6 使用人達の私生活 (4)
調理師―ポルカは45歳にして未だ独身である。
屋敷で住み込みで働いている為、どうしても外部との接触は少なくなる。
だがそんなポルカに、最近彼女ができたのである。
今までは仕事が終わると自室に戻り、ワインや外国酒の飲み比べをして楽しむのが常であったが、最近は彼女と電話で話をしながら、酒をちびちびと楽しむような生活へと一変している。
彼女と知り合ったのは、昔の調理師仲間と久々に行ったワンショットバーである。
ワインとチーズを注文して男2人で飲んでいたら、マスターが気を利かせて、友人と2人で来ていた彼女を紹介してくれたのだ。
彼女はこのバーの常連でもあり、この店に卸しているチーズ専門店の店員さんでもあった。
テーブルの上にあるチーズの話から、すっかり意気投合して4人で楽しい時間を過ごしたのだが、ポルカはちゃっかり彼女と連絡先を交換し、何度かデートを重ねるうちにお付き合いが始まった。
お互い舌には自信があるし、情報も沢山あったが、やはりベテランの調理師であるポルカの方が知識は豊富であった。
13歳の年齢差もあり、最初の頃こそポルカは遠慮がちに連絡を取っていたが、彼女は一向に気にならない様子で、それよりもポルカの経験値の高さに尊敬の念が増すばかりだったようだ。
彼女は次から次へと質問攻めで、ポルカを驚かせた。
ポルカも一端の男である。
得意分野の話を羨望の眼差しで見られれば、悪い気はしない。
この上ない優越感に浸り、話は悦の域に入り、更にそれが恋心に滑車をかける事態となるのであった。
ポルカも然り、今ではすっかり可愛い彼女に首ったけ状態である。
まだ本格的なお付き合いが始まってから2ヶ月なので、先の事は全くもって分からないが、本音を言えば年齢的にも身を固めたいお年頃だ。
このまま順調に話を進めていきたい気持ちは、本人のみならず、使用人仲間の切なる願いでもあった。
彼女と出会ってからのポルカといったら健気で、見守っている仲間たちの方が切ない気分にさせられるほどなのであった。
彼女の方も13歳下とはいえ、32歳という年齢である。
20代の女性とは一味も、二味もこのお付き合いに対する思いは違っているのは当然の事である。
この2人の恋の行方は、使用人仲間、更にはセル氏にとっても、実に興味をそそられる要素を含んでいるのであった。
バカンスだ。
次のバカンスの過ごし方が、大きな分岐点となるのは間違いない。
そう思えばそう思うほど、胃が痛くなるポルカなのであった。
使用人仲間たちは敢えて素知らぬ振りをしている。
しかし実のところ、それぞれが秘かにプレゼン出来る時様にプランを練っているのだ。
ファイト!!ポルカ!!
(6 使用人達の私生活 (5) へ続く)