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6 使用人達の私生活 (6)


執事―ロダンは、セル氏と同じく42歳であるが、未だ独身。
使用人の仲間内では、彼が結婚するという事はほぼ無いであろうと、専らの噂である。

いつそんな時間があるのかと不思議なのだが、音楽にしても読書にしても、それを趣味として誇っている人とも、対等に話が進められ、他のあらゆる専門分野に関しても、充分に精通した知識を併せ持っている。
所謂『博識』なのである。
かと言って、仕事人間であるとか、堅物であるといった印象は全く無く、とてもしなやかな物腰で、周りに威圧感を与えるような事は未だ嘗て無い。

強いて特徴を挙げるとすれば、物を多く持たず、部屋もスッキリと片付いており、身綺麗であるという事である。

ロダンの部屋は、兎に角、物が少ない。
これはただ単に少ないという事では無く、彼のその時その時の一番のお気に入りの物に囲まれて暮らしている、というのが一番適切な表現ではないだろうか。
別段ケチという訳でもないので、買いたい物があるのに我慢をして買わないなどという事は無い。
ただその選び方に、彼の特徴が如実に表れるのである。
そこには妥協という選択肢は全くない。
気に入った物と出逢えるまで、決して買わないというだけの事だ。

そしてある時突然目に飛び込んできて、心を奪われた物を、即決で買う。
この瞬間こそがロダンにとっての至福の時と言えよう。
透かさずそれを手に入れたと途端に、自室に持ち帰り、愛でながら過ごす時間は格別である。
音楽を流しながら眺めたり、読書をしながら気配を楽しんだり、お酒を飲みながら悦に入っていく。
そんな時間の過ごし方が、彼にとって何より贅沢である事を彼自身は知っているのだ。

だからこそ、もう必要が無いなとか、充分楽しませてもらってお役目を果たしてくれた物は、感謝をしながらお別れをする。
そんなささやかな儀式さえも大切にしている。
その繰り返しによって、その時の自分にとっての一番のお気に入りだけに囲まれた時を過ごす事に、喜びを見出しているのである。

そしてロダンのバカンスは、というと、他の使用人仲間たちも知らない。
ベールに包まれた様に過ごしては、バーンズ邸へと戻ってくるのであった。

いったい彼はどんなバカンスを過ごしているのだろう。


(7 セル氏の夕食 (1) へ続く)

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