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【タイプロ最終審査】アイドルは曲ごとに役に入る、木村拓哉の凄み

 「アイドルは、曲ごとに役に入ることが重要なんだよね」
木村拓哉がそう言ったとき、なんだか背筋が伸びるような気がした。

 その言葉が、これまで彼が何度もステージに立ち、何千回も歌い、何十年もアイドルであり続けた重みを持って響く。普通なら、歌は歌で、演技は演技で、区別して考えるものだと思う。でも彼にとっては違う。ひとつの曲が流れるたびに、新しい役を演じるように、その世界に入り込む。たった3分の楽曲の中で、誰かになりきり、歌詞の向こう側にいる誰かに届くようにする。

 それがどういうことなのか、想像してみる。
アイドルは、舞台に立つたびに“誰か”にならなければならない。恋に落ちる少年にもなるし、傷ついた男にもなるし、仲間と夢を追いかける青年にもなる。そして、曲が終わるたびに、それを脱ぎ捨て、また次の“誰か”になる。その繰り返し。普通の人なら、そんなことを続けていたら自分を見失ってしまいそうなのに、彼はそうやって「アイドル」であり続ける。

 それって、すごいことだ。
俳優が一本の映画やドラマに没頭するように、彼は一本の曲に没入する。でも映画と違うのは、同じ役を何度も繰り返すことはないということ。ライブごとに、その日のお客さん、その時の空気、その場の温度に合わせて、“役”を更新し続ける。演じるように歌い、歌うように生きる。そんなアイドルが、今どれだけいるだろうか。

 「アイドルは曲ごとに役に入る」
木村拓哉のその言葉が、あまりにも自然に聞こえるのは、彼がそれを何十年もやり続けてきたからだろう。真似しようと思ってできるものじゃない。ただ、その言葉を思い出すだけで、アイドルという存在の凄みを、改めて感じる。

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