
AIコード診断「CodeQUEST」10次元評価が導くLLMリファクタ術
ソフトウェア開発で避けて通れないのが、コードの可読性や保守性、セキュリティ対策などの「品質」問題です。コードレビューや静的解析ツールは頼りになる一方、定性的な要素はどうしても見落としがち。
そこで注目したいのが、LLMを使いコードを細かく査定・改善するフレームワーク「CodeQUEST」。今回ご紹介する「CodeQUEST」は、LLMを活用してコードを様々な角度から査定し、その結果をもとに自動で改修を繰り返していくというユニークなアプローチを実現したフレームワークです。
どのように仕組みが動き、なぜ効果があるのか、その仕組みと成果について解説します。
まえがき
コードを書くのは楽しい反面、「もっと分かりやすく書けたはず」という反省に悩むことも多いですよね。そこにLLMの力を組み合わせると、コードが自然に「いい状態」に近づいていくとしたら、とても魅力的です。
この「CodeQUEST」は、コードに潜む問題点を多方面から洗い出すだけでなく、自動的にリファクタリングを回し続け、結果を可視化できる点が特筆されます。この記事では、LLMを活用した「CodeQUEST」が描き出す新たなコード品質改善の可能性を探ります。

CodeQUESTとは何か
CodeQUESTは「Code Quality Understanding and Enhancement System Toolkit」の略称で、LLMの一種である「GPT-4o」を活用し、コード品質を多角的に評価・改善する仕組みです。ここでいうコード品質は、以下の10次元に及びます。
1. 可読性
2. 保守性
3. テスト容易性
4. 効率性
5. 堅牢性
6. セキュリティ
7. ドキュメント
8. モジュール性
9. スケーラビリティ
10. 移植性
これらの軸について、独自に定められた質問をLLM(GPT-4o)に投げて「True/False/該当なし」の判定を合計し、それを元に各次元で-5から+5のスコアを算出する流れになっています。
それを最終的に平均することで、コード全体がどの程度「良質」と言えるかを数値的に把握するのですね。この仕組みによって「読みやすいコードか」「変数名やコメントは一貫しているか」「セキュリティ上の脆弱性はありそうか」など、普段は人間のレビューアが気を配らなければならないポイントを網羅的にカバーできます。

EvaluatorとOptimizerの二つのパート
Evaluator:コード評価を担当
CodeQUESTはまず「Evaluator」というパートでコードを見ます。具体的には、10の次元それぞれについて五つずつ用意された質問(例えばセキュリティなら「このコードにパスワードや機密キーをベタ書きしていないか」など)をLLMに投げて、回答を-1(False)、0(該当なし)、1(True)というスコアに変換して集計します。
それにより「このコードは保守性3点、セキュリティ2点、効率性-1点…」といった形で評価可能になるわけです。さらに、Evaluatorが回答する際には簡潔な解説も添えられるため「効率性が-1点になったのはネストが深すぎるため」などの改善ヒントが得られます。
Optimizer:コードを自動的に改修
続いて「Optimizer」が、Evaluatorの示すフィードバックを読み取り、LLMに「ではこれを改善しよう」と指示を出します。するとGPT-4oは提示された欠点に合わせてコードを修正し、改善案を生成します。
たとえば「ネストが深くて読みづらい」と指摘された場合、関数分割や変数名の整理などを行い、新たに書き直したコードを出力してくれる仕組みです。このとき、元のコードだけでなく「スコアが低かった部分については特に重点的に改修を施す」という文脈が与えられます。
修正したコードが正しく動作するかどうかは人間がチェックしてもいいし、あるいはテストケースがあれば自動実行することも可能でしょう。エラーがなく、テストも通ったら、そのコードを再度Evaluatorにかけて評価し直します。
もしスコアが上がっていれば、その改修は有用だったと分かりますし、逆に下がっていれば「改修が逆効果だった」と判断できます。こうしたやり取りを最大5回など、あらかじめ決めた回数だけ繰り返して最終的に得られたコードを採用します。

実験での成果
論文では、PythonとJavaScript合計42個のコード例を用いて実験を行っています。元々そこそこ良質なコードが多いオープンソースライブラリから抜粋したものですが、一部はあえて手作業でコメントを削除したり、同じ関数を重複定義するなどして品質を下げ、改善の余地を作っているとのこと。
結果として、多くのコードが最終的に大幅な品質向上を果たし、10次元の合計を平均した最終スコアで「約52.6%の相対的改善」を実現したと報告されています。特に初回の改修サイクルで劇的にスコアが上がり、その後2回目、3回目と少しずつ微調整が進んでいくとのこと。
個々の次元を見てみると、可読性や保守性のような人間のレビューアが気付きやすい部分だけでなく、セキュリティ上の潜在的リスクなどもある程度は指摘できるようです。
また、コードに対してテストケースが用意されている場合、コードの挙動も維持しつつ改善を行えるため、LLMの幻覚や極端な書き換えを一定抑制できるメリットも期待されます。

既存ツールとの比較
この研究で注目すべきは、PylintやRadon、Banditといった、いわゆる静的解析ツールやリンターの測定値との相関もそこそこ得られている点です。
Pythonを対象にした場合ですが、例えばPylintはスタイル違反や未使用変数などを点数化する仕組みを持っており、Radonは保守性の指標を与えてくれます。さらにBanditはセキュリティ上の怪しいコードを検知します。
この3つのスコアを平均して「プロキシスコア」とした際、CodeQUESTでの評価スコアが向上しているサンプルほどプロキシスコアも上がる傾向がみられたとのことです。
つまり「LLMでの評価というのは曖昧じゃないか」という疑念がある一方で、一応既存の評価指標とも矛盾しない精度を発揮しているわけです。
ただし、「可読性」「ドキュメント」「スケーラビリティ」などの観点については、ツールでは捉えきれない柔らかい要素です。
その点、LLMが総合的にコメントを書き足したり、関数の粒度を調整したりなどの提案をしてくれるのは人間の視点にも近いですが、評価の主観性が完全に消えるわけではありません。

現状の制約や限界
コード品質の測定というのはそもそも非常に主観が入りやすい行為です。「この命名は不適切」と言われても、プロジェクトのスタイルガイド次第では問題にならない場合もあります。LLMもトレーニングデータの影響を受けるため、特定の分野や企業独自の基準にフィットするかどうかは未知数です。
さらにLLM特有の問題として、推論が確率的であるため、同じコードでも微妙に違う改修プランを出す可能性があります。実際の運用では、何度かやり取りをして「より安定した回答」を得る工夫も必要でしょう。
また、GPT-4oのようなモデルが過学習している分野や、まったく未知の技術領域のコードには、対応しきれない場合もあるかもしれません。そういった懸念から、このCodeQUESTはあくまで「総合的な補助ツール」という位置付けになるでしょう。

どう活用できるか
現場でこの仕組みを導入するとすれば、次のようなシナリオが想定できます。
プルリクエスト時の自動査定
プルリクが上がったらCodeQUESTを走らせ、各次元のスコアと簡易レポートを出力。クリティカルな指摘があれば自動改修を提案してくれるので、ヒューマンレビューを補佐できる。既存コードベースへの定期的レビュー
古いモジュールや長期間触れていないコードに対して、スケジュールを決めてCodeQUESTを実行。いきなり大規模な置き換えをするとリスクが高いので、少しずつスコアを見ながら改善を重ねていく。教育目的
新人プログラマに対して、例えば「保守性が低いと言われるのはなぜ?」といったフィードバックを実例付きで学べる。LLMの文章生成力により、解説が丁寧になりがちなので、学習の補助になるかもしれない。
いずれにしても、すべてを丸投げするのではなく、最終的には人間が判断する仕組みが望ましいでしょう。LLMが示す提案やスコアに矛盾や幻想が含まれることはあり得ますし、リファクタリングの意図が十分に読みきれないこともありますからね。

今後の展望
本研究ではPythonとJavaScriptを中心に検証が進められていますが、C#やJava、Go言語など他の主要な言語にも応用可能と思われます。柔軟性の高いLLMであれば、多言語にわたるベストプラクティスを吸収しているはずですから。
一方で、そのまま汎用適用できるかは不透明です。特定のフレームワーク特有のベストプラクティス(たとえばSpringの設定やASP.NETの習慣など)には訓練データが不足している可能性がありますので、その辺りに追随する研究も進むとさらに面白くなりそうです。
また、LLM単独での評価を補完する手段として、既存のルールベース解析ツールや実行時テストとの連携を深めることも期待できます。バグの発見だけでなく、アーキテクチャの設計上の勘所をどうやってチェックするかというテーマに発展すれば、ソフトウェア品質管理の大幅な効率化につながるかもしれません。

倫理面・配慮
CodeQUESTはあくまで「コードの品質向上」という目的で作られた仕組みです。ただ、一部のAIツールにおいては、誤った情報や不正確な修正提案によって、開発現場の混乱を招く恐れもあります。
また、セキュリティに関してLLMが「ここは問題ない」と結論づけたとしても、それを鵜呑みにすると危険です。必ずセキュリティ専門のレビューやテストを並行して行う必要があるでしょう。
倫理面としては、LLMが生成したコードが著作権やライセンスに抵触しないかに気を配る必要があります。今回の論文では主にオープンソースのサンプルコードを対象としているため、大きな問題にはなりにくいと思われますが、商用コードの場合は注意を要します。

全体の感想と考察
この研究の面白いところは、「定量化しづらいはずのコード品質を、LLMの知識を借りてスコア化し、そのスコアをトリガーに自動リファクタリングを何度も回す」という流れを形にしている点です。
実際にスコアが上昇し、静的解析ツールとも合致する成果は注目に値します。ただし、あくまで論文レベルの実験であり、プロダクションコードに直接適用するには、性能面やハルシネーション対策など課題も多いでしょう。
しかし、コードレビューを効率化したいという欲求はあらゆる企業に存在しますし、特にチーム規模が大きいほどコードレビューの属人化・負荷集中が問題化しがちです。その面倒な部分をAIに少しでも任せることができるならば、開発現場が大きく変わる可能性は十分にあります。
CodeQUESTに限らず、LLMを活用したコード分析の仕組みは確実に進化しつつあるので、近い将来には「AIが自動レビューを行い、開発者は最終確認をするだけ」といったスタイルが一層浸透するかもしれません。

あとがき
技術とアイデアが絶えず進化するソフトウェア開発の世界。品質改善はたとえ小さな一歩であっても、積み重なれば大きな成果に結びつきます。
コード品質の向上は地味な積み重ねですが、その効果は開発スピードやチームのストレス削減に大きく寄与します。LLMを使ったCodeQUESTの手法は、効率化だけでなく、プログラマに新たな視点を与えてくれそうです。
ただし、どんなに便利な技術でも無制限に信頼できるわけではありません。このフレームワークの可能性と限界を見極めつつ、チームのスキルとバランスを保ちながら使っていくことで、より合理的で継続的なコード品質管理を期待できるのではないでしょうか。
すべてを一足飛びに解決できるわけではないので、あくまで補助として賢く使うのが鍵。持続的な改善を目指す一助になれば幸いです。