「恋人ごっこ」をしよう。
「会って最後に話をしよう」
そう決めたのに、
君は未だにわたしと会ってくれる。
しようと言っていた話もなかなか最後まで出来ずにいる。
でもいいんだよね、本当はそんなの。
そんなのって言うのも良くないんだけどさ。
わたしは今の君との楽しい会う時間がなくならければ
別に全然いいんだよ、ほんとに。
君がわたしを恋愛的に
好きでいようとそうじゃなかろうと、
わたしと一緒にいて楽しいと思ってくれてるのなら
別にそれ以上はいらないんだよ。
2人でドライブへ行こうって話になって
君は晴れ男でわたしは雨女だから、
次に遊びに行く時の天気はどっちだろうねって賭けてみた。
負けた方が勝った方のお願いを一個聞くことになった。
会うのはまだ先なのに、
君はバイト中にお願い事を決めたって言うんだ。
なんならわたしがジャンケンで何を出すかも
ずっと考えていたって言うんだから可愛いよね。
「その会う日だけでいいんで付き合ってるみたいに接して欲しいです」
って言ってて、もっと可愛いなってなったよ。
「恋人ごっこだね、いいよ」と返すと、
「じゃあその日は1番初めにマカロニの恋人ごっこを聴きましょうね」
と、君は言った。
「恋人ごっこを聴くたびに、きっとわたしのことを思い出しちゃうね」
と言うと、君は「そう言うこと言うな」って
呆れたように言った。
まあ、色々あって遊びに行く約束は流れてしまったんだけど、
「恋人ごっこをする」だけが
わたしたちの中に残った。
付き合ってないけれど何時間も電話をしたりする。
それでも君と付き合わないのはなぜだろうと、
考えることが多くなった。
いつもなら好きと言われれば
すぐに付き合ったりするのにも関わらず
なぜこうも渋っている自分がいるのか。
大好きな元カレに会えなくなっちゃうからだと
ずっと思っていたけどどうも違うような気もする。
この間、わたしのバイト終わりに君から連絡が来たね。
「今飲んでるから一緒に飲みましょう!」
もうバイト先から離れて帰り道の途中と伝えると
君はすぐに電話をくれて、
わざわざわたしのところまで走ってきてくれたね。
電話越しに
「あ!見つけた止まって!」
と言われ、後ろを振り向くと、
とてつもない笑顔で走ってくる君がいた。
きっと君が犬だったらはちきれんばかりに
尻尾を振っていたんだろうなって、
そんな顔をしていた。
「今日はバイト混んじゃって時間内に終わらなかったよ」
ってわたしが言うと、ジッとこっちを見て
「お疲れ様です、今日も可愛いですね」
なんて、言うんだ。
「絶対話聞いてなかっただろ」
「聞いてましたよ!でも、一旦ぎゅーしてもいいですか?」
って聞くと同時に抱きついてくる君がいて。
君からはお酒とタバコの匂いがしたよ。
「めちゃくちゃ酔っ払ってるじゃん」
「ね、飲んじゃいました!手繋ぎます?
ゆぽさんもたくさん飲みますよね?ね?のもう!」
みたいな調子が続いて、
「荒手のナンパみたいで怖い」って言うと
「お姉さん可愛いから飲み行こうや!」
って前に立ちはだかって言うもんだから
なにやってんだよって2人で笑いながら飲み屋へ向かった。
結局飲んだあとはホテルへ行った。
いつも通りの流れだった。
いつもと違うのは手を繋いで向かったことくらいかな。
もうひとついつもと違うのは、
こういう風に飲めるのは
今日が最後になるかもしれないということだった。
君は4月に引っ越してしまうから、
週末はたまに帰ってくるとは言っていたけれど
今みたいに平日に気軽に飲みには行けなくなってしまう。
「最後だから、今日は名前で呼んでください」
いつも君のことは苗字で呼んでいたけれど、
「そうだね、恋人ごっこだもんね」
と、お互い呼び捨てで名前を呼び合った。
なんだかくすぐったい感じがした。
朝になり、
魔法が解けたみたいに2人はまた苗字で呼び合っていた。
服を着て、ソファーに寝転んでテレビを見た。
昨日の名前で呼び合って好きと伝え合った夜よりも、
2人でソファーに並んでテレビを見て、
他愛のない話で笑い合っている方が
恋人に近いような、そんな気がした。
「しばらく最後だから写真撮りたいです」
君のケータイでツーショットを撮った。
君はその写真をまじまじと見たあとに
「これは家宝にします」
と、真顔で言っていた。
なにをするんでもなにをしても大袈裟に捉える、
そんな君がたまらなく可愛いなと思った。
だから気付いた。
「あ、わたし、これを壊したくないんだ」
と。
元カレと違い、
「この関係を壊したくないから付き合わない」
ではなくて、
「いつまでも新鮮な気持ちでいられるのは、付き合っていないからだ」
と、思ってしまったのだ。
付き合ってしまえばきっと写真は増えるし、
増えると大事さが半減してしまうだろうし、
手を繋いだ時でさえドキドキすると言っていた君も
それが普通になってしまえばドキドキしなくなってしまう。
わたしは君の反応を見るのが好きだ。
ちょっとしたことでドキドキしていたり、
笑顔になったり、落ち込んでみたり。
付き合わない方が、
尚更よくそれが見える気がしてしまった。
もし君がもうドキドキしなくなってしまったとしたら
その時は恋人だと別れに繋がるけれど、
わたしたちは友達になれるからそれもまたいいよね。
君と一緒にいたら幸せそうだな、
楽しそうだなってすっごく思うんだよ。
でも、ごめんね、
付き合わずにここからそれをみさせてね。
4月から新しいところで大変だと思うけど、
君ならきっと頑張れるよ。
頑張るのが辛くなったらわたしでよければ
いつでも助けになるからね。
わたしのこと好きになってくれてありがとう。
君とは違う好きだったかもしれないけれど、
わたしも君のことが大好きだったよ。