純金積立を勧めないたった1つの理由
純金積立、始めたいですか?
純金の価格、上がっていますもんね。
三菱マテリアルのWebページに1978年からの純金の価格(海外価格と国内小売価格)のチャートがありますが、国内小売価格はITバブルが崩壊した2000年頃を底にほぼ右肩上がりです。
少額から始められますし、株や債券以外にも投資先を分散したくなる気持ちも分かります。でも純金積立、プラチナ積立をやったことのある私としては、純金積立、プラチナ積立はお勧めできません。
純金の価格の見通しが悪いから?
違います。
理由は簡単で、売って利益が出たときの税金の計算を全部自分でやらなくてはならなくて、無茶苦茶大変だからです。
株なら特定口座にしておけば、税金の計算は全て証券会社がやってくれます(源泉のありなしはいつ税金を納めるかの話なのでここでは無視します)。
しかし純金積立の場合、純金積立に関する全ての計算を自分で行い、税額を確定し、申告しなければなりません。
これだけではイマイチどのくらい面倒くさいか分かりづらいと思いますので、私が経験したことをお話しします。
ITバブルの頃、今は休刊している「あるじゃん」という投資初心者向けというより、クレジットカードの還元率から判断してどのカードがいいとか、郵便貯金の裏技(無リスクで普通預金より金利が200倍。知りたい方はぐぐってください)といった、家計を預かっている人が株とか怖くて手を出せないけどリスクがほとんどなくて普通よりちょっとお金が増えるといった小銭稼ぎみたいな感じの雑誌があったのですが、この雑誌でちょくちょく純金積立の広告が多く載ることがありました。
ちょっと興味を持ち、純金積立をやっている業者を調べて一番手数料が安いところを探したところ、三菱商事が一番安いことが分かり、三菱商事で純金積立を始めました(三菱商事はその後純金積立事業から撤退し、田中貴金属へ事業譲渡し、私の純金積立も田中貴金属で続けました)。
1998年4月から始めたのですが、その頃の国内小売価格は下落中で、しばらくしたら1グラム1,000円を切りました。下落中に積立をしているのですから当然損しています。その頃の損失額は13万円くらいだったように思います。なんてもん始めてしまったんだという後悔の気持ちと、金を安く買える絶好の場面だというハイな気持ちの間をあっちふらふら、こっちふらふらしていたのですが、金が安く買えるぞ、テレビに出てくる台形の形をした金の延べ棒(インゴット)への道のりが短くなるぞ、の気持ちが勝ち、純金積立を続けることにしました。台形の形をした金の延べ棒が12.5キログラムくらいあることを知らずに。
純金積立は投資信託の積立と同じく毎月決まった額を投資しますが、違うのは1ヶ月に何回投資するか。]
例えば毎月1万円投資するとしましょう。
投資信託の場合は毎月決まった日に1万円を投資しますが、純金積立の場合、1ヶ月の営業日(簡単に言ったら平日)が20日あったら1万円を20で割った500円を毎日投資していきます。月曜日に500円、火曜日に500円、と。で、1ヶ月で合計1万円の投資となります。
1ヶ月に1万円を1回より毎日500円ずつの方が分散されていいんじゃない?と思うかもしれませんが、これが面倒くささの元。
先にも書きましたように、純金積立で利益が出た場合、確定申告して税金を納めなければいけません。その計算は自分でやらなければなりません。
毎日500円と少額ながらも投資をしていれば、純金積立で取得した純金の平均取得価額を計算するとき、毎日いくらで何グラム買ったかの記録がなければなりません。
今はどうか分かりませんが、当時は半年に1回、○月に何グラム、△月に何グラム購入したという紙が送られてくるくらいで、何月何日に何グラムといった情報まで載っていたかはちょっと覚えていません。仮に○月○日は何グラム、○月△日は何グラムという情報が載っていれば必ず大事に保管しなければいけません。税金の計算ができなくなりますから。
純金積立の業者のWebページにアクセスすれば何月何日は何グラムといった情報は見られましたが、CSVファイルとしてダウンロードできなかったので、Webブラウザに表示されているデータをExcelに月ごとにコピペしていく必要があります。これはこれで大変です。
そんなことを知らずに純金積立をしてたのですが、あるとき、純金積立の年平均リターンを求めたところ、株への投資よりリターンが低いことが分かり、まず積立そのものもを停止し、積立が止まってから2017年に全部売却し、純金積立をやめました。この段階で純金積立の平均取得価額は自分で計算しなければいけないことを知りました。
書類なり業者のWebページからデータを取ったりしてなんとかしましたが(三菱商事から田中貴金属に変わっても三菱商事のときのデータも取れたような気がします)、とにかく情報収集が大変かつ面倒です。なんとか情報をかき集めたら今度は平均取得価額を計算し、さらに今度は保有期間が5年以内と5年超に分けて課税所得額を求めます。
株式の一般口座で売買を頻繁に行ったときの税金の計算をしたことがある方ならどれだけ大変か想像がつくかと思いますが、純金積立は長期でやると思うので(私は1998年から2017年までやっていました)、それ以上の大変さがあります。
何年か前に一斉に証券会社が純金積立を勧めてきたことがありましたが、税金の計算は顧客がやるんだよ、というコトには一切触れられていませんでした。今、某証券会社の純金積立のWebページを見ましたが、やはり税金の計算は証券会社がやりますよとは書かれていませんし、顧客が自分でやらなければいけないということも書かれていません。
平均取得価額が分からない!という場合は、売却収入の5%を取得価額とする特別ルールもありますが、これは非常に不利なルールです。例えば実際は50万円で取得して100万円で売却した場合、100万円-50万円=50万円が税金の対象になりますが、5%ルールを使うと100万円×5%=5万円が取得価額となり、100万円-5万円=95万円が税金の対象となり、圧倒的に不利です。5%ルールの方が有利になるには、売却価額が取得価額の20倍以上である必要があります。
この記事の最初の方で金の国内小売価格のグラフを紹介しましたが、一番安いときから見ても現在は9倍にしかなっていません。
5%ルールは最後の手段とするべきでしょう。
以上が純金積立を勧めない理由です。
それでも純金に投資したい人は
2つ方法があります。
1つは金地金(きんじがね)を買うこと。業者にもよりますが、5グラムから買うことが出来ます。ただし小さいサイズだと手数料が余分にかかることがあります(田中貴金属は500グラムより小さいサイズは別途手数料がかかります。ウィーン金貨ハーモニーやメイプルリーフ金貨も手数料がかかってて、金地金と金貨が同じグラム数でも1グラムあたりの価格は金貨の方が高いです)。
メリットは現物を持つことが出来ること。
デメリットは盗難リスクがあること。
貸金庫に預けるっていう方法もありますが、誰々が貸金庫を利用しているっていう情報は税務署に行くらしく、相続の時に何も悪いことをしてなくても痛くない腹を探られるなんてことを聞いたことがありますので、現物を持ったら持ったで苦労があります。
もう1つは金へ投資するETFを購入すること。これもいくつか種類があり、実際に金を購入しているものや、デリバティブを使って純金の価格に連動するようなものもあるようです。
メリットはETFなので特定口座で購入することができ、特定口座で購入すれば税金の計算を自分でしなくても済むこと。
デメリットは・・・何かあったような気がするのですが思い出せません。私の記憶に間違いがなければ、以下の本にその辺について詳しく書かれていますので、一読されるといいと思います(同じ著者の他の本だったらすみません)
まとめ
証券会社はリスク分散のために少し純金を含めてみましょう、なんて勧めてきますが、上記の理由から純金積立はお勧めできません。シーゲル博士の本に株や純金、債券、現金などのパフォーマンスが掲載されていますが、株に比べたら圧倒的に負けていますので、投資対象としても魅力があるとは思いません(ポートフォリオのリスクを下げるかもしれませんが)。
面倒な税金の計算ができる人で、純金に魅力を感じるという2つの条件を満たす人以外は避けた方がいいと思います。それが嫌なら金地金かETFです。