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4 使用人達の時間割り (6)
家政婦―ミズリは一足早く午後5時に助手を見送り、残りの1時間を使用人ホールで過ごす事となる。
この時間は針仕事が殆どとなっているが、夕食の仕上げ段階に入っている、調理師―ポルカに向かって容赦無く話し掛ける。
話し掛けられるポルカも、こなれた手つきで作業をこなし、ミズリとの井戸端会議に華を咲かせることとなる。
午後6時になるのを待って、ミズリは屋敷から自宅へと帰宅するのであった。
セル氏の夕食は、おおよそ午後7時から8時の間で済まされる。
地下の厨房から裏階段を行き来して、スムーズに進められる夕食の時間は、ポルカとロダンの息の合った仕事から生まれる、小気味良い時間。
本人達は勿論だが、それに一番満足しているのは、何を隠そう主人のセル氏であった。
このような生活が出来ている今が、とても幸せな事であると、しみじみ心に染み入るのであった。
セル氏はこの後夜眠るまで、2階の仕事部屋で過ごす事が常であった。資料となる文献に目を通したり、読書をしたりしている。
夜外出をするなどという事は皆無であった為、運転手―ネルは夕食が始まるのを見届けると屋敷を後にし、家族が待つ元へと家路を急ぐのであった。
セル氏の食事中、ロダンはまた影武者のように後ろに控え、タイミングを見計らって食前酒、前菜からスープ、そしてメイン料理へと進め、料理人―ポルカはさげられた皿を次から次へと洗い、最後の食器を片付けると共に賄いを作り始める。
夜の賄いは、通常付き人ーイーリッヒとポルカ、そしてロダンの3人であるが、担当編集者―マカトが泊まり込みで居る時だけは4人分を手際良く作るのである。
ロダンが最後の食器とカトラリー、ナプキン等を入れたカゴを持って地下へ降りてくると、3人の夕食の時間となる。ほぼ8時半頃が相場となっている。
イーリッヒは夕食を済ませ食器を洗い終えると、屋根裏の自室へと一直線に戻っていく。
最近はいよいよ執筆作業を始めたようで、夜遅くまで明かりが消えない日が増えてきている。
ポルカも夕食の時にロダンが言っていた事を参考に、翌日の朝食の下ごしらえを軽く済ませると、屋根裏の自室へ戻る。
最近できた彼女と電話をしたり、電話をしたり、電話をしたり。
そう、ずっと電話をしているのだ。
ロダンの仕事だけはまだ終わらない。
終えるつもりがないと言った方がしっくりくるかもしれない。
いつ何時セル氏からの要望が来ようとも、応えられるような状態にしておきたいが故に、夜10時までは制服を脱ごうとはしない。
この時間を境におおよその予想もついてくるので、着替えても大丈夫だという判断がつくと、部屋着へと着替える。
セル氏が眠りに就いたことを確信すると、ようやくパジャマ姿となり、業務終了の時間となる。
(5 セル氏の仕事 (1) へ続く)