【創作大賞2024 エッセイ部門】『喜』・『怒』・『哀』・『楽』を含めた全ての感情たち
『喜』
喜び。
高校生の頃、部活動の大会に向けてのレギュラーを取ることが出来た時。
私は人目も憚らず喜んだ。嬉しかったから。
でもそれを咎められた。
「ああいうのはあんまり良くないよ、レギュラーになれなかった子も居るんだから」
そんな事は解っていた。
それを言う前に、私がレギュラーになれないように、入ってはいけない応援団に知らない間に私の名前を勝手に登録した他の部員やクラスメート、訳も聞かずにそれを理由に殴った顧問は、何も咎められないのは何故なんだ。
一番信頼していた部員に咎められた時の悔しさ。
結局、この子もアイツらの仲間か。
それまでの人生の中でも喜ぶことを咎められてきていたから、なんてことはなかった。
その日から喜びの感情に蓋をした。
『怒』
怒り。
「あんたは気に入らない事があると、すぐ顔に出る」
母によく言われた言葉。
これは私が怒りを表面化する事を抑えさせるための言葉。
私が怒りを露わにすること。
それは母にとって都合の悪い事だった。
私が怒ると訳が解らなくなり、母がパニックになるから。
そうとも知らずにその時の私は、自分が悪いのだと、怒りの感情に蓋をした。
『哀』
哀しみ。
小学校に上がるか上がらないかの頃の夏。
兄弟と二人でお風呂に水を張ってもらい水遊びをしていた。
「キャッキャッ」言いながら。
台所を挟んだ部屋で昼寝をしていた両親。
突然父の足音がした。
(殴られる!)
咄嗟に兄弟を後ろに回して両手を広げた。
洗面器で頭の脳天を殴られ、洗面器が割れた。
父がいつものセリフを言った。
「声を出して泣くな」
母は眠ったままだった、いや、眠った振りをしたままだった。
でも本当の哀しみはその後、小学4年の春に起きた。
あまりの衝撃か口止めかで、40年以上もの間記憶から消されていた。
最近になって明らかになった真実。
父の母親と兄弟たちによる犯罪だった。
あの時に私の哀しみは完全に蓋がされた。
『楽』
楽しさ。
私がはにかんだ笑顔の写真を見て
「お前が笑った顔、気持ち悪いもんな。」父が言った。
写真と自分の笑った顔が嫌いになった。
漫画を読んでいたら突然それを取り上げて母が言った。
「誰がこんなもん見て良いって言った」
それ以来漫画が読めない。
高校生になった時、好きなアイドルのコンサートに行っても良いか聞いた。
「あんたがコンサート?浮くわ。」母に一蹴された。
それでも行きたかったから嘘をついて行った。
心は感動しているはずなのに、嘘をついた後ろめたさから楽しめない。
隣では一緒に行った同級生が楽しそうにはしゃいでいた。
(やっぱり私はこういう所に来ちゃいけないんだ)
私の中にあった楽しさに蓋をした。
人は『喜』『怒』『哀』『楽』という感情に蓋をすると
『無感動』を味わう仕組みとなっているようだ
「痛み」や「屈辱」さえも感じなくなる
20代後半から体が悲鳴を上げ始め
30を過ぎて心も壊れ始めた頃
遅ればせながら
喜怒哀楽の他にもいろんな感情があることを知った。
妬み
嫉み
劣等感
執着心
依存心
いろんな感情を容赦なくぶつけてくる同級生や同業者たち
そしてそれに加担する人々
最初はそれがなんであるのかさえ分からなかった
転校した初日に味わった『いじめ』の時と全く同じ
ここの土地の人たちはそんな事を大人になっても
飽きもせず続けているのだという事に呆れた
あまりの執拗さに疲れ果てた
そんな時に出逢うことができた
『神様からの贈り物』
兄弟夫婦の元に生まれてきた【天使たち】
その子たちがこの世に産み出された時に思った
ずっと不思議だった
「なんで私は生まれてきてしまったんだろう」
その答えがやっと判った
『この子達に出逢う為だったんだ』
その子達からいろいろな感情を教えてもらった
慈しみ
甘える
信じる
優しさ
思いやり
他にも沢山ある
数えきれないほどの感情
そしてその根底にあるのが
【無償の愛】
からくるものだという事を知った
私はこの【天使たち】を愛した
そしてこの【天使たち】も私を愛してくれた
【無償の愛】は
私に勇気を与えてくれた
そしてそれは平等に存在していいのだという事も
私は感情を味わい尽くすことを選んだ
「勇気をもって」
そしてこの大嫌いな環境から抜け出し、生きていこうと決めた
「勇気をもって」
それでも一足飛びにはそこへ辿り着けない事を知った
長年染み込んだ心の癖は
そう簡単には拭えない
それでも諦めずに居られるのは
「大丈夫!!人は皆平等なんだよ、幸せになって良いんだよ」という
【天使たち】からの無言のメッセージだった
無邪気な笑顔
空いていればすぐに繋いでくる小さな手
何の許可も無く占領してくる膝の上
恐怖心の欠片も無く全力疾走してダイブしてくるときの笑顔
【天使たち】はあの幼かった頃と変わらず
今ではすっかり大人びた顔の中に
あの幼かった頃の面影を隠し持っていて
私に気付かせてくれる
「嬉しかったら跳んで喜んで良いんだよ」
「腹が立ったら怒って良いんだよ」
「哀しかったら泣いて良いんだよ」
「楽しかったら思いっきり笑って良いんだよ」
【天使たち】は会えない時も
いつも私の心の大部分を占めている存在
あなたたちの存在のお陰で
幾多の試練を乗り越えることが出来ただろう
生きていてくれているだけで充分
私はあなたたちのお陰で
今もこうして生きていられるんだ
今は自分に対して
【無償の愛】を
与えられるかどうかの勉強中
これからまだどれほどの時間がかかるかなんて分からない
それでも
自分の感情には正直に
ひとつひとつの感情を拾い上げては
慈しみ
愛でて
味わっていこうと思う
不安があったって良い
自分の不甲斐なさにガッカリしたって良い
些細な事でこっそりガッツポーズを作ったっても良い
自分の飲みたいタイミングで飲みたいものを飲んで
「幸せ」と囁いても良い
そうこうしていくうちに
少しずつ
心の豊かさが増していくような気がして
私の中の心が様々な感情で埋め尽くされ、それが動くことを
感動と呼ぼう
そしてその感動を何度も何度も味わった時、
私の心は愛で溢れたと言えるだろう
自分に対して
【無償の愛】を
与えられたと断言することだろう
それこそが
豊かさなのではないだろうかと思う