を有しているといえ、自然的関連性は認められる。
(2)     悪性格立証の弊害は上記設問1の2(2)アで述べた通りであり、同様の基準によって、法律的関連性の有無を判断する。
 本件において、たしかに、上記の通り、事件①は顕著な特徴がなく、①を満たさないから、原則として法律的関連性を欠くとも思える。しかし、事件①は、事件②と場所や行為態様の面で相当程度類似している。また、事件②は、セカンドバッグに手をかけたが手を奪ってはいない点で事件①と異なるが、これはXと目があったからに過ぎない。そして、甲が軽自動車をBに衝突させたことという客観的構成要件には争いがないから、事件②の車が甲以外の者による可能性も否定され、事件②で甲が軽自動車でBに衝突した事実が認定できる。そのため、事件②は、甲が軽自動車でBに衝突し、Bのバッグに手をかけたことまで認定でき、単なる交通事故であれば通常バッグに手を伸ばすことはないから、かかる事実によって甲が金品奪取目的を有していたことを強く推認させる。そうだとすると、事件①を事件②で甲が金品奪取目的を有していた事実の間接事実として用いたとしても、偏見によって事実認定を誤るおそれは小さいといえる。また、事件②は客観的構成要件に争いがないから、事件②を間接事実として用いたとしても、争点が拡散するおそれも小さい。
以上より、悪性格立証による弊害はないといえるから、法律的関連性が認められる。
3     以上より、事件①で甲が金品奪取目的を有していたことを事件②で甲が同目的を有していたことを推認させる間接事実として用いることができる。


合格発表前の感想
設問1
前科証拠ではなく類似事実の立証という問題は基本刑訴で一度目にしたことがありましたが、深くは勉強していませんでした。また、本問が併合審理なのか現場ではすぐに判断できず、そもそも見たことない場面の話だと思っていました。そして、事実からはどうやっても顕著な特徴とは言えないが、これで終わる問題なはずはない!と思い、みんなが書くであろう悪性格立証で使われる論証を書き、例外の可能性を悩みで見せようという決断をしました。そして悪性格立証の弊害は知っていたので、例外可能性として事実認定の考えを具体的に示し、なんとか逃げたつもりです。
設問2
主観的構成要件も悪性格立証の場面で認められることがあるという知識はありました。しかし、犯人性立証の場面しか解いたことがなく具体的に何が違うのかあまり理解していない状態でした。そのため、犯人性で使う顕著性などの規範に当てはめる謎なことをしています。ここでも、例外的に認められる可能性を示そうと思い事実認定の考えを基礎になんとか逃げようとしたつもりです。

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