日経サイエンス 1991年11月号「コンピューター・ネットワーク」
Twitterに30年前のAT&Tが作ったTV CMが流れてきました。未来の世の中はこうなりますよ、といった内容なのですが、これをきっかけにふと思い出したのがこの日経サイエンス 1991年11月号「コンピューター・ネットワーク」です。
将来、コンピューター・ネットワークの世界になりますよ。その世界では世の中はこうなっているでしょう。またそれにはこういった課題がありますよ、といったことがいろいろと書かれていて、当時夢中になって何回も読みました。
今回、本棚から引っ張り出してきました。論文を全部掲載したいところですが、それはさすがにまずいと思いますので、タイトルと著者、序文の部分と本文の小見出しを掲載したいと思います。あとキーとなりそうな画像なんかも含めてみました。これだけでもどこが当たってて、どこがズレているかといったものがわかるかと思います。
現在、この本を入手するのは実質無理みたいなので、興味がわいた方は国立国会図書館へ行くなどしてみてください。
そういえば、Oracleに買収されたSun Microsystemsの標語が「The Network is The Computer(ネットワークがコンピューター)」だったんですよね。今でもSunのマシンはOracleから購入できるみたいですが、なんか残念です。
あとこの数年後には300万円ほどの貯金ができていたので、このとき誰かが耳元で「インターネットのルーターを作っている企業はCisco Systemsだよ」とささやいてくれれば、その後のITバブルで一財産築けたんですけど・・・。
成長するネットワークは社会に何をもたらすか
M. L. デルトゥゾー
コンピューター技術とコミュニケーション技術を融合すれば、社会を根底から変える情報インフラストラクチャーを構築できる。それは、農耕時代の農産物や工業時代の動力燃料のように、来るべき時代の基盤となるものである。
農耕時代は農作物とそれを食べる動物が、また、 工業時代はエンジンとそれを動かすための燃料が時代の基盤となってきた。 今私たちが築こうとしている情報時代は、コンピューターとそれらを結ぶコンピューターネットワークが時代の基盤となるであろう。
この特集号の著者たちは、生活を豊かなものにしてくれるであろう情報インフラストラクチャーに対して共通に楽観的なビジョンを抱いておりその情報インフラストラクチャーは人間をつまらない作業から解放し 生活、学習、 仕事の様式を改善し、個人あるいは社会に新しい自由をもたらすものであると考えている。
半世紀も前に最初のコンピューターがささやかなデビューを飾って以来、コンピューターが作り出すであろう不思議な新しい世界に対する意見、予測、予言は途絶えることがなかった。 しかし、なぜいまさらこのようなことを今回の特集号の中でとりあげたのか。 はたして何が新しいのだろうか。
生活様式が変わる
情報の役割とは何か
真の「情報員ストラクチャー」へ向けて
ネットワークに必要な条件①柔軟な情報伝送機構②共通のサービス
第3の条件:コミュニケーションのための共通の決まりごと
ノボットという試み
ネットワークの上に生まれつつある「情報マーケット」
ビジネスそのものが変わる
新しいサービスも登場する
教育:コンピューターが教師になる
情報インフラストラクチャーによって変わるものと変わらないもの
問題や欠点を認識しながら、新しい情報時代へ
新ネットワーク技術
V.G. サーフ
コンピューターアプリケーションの多様化にともない、コンピューター間の通信量はメガビット/秒のオーダーになってきた。これに対処するため、より高速で柔軟なハイウエーが求められている。
コンピューター間の通信速度は、数ビット/秒から数メガビット/秒まで広がってきた。一方、通信の利用形態も、単にホストコンピューターにアクセスする形態から、 複数のマシン間で並行的にデータをやりとりする分散処理形態へと変化してきた。
こうした要求を一手に引き受けるために各種のパケット交換ネットワークが開発され、 幅広く用いられている。伝送路も電気から光へと変革し、より高速のネットワークを目指した新技術の開発が進められている。
現在さまざまなネットワークが稼働中で、 世界最大規模のパケットネットワークである 「Internet 」 は 26カ国5000 以上の異種ネットワークを接続している。一方、映像、 音声、 データなどあらゆるメディアの情報を自由な速度で通信できる 「広帯域 ISDN」 が世界レベルで研究されている。
また、 情報化社会の進展とともに情報の安全性に対する危機感も高まり、「公開鍵暗号方式」という新しい暗号化・復号化方式が提案され、 “ディジタル署名” が登場してきている。
通信の基礎概念
パケット交換は回線交換よりコンピューター通信向き
パケット交換の課題
各種ネットワーク-初期のパケット交換システム
各種ネットワーク-光ファイバーを使ったシステム
各種ネットワーク-ディジタル無線ネットワーク
ネットワーク技術を階層的に系統化すると・・・
ネットワーク同士を結ぶインタネット
進化するネットワーク端末
L. G. テスラー
ネットワークにつながった携帯型コンピューターをもつことにより、2000年までに人々は電子秘書を手にすることになる。
ノート型パソコンやパームトップパソコン、電子手帳など、 今や人々はコンピューターを持ち歩く時代になった。これらのコンピューターを無線や赤外線でネットワークに接続できれば、私たちは各人が、 電子秘書をもつことになる。つまり、 外出先のどこからでも、いろいろな予約をとったり、 思い出したことの確認をしたり、 データベースにアクセスしたり、といったことを自由にできるようになる。さらには、グループの構成員がどこにいようと空いている時間に会議を行うことも可能になる。
しかし現在のマシンでは、いつも持ち歩くにはまだ重すぎるし、 電池の容量が小さすぎる。 この両方の問題を解決するためには、まず、 軽くてパワーのある電池を開発する必要がある。 その有望な候補にニッケル金属水素化物やリチウムなどを使ったものがある。一方、電力消費そのものを少なくする工夫も有効である。 コンピューターの電力消費を少なくる新しい方法としては、並列処理のために考案された「クロックを無くすことによって電力消費量の増大を抑える」 という方法も考えられる。
また入力方法としては、 屋外で手に持って使うこともあるので、両手が必要なキーボード入力ではなく、手書き入力や音声入力の実現がぜひとも必要になるだろう。
電子代理人の誕生
4つのパラダイムシフト
計算スピードの向上
ネットワークの構築
人々をつなぐグループウェア
ソフトをオンラインで売るようになる
携帯型コンピューターが端末になる条件
必要な手書き入力と音声入力
社会の平等のためになすべきこと
21世紀のコンピューター
M. ワイザー
未来のコンピューターは、私たちがその存在を意識しないような形で、生活の中にとけ込んでいくだろう。
1つの部屋に数百ものコンピューターがあって、それらがケーブルと無線の両方のネットワークで相互に接続されるだろう。
10年から20年先のコンピューターはどのようになるだろうか。 というより、どのようなものであるべきなのか現在のコンピューターのパラダイムを作ったゼロックス社パロアルト研究所で、筆者たちはこのテーマと取り組んできた。その中から、 「ユービキタス・コンピューティング」という新しい概念が生まれた。
これは、どこにでもあるコンピューターという意味で、現在のようにコンピューターが表に出ていて、 それだけで独自の世界を作っている姿とは違う。かつてのモーターが目の前から隠れてしまったように、コンピューターが背後に完全に隠されてしまうシステムなのである。 あくまで人間が主役なのだ。
このための具体的な研究もすでに始まっており、タブ、パッド、 ボードといったさまざまな大きさの端末が試作されている。これらは、 従来のメモ用紙、白紙便せん、 白板といったものを電子化したものだが、基本的な使い方は、現在のパソコンと違って、あくまでも紙と鉛筆による作業の延長線上にある。 違うのは、それらがネットワークで相互に接続されていることだ。
背後に隠されたコンピューターが相互に連絡をとりながら、あらゆる面で人間をサポートする。 それはあくまでも環境であって、人間はそれを意識することはないし、 システムが人間を強制することもない新しい世界だ。
新しい概念「どこにでもあるコンピューター」とは何か
システムを構成するハードウェア
タブ-基本要素となる端末
パッド-書類を作るように使う
ボード-共同作業の場
実現のための3つの技術課題①低消費電力のハードウェア
技術課題②ソフトウェア
技術課題③ネットワーク
21世紀の生活は・・・
健康的に付き合えるコンピューター
ネットワーク新時代の製品とサービス
N. P. ネグロポンテ
あなたは時間と場所の制約にうんざりしてはいないだろうか?
個人の要求を理解できるように賢く設計されたネットワーク製品は、その制約から解放してくれるだろう。
コンピューターネットワークは、将来さまざまなサービスを可能にしてくれる。 よく言われるように、 テレビ会議や在宅勤務が一般化すれば、時間のやりくりや移動のわずらわしさから人々は解放されるだろう。 だが製品化やサービスの早さでは、むしろ娯楽産業が先行する公算が大きい。そのための技術は整いつつある。 21世紀までにはDRAM チップの容量は現在の64 メガビットから1ギガビットになり、1本の映画がチップ5個に入るようになるという。
ネットワーク商品の最大の利点は、いつでもどこでも個人の目的に合った情報を提供できることだ。 ビデオショップに行かなくとも好みの映画が選べる、 買いたい商品の広告が見られる、新聞のなかから知りたい記事だけをピックアップできる、 今夜食べたいメニューを用意してくれるレストランが探せる。この状況は、情報を提供する側にとっても損になることはない。 求める人だけに情報を送れるということは、それに続いて商売が成立する可能性を確実に高めてくれるからだ。
こうした本格的なネットワーク時代を迎えるにあたっては、技術的な進歩と共に、これまでの常識や考え方を改めていく必要もある。 通信回線の高速化に頼るだけでなく、 接続される処理装置の能力を最大限に活用することが不可欠だ。
移動体通信は放送用電波、居間には光ケーブルで
新しいネットワークの最初のサービスはエンターテインメント
TVで映画リクエスト
リアルタイムホログラフィーは帯域幅の大食らい
オーダーメイドのネットワークサービス
あなた専用の新聞
ブロードキャスティングからブロードキャッチングへ
コンピューターインテリジェンスが重要
変わる労働環境
L. スプロウル/S. キースラー
電子的な会話は通常の会話とは大幅に違う。
その結果、 コンピューターネットワークは
組織構造や労働の形態に大きな影響を与えるだろう。
発達したコンピューターネットワークを持っている組織で働いている人達が世界的な規模の未来を経験しはじめた。彼らは、隣の人と話をするのと同じくらい容易に、世界中の人たちと会話できる。 会社の方針、 新製品のデザイン、雇用計画、 昨夜の野球の結果などについて、グループのメンバーに顔を合わすことなく討議に参加できる。
電子メールに転向した人達から「かたつむりメール」 と馬鹿にされている電話や郵便にくらべて、 コンピュータ一通信ははるかに速い。 地球の裏側に数分でメッセージを送れる。 個人にも多数にも送れる。 時間を止めることもできる。 記憶装置に永久に保存できる。メッセージは好きなときに読み、 複写し、変更し、回送できる。
会社経営者はネットワークの速さと効率の良さに魅力を感じるが、本質的に重要なのは社員の作業環境や能力への影響である。 新しい作業構造や関係の報告を管理するのにネットワークを使えば、ピラミッド型組織特有の伝統的な情報の流れは全く変わってしまう。
経営者や労働組織研究者は重要な疑問を抱く。 コンピューター経由だけの接触で密接な協力作業ができるか。 社員が遠隔通信、 遠隔会議、 電子グループ討論で意思疎通をしたとき、何が組織を一体化するのか。 ネットワークアクセスの制限をどこに設ければいいのか。将来の組織はどうなるのか。
社会的地位が反映されない
端末の前では正直になる
組織内弱者が活性化する
ネットワーク化組織の可能性
ネットワーク新時代の企業
T. W. マローン/J.F. ロッカート
コンピューターネットワークの進展により、市場はますます高能率化していく。
企業が生き残るためには、 組織構造と経営スタイルを大転換しなければならない。
現代の産業経済では、お互いの意志の疎通を図ったり商品やサービスを適時適所に配分したりする “調整活動”が仕事の大半を占め、 コンピューターネットワークを核とした情報技術は、調整活動を円滑に行ううえで必要不可欠となっている。
企業が情報技術を導入する当初の目的は、人間が行う調整活動を情報技術で置き換え、 仕事の効率化を図ることだった。しかし、 情報技術の導入によって調整需要が拡大し、 結果的には調整の仕事量が増大した。 ここ数年では、社内の関連部署や関連企業をネットワークで結び、 情報を幅広く共有して需要に即座に対応する 「調整集約的な構造」が企業内に出現してきた。
それにつれて、企業組織や経営スタイルが大きく変化するだろう。 まず、今日の慣習的なビジネス組織であるヒエラルキイ (階層構造)が崩れ去り、社内の上下関係や企業間の枠を越えて意志決定を図る 「アド・ホクラシー」型の構造が台頭してくるだろう。 一方、情報技術の進歩で調整コストが低減し、企業の市場への指向が強まるだろう。例えば、必要とする商品を自らが生産するより外部から買った方が、企業によっては競争力が高まる。
このほか、 ネットワークを通して「知的外国人傭兵」 部隊を一夜にして編成するといった意思決定構造が、新たに生まれてくるだろう。
情報技術の進歩がもたらす3つの波及効果
調整集約的な組織構造
市場が高能率化
組織は非ヒエラルキイ構造へ
意思決定権の中央集権化と分散化
応答ネットワークの需要が増加
社会構造を決めるものは最終的には人間の価値観
創造教育を手助けするコンピューター
A. C. ケイ
コンピューターやネットワークを適切に使えば
子供にとっても大人にとっても、学習はより効果的になる。
そのためには、生徒が「事実」について疑問をもち、
挑戦する気を起こさせるような教育環境が必要である。
著者たちは、コンピューターが学習にとってどのように役立つかを知るために、子供たちを対象にしたオープンスクール (入学は選考リストからくじ引きによって決められる)で、独自のカリキュラムによるプロジェクトを進めてきた。ここでは、子供たちがコンピューターを使って都市の設計をしたり、生きものの生態や行動を考えたりする。
しかし、それらはすべて体験学習を手助けするために行われるもので、コンピューターが先生に代わってカリキュラムをリードするわけではないし、精巧なシミュレーションを使って実践的な学習を省いてしまおうとしているわけでもない。 たとえば町づくりは、コンピューターの助けを借りて議論を重ね、 学校の庭に自分たちが設計した花壇や歩道をつくることで初めて学習成果が期待できる。 コンピューターを「学習増幅器」にして、 生物や環境が相互に作用する仕組みを学ぼうとしているのだ。
このようにコンピューターは、学習を深く広いものにし、学ぶ者に挑戦の意欲を引き出させる道具として有効に使える。これは大人にも当てはまることで、1つの結論や判断に対して、 賛否それぞれの根拠となるデータをいつでも即座にネットワークを通じて得ることができれば、 情報に対してつねに検証を行うという、 よい意味で懐疑的な精神を育むことができるだろう。
優れた教育環境のために何が必要か
コンピューターネットワークはメディアの持つ欠点を補えるか
コンピューター=学習のための増幅器
コンピューターでより広く深く学ぶ
メディアとしてのコンピューターの利点
コンピューター・ルネッサンスへの期待と危惧