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日本に単元株制度ができた経緯(「ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門」より)

 私が日本市場が嫌いな理由は

  • 単元株制度(全く意味が分からない!)

  • 株主優待(配当を現物支給ではなくお金で払え!自分の給料やボーナスがお金ではなく勤め先で作っている商品で渡されて嬉しいか?)

  • 値幅制限(光通信の20営業日連続ストップ安なんてのんきなことしないで1日でさっさと落とせ。インターネットバブルのとき、米国のADSLモデムを作っている会社の株価が1日で10倍になり、翌日には3分の1まで下がってSEC(米国証券取引委員会)が調査に乗り出したというニュースを見た。「仕手株ガー」とか「市場参加者の頭を冷やすための制度だー」とかいう前にSEC並みの仕事をしろ!)

の3つなのですが、金融ビッグバンなんて騒がれた頃に出版された「ゴミ投資家」シリーズの中で、なぜ日本で単元株制度ができた理由が書かれていたのを思い出し、古本を買いまくって探したところ「ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門」で見つけたのでざっくり引用します。

『ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門(初版は1999年5月5日)』30~35ページ

『ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門(初版は1999年5月5日)』30~35ページ

株主総会は民主主義ではない

 さて、ここでひとつ大事なことに触れておきましょう。

 株主総会が国会のような最高議決機関だとしても、両者にはその仕組みに、根本的な違いがあります。それはなにかというと、民主主義社会では「一人一票」によって国民の代表者である国会議員が選出されますが、株主総会では「一株一票」によって議決が行なわれるということです。より多くの「分け前(シェア)」を持つ者がより多く主張する権利を持つわけですから、これはこれで合理的な制度です。

 ところが、こうした原則がよくわかっていない日本では、1960年代に「一株株主運動」という不思議なことが起こりました。社会の改革(というか革命)を目指す人たちが、企業の株を1株ずつ買って大挙して株主総会に乗り込み、みんなで経営者を吊し上げるという、いわば総会屋のような運動です。
 もちろん、たった1株でも株主ですから、株主総会に出席することはできます。ところが、何十億株も発行されている株式のうちの1株ですから、この人たちの発言権も、何十億分の一しかありません。しかしこの「一株株主」たちは、株主総会において、大株主と対等の発言権を求めて大暴れしました。資本主義に対する、とてつもない誤解といわざるをえません。

 民主主義社会は「一人一票」が原則ですから、大金持ちも生活保護受給者も、政治的には対等な権利を持っています。一方、資本主義は「一株一票」ですから、大株主と一株株主では、その発言権に天国と地獄くらいの差があります。しかし、「民主主義は素晴らしい」と頭から信じ込んでいる人たちは、この違いをまったく理解できず、株主総会に「民主主義」のルールを求めて暴れまくったわけです。

 このことから、民主主義と資本主義は別のものである、という非常に重要なことがわかります。

 株主総会は一株一票が原則ですから、一株株主たちがいくら暴れても、そういう発言権のない人たちのことは無視して、さっさと議事を進めても何の問題もありません(総会屋に対しても同じことです)。ところが日本の企業には、「株主総会は平穏に終わらせなければならない」というこれまた不思議な決まり事があって、株主総会の議長である企業経営者は、資本主義のルールに則った議事運営をすることができませんでした。そこで株主総会を無事に終わらせるためだけに総務部の担当者を付け、総会屋対策と称してアンダーグラウンドな人たちに一生懸命お金を配ってきたわけです。日本企業の総会屋担当の悲喜劇についてはここでは詳しく述べませんが、つい数年前までは、こんな仕事が存在していることに誰一人疑問を持っていなかったわけですから、恐るべき社会といわざるをえません。これが、世界に冠たる「日本的経営」の本質だったわけです。

 さらに、日本の企業経営者のどうしようもないところは、自民党に泣きついて、貧乏な一株株主たちが株主総会にやって来られないように、「単位株」という制度を導入して、1,000株単位でなければ株が買えないようにしてしまったことです。株価1,000円の企業の株主になるためには、以前は1,000円あれば足りたのですが、単位株制になれば100万円(1,000株×1,000円)が必要ですから、さしもの「一株株主運動」も収束に向かわざるをえませんでした。こうして、日本の株式は欧米に比べて最低取得金額がきわめて高額になり、一般の個人投資家が気軽に購入できるようなものではなくなってしまったのです。

 最初にも述べたように、アメリカでは160ドル(約1万9,000円)もあれば、誰でもマイクロソフトの株主になることができます。ところが日本では、ソニーの株価は1万円前後ですから、1,000万円(1万円×1,000株)なければ株主になることはできません。さすがにこれではあまりにもひどいということで、取得単位は10分の1の100株に下げられましたが、それでも100万円(1万円×100株)近いお金が必要です。この160ドルと100万円の差に、日本とアメリカのどうしようもない違いが象徴されているのです。

 このように、日本の株式制度はもともと、意図的に一般の個人投資家を参入させないような仕組みにつくられています。それを今になって、企業経営者や証券業界の幹部や大蔵官僚がよってたかって「日本では個人投資家の育成が遅れている」などというのですから、気が狂ったとしか思えません。単位株のさらに10分の1で購入できる「ミニ株」などというものを泥縄式につくったりして、個人投資家を証券市場に招き入れ株価を上げようと躍起になっているようですが、自業自得とはこのことです。

 要するに、資本主義についての理解が根本的に間違っている人たちがやっていることですから、うまくいくわけがないのです。

株式会社の目的はひとつだけ

 株式会社の「主権者」が株主であるということはわかりました。では、その「主権者」は何を目的として行動し、会社に何を期待するのでしょう。

 これが国家であれば、主権者である国民が国家に望むことは多様です。ある人は国としての誇りを求めるかもしれないし、別の人は死ぬまで安楽に暮らせる福祉を望むかもしれません。それ以外にも、既得権を守るために強い規制を望む人もいれば、より大きな自由を要求する人もいるでしょう。こうした多様な主権者の利害を上手にまとめて国家を運営していくのが政治ですが、主権者が株主である場合、こうした面倒な利害の調整は必要ありません。それは、株主の目的がひとつしかないからです。

 その目的とは、株主がより多くの利益を得られるようにすること、これだけです。

 そういうと、株主のなかにもいろんな意見の持ち主がいるのではないか、と思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。なぜなら、「より多くの利益を得たい」と考えた人たちだけが、その会社に投資することによって株主になるからです。こういうのをトートロジー(同語反復)といいますが、要するに、「株主」と「利益」は1対1で対応しているわけです。

 馬券を買う人の目的は勝ち馬を当てて賞金を得ることでしょうし、パチンコをする人の目的はより多くの玉を出すことでしょう。それ以外の目的を持っている人はいっぱいいるでしょうが、そういう人は馬券を買ったりパチンコに行ったりはしません。同様に、「学校にいかない自由をよこせ」とか「マリファナを解放しろ」とか主張する人が、株主総会で自分の主張を展開することはありません(もちろん、マリファナ解放運動家の株主がいてもぜんぜんおかしくはありません。ただその場合でも、彼の株主としての目的は利益を得ることだということです)。

 さて、「主権者」である株主の目的がひとつであるとするならば、当然、会社の目的もひとつでなければなりません。それは、株主に利益をもたらすような経営をするということです。第一、株主には経営者の任免権がありますから、彼らの利益を損なうようなことをすれば、あっという間に首になってしまいます(アメリカではしょっちゅう起こっていることです)。

 株主に利益をもたらすような経営とは何かというと、ひとつはより多くの配当を出すこと、もうひとつは株価を上げることです。株式会社の企業活動というのは、要するに、このふたつのことを達成するために行なわれているわけです。

 ちょっと付け加えれば、企業経営者はべつに、このふたつを両立させる必要はありません。株価はパッとしないものの、毎年高い配当を出す会社があってもいいし(海外の鉱山会社などにこういう株があります)、配当は一切出さずに利益をすべて設備投資と研究開発費に注ぎ込んで業績を拡大させることで株価を上げていく会社があってもいいわけです(マイクロソフトなどのハイテク株は、基本的にこのパターンです)。

日本的システムの崩壊

 ところで、このように株式会社の目的は非常にシンプルなのですが、日本の場合、「系列による株式の持ち合い」という特殊な慣行が長く続けられてきたために、株主の利益を最大化させる経営が行なわれてきませんでした。「株式の持ち合い」というのは、要するに、銀行と融資先の企業が互いの株を持ち合ったり、元請け会社と下請け会社が互いの株を持ち合ったりすることで、この場合、株主の目的は、「利益の最大化」ではなくなってしまいます。

 株主である銀行の目的は融資先企業を実質支配することですし、メインバンクの株を保有する企業の目的は銀行から安定した低利の融資を受けることです。系列企業が互いの株式を持ち合うのは、仕事の受発注を保証し、利益を確保するためです。もちろん、自分たちが築き上げてきた「系列」という既得権維持システムに第三者を介入させないためにも、「系列」内で安定株主を確保しておくことは至上命題だったわけです。

 そのうえ日本では、大蔵省・通産省の主導による、「護送船団方式」という特殊な経済政策がとられました。これは、金融・建設自動車などのそれぞれの業界ごとに「業界団体」をつくり、この業界団体と監督官庁が逐一協議を行なって、業界全体に広く薄く利益が分配されるような仕組みをつくることで、「落ちこぼれをつくらずみんなで仲よく成長しましょう」という、きわめて日本的な理想の実現を目指すものでした。

 こうした「護送船団方式」のなかで、同時に、日本の大企業は「国営企業」としての面も併せ持つようになりました。それが、年功序列と終身雇用制による「社会秩序の維持」と「雇用の維持」です。こうして、つい最近まで日本は、欧米の資本主義経済では絶対にありえないはずの低失業率を実現していたわけです。これは要するに、本来であれば失業するはずの人たちを企業が「窓際社員」として雇用したり、本来なら不要な流通コストを消費者に支払わせることによって雇用を拡大したりするわけですから、国の福祉を企業や国民が肩代わりしているということになります。

 こうした実態をとらえ、アメリカの日本研究者たちは「こんなものが資本主義であろうはずはない」として、1980年代から「日本異質論」を唱え始めました。それに対して日本の知識人たちは、「これこそが日本的資本主義の神髄であり、欧米の資本主義を凌駕したもの」と豪語したものです。今から振り返れば、懐かしい時代です。

 正解はというと、やはり、「資本主義というのはひとつしかなかった」ということだと思います。私たちが「日本的資本主義」と考えていたものは、実は、資本主義の顔をした社会主義の一種であり、だからこそ、1989年のベルリンの壁崩壊から始まった社会主義の解体とともに、日本もまた没落していったわけです。

 冷戦のくびきから逃れた旧ソ連邦や東欧諸国は現在、社会主義から資本主義への移行に必死になって取り組んでいます。今の日本で進められている「ビッグバン」というのも、要するに同じことでしょう。あと半世紀もすれば、20世紀末というのは、歴史上もっとも短期間で成功した日本という社会主義国が、大きな挫折のあとに資本主義への方向転換を模索した時期として記録されるようになるかもしれません。

※ここまで

で、ついさっき見つけたX(Twitter)のポスト

 何年か前にソフトバンクの株主総会のインターネット中継で、質疑応答の一番最初に指名された学生らきし個人投資家(?)が「必ず成功するビジネスのアイデアを持ってきたので孫社長、ぜひ聞いてください!」と言って会場の空気を止めた(シラケさせた?)のを見たことあるけど、これはたぶん「進め!電波少年」よろしく孫正義が日本マクドナルドの藤田田(ふじたでん)にアポなし突撃した話を真似して行った行動だと思うのです(たぶん)。株主総会で飛び込み営業みたいなことをされても迷惑でしかないと思うのですが、株主になればそういうこともできると思いつくあたり、「世界で一番成功した社会主義国」と言われた日本ならではのワンシーンなのかもしれません。

 この『ゴミ投資家のためのインターネット株式投資入門』の初版は1999年5月5日なので約25年を過ぎてもこんな状態ですから、この間何していたんだよ、自分で自分の首を締めるようなことを続けてきたツケをまだしばらく支払い続けるんだろうなぁとしか言いようがないです。

 商品先物なんて自分たちで業界および市場を潰す行為を続けた結果いまの状況になっているわけですから、それと同じ道を歩むかもしれません。

 そういえば日本証券取引所だったと思うのですが、何年か前に今後のスケジュールとして「単元株の廃止」というのがあったように記憶しているのですが、いま日本証券取引所のページを見てもそのようなスケジュールや単元株の廃止といったものを見つけられませんでした。このまま腐ったままでいるのも一興かもしれません。代わりに「2018年10月1日、内国株式の売買単位が100株に統一されました!」と誇らしげに寝ぼけたことを言っていました。

おまけとして、日経新聞は2022年8月9日の社説として「1株から日本株を買える制度に改めよ」と書いてます。今頃豆腐の角に頭をぶつけてちょっとは正気になったのか?と思わざるを得ません。

まぁ、「ピーター・リンチの株で勝つ」の初版でこんなことをされるような市場ですから、本当にただの鉄火場なんだと思います。

「ピーター・リンチの株で勝つ」初版 あとがき

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