『TQMの基本と進め方』を読んで
はじめに
私はソフトウェアテストのテストエンジニアですが、ソフトウェアだけじゃない品質管理の本を読んでみようと思いました。
いろいろと勉強になったので感想を書きます。
TQMとは
TQMとはTotal Quality Managementの略です。まず、2ページ目に「TQMとは」という定義が書かれています。そこでは
”TQM”とは、顧客の満足する品質を備えた品物やサービスを適時に適切な価格で提供できるように、全組織を効果的・効率的に運営し、組織目的の達成に貢献する体系的活動。
と書かれています。そして「品物やサービス」について以下のように解説しています。
3.「品質やサービス」:製品(完成品のみでなく部品や原材料を含む)やサービスとともに、システム、ソフトウェア、エネルギー、情報など顧客に提供されるすべてを含む。
そうです。ソフトウェアもTQMの対象です。
なのでソフトウェアのテストエンジニアもTQMの考え方を学んでみるべきではないかと思います。
この本の章
この本の章立ては以下のようになっています。
第1章 企業活動とTQM
第2章 TQMの全社的促進
第3章 経営戦略と方針管理・機能別管理
第4章 日常管理と社内標準化
第5章 顧客志向の品質保証活動
第6章 新事業・新製品開発の管理
第7章 原価管理・利益管理
第8章 生産量・サプライチェーンの管理
第9章 人材育成・QCサークル活動
第10章 QC的ものの見方・考え方
第11章 QC手法とその活用
第12章 これからのTQM
見て分かる通り、かなり広範な活動が想定されています。以下各章にどのようなことが書かれているかということと、個人の感想を簡単に書いていきます。
第1章 企業活動とTQM
TQMの定義やどのような活動を行っていくかが書かれています。製造業を中心に発展してきたTQMもソフトウェアの品質管理に従事する者にも学ぶべきことが多いとわかります。
第2章 TQMの全社的促進
TQMの推進は部分的活動ではなく全社を上げて進めて行くべきということが書かれています。この点についてはソフトウェアの品質管理についても全く同じことが言えると思います。QAエンジニアだけが品質に責任を持つわけではなくてチーム全体で品質向上のための取り組みをして行かないと行けないです。そのためのヒントになることもこの章にはいくつか書かれていると思います。
第3章 経営戦略と方針管理・機能別管理
TQMを効果的に推進していくためには精度の高い中長期経営計画を策定することが重要であると書かれています。ソフトウェアテストに従事するものとして、マネージャーレベルでも経営理念等について検討する機会は多くないのではないかと思います。ただ、たしかに品質向上のためのリソースを確保するためには経営レベルで目標設定してもらうことが良いとは思います。
第4章 日常管理と社内標準化
日常やるべきことの管理と社内標準化について書かれています。「異常処置と例外管理」や「変更管理と変更点管理」など、ソフトウェアの世界でも同じようなこと(インシデントレポートやリリースノート等)が行われていると思いますので参考になると思いました。
第5章 顧客志向の品質保証活動
この章で品質保証とは「顧客・社会のニーズを満たすことを確実にし、確認し、実証するために組織が行う体系的活動」と定義されています。御存知の通りソフトウェア品質の世界でも、品質とは?という問いに色々な答えがあります。ソフトウェア工学の専門家であるワインバーグの、「品質は誰かにとっての価値である」という定義に近いと思いました。
第6章 新事業・新製品開発の管理
新事業・新製品開発の管理の課題は
・お客様の要求(ニーズ)を製品・サービスのねらいに変換
・製品・サービスのねらいを確実に実現するプロセスの構築
であるとしています。ソフトウェア開発でも、ユーザーインタビューをしたり、トラッキングしたりしてお客さまがねらい通りソフトウェアを使っていただけてるか確認したりはしますが、どちらかというとプロダクトマネージャーのタスクでテストエンジニアのタスクという認識は薄いかもしれません。
第7章 原価管理・利益管理
原価管理して適正な利益を確保するということが書かれています。ソフトウェア開発には原価は観念しにくいですが、製造業でも機械に投資して自動化を進めるという部分ではソフトウェアでも共通するところだと思います。とは言え人件費の削減のための自動化はソフトウェアテストの世界ではアンチパターンではないかと思います。
第8章 生産量・サプライチェーンの管理
発注を受けてから生産量を決定するプロセス等の改善について書かれています。ソフトウェア開発では生産量についても観念しにくですが、無理やりこじ付ければアクセス数の増加してサーバーがダウンしないように増設したりということは似たようなところがあるかもしれません。とはいえ通常ではテストエンジニアの職務では無いとは思います。
第9章 人材育成・QCサークル活動
品質管理教育の重要性と進め方について書かれています。幹部の教育と現場の人材育成と両方進めなければなりません。また、QCサークル活動を展開することにより、日常的に改善が当たり前になる組織風土を醸成することが書かれています。ソフトウェア開発でも品質管理について幹部が学習する機会を設けることができたら良い方向に進んでいくのではないかと思います。
第10章 QC的ものの見方・考え方
QC的ものの見方・考え方について書かれています。
(1)品質第一
(2)顧客志向
(3)PDCAのサイクル
(4)事実にもとづく管理
(5)プロセス管理
(6)再発防止
(7)未然防止
(8)後工程はお客様
(9)重点指向
(10)標準化
ほとんどそのままソフトウェア開発の現場でも通用する考え方だと思います。(8)後工程はお客様というのは馴染みのない考え方かもしれませんが、次の工程の人が気持ちよく仕事ができるようにお客様だと考えて引き渡しましょうということです。
第11章 QC手法とその活用
QC手法の活用される場面の例と問題解決活動に有用なQC手法の表が書かれています。現状の把握に有用なのは管理図やグラフで、対案の立案に有用なのは系統図法やマトリックス図法ということが書かれています。残念ながらQC七つ道具や新QC七つ道具について紹介はされていましたが、例えば系統図法についての具体的な説明は本には書かれていませんでした。ソフトウェア開発でも、データを活用して何を改善したいかを明確にする必要があると思っています。グラフを示して、「だから〇〇をすべきなのだ」というのは飛躍があるのかもしれません。グラフでは現状を分析したに過ぎないので、対案を立案するにはまた別の手法が求められているのかもしれません。単にバグの件数が多いことをグラフで示して、テスターの人数を増やしましょうと言っても納得が行かないのはそういうことじゃないかと思います。テスターを増やすことがバグの減少につながることをもっと説明する必要があるということです。
第12章 これからのTQM
経営トップの品質への深い関与と品質担当役員(CQO)の権限強化ということと、AIやビックデータの活用等が書かれています。そもそもCQOというのは私は聞いたことはありませんでした。品質担当するものが役員に名を連ねるということは品質管理に従事している私としては夢のような話だと思いました。AIやビックデータを活用するのはソフトウェア開発でも当てはまる話だと思います。
まとめ
以上見たように、この本はソフトウェア開発のテストエンジニアも読んだほうが良い本だと思いました。上では説明しませんでしたが、企業の具体的な事例が紹介されていて、それも面白かったです。QC七つ道具等についてもう少し具体的な説明を知りたいので違う本も読んでみたいと思いました。
また、私はWeb系のソフトウェアテストをしているので、組み込み系のソフトウェアテストをしている方はまた違った見方をされるかもしれません。もしかしたらWeb系よりも製造業に近い部分が大きいのかもしれません。顧客からのフィードバック等はWeb系よりも受け取りにくいかもしれません。