見出し画像

5 セル氏の仕事 (3)

編集担当者―マカトが一気に地下まで駆け下りていくと、2つのティーカップをのせたトレイを持ったロダンとばったり会った。

「マカトさん、こちらで飲まれますか?」と言い、使用人ホールのテーブルに目を移すロダンに、

「うん、久しぶりにここで寛がせてもらえるかい?どうもここは居心地が良すぎる。」

と言い、もう椅子にちゃっかり座っているマカト。

また吹き出しそうになるのを必死に抑え、ロダンは、

「勿論ですとも」

そう言いながら、1つのカップをテーブルのマカトの前に置き

「ごゆっくり」

と言い残し、仕事部屋のセル氏の元へと急いだ。

ロダンはセル氏を見るや否や、危険回避のためセル氏の椅子の脇にいつものテーブルを持っていき、その上にティーカップを乗せた。

「お気を付け下さい。」

とだけ小さな声で言い、その場を後にしたが、こういう時は決まってセル氏は何も目には入らず、耳にも届いていない。

いつものテーブルというのは、マホガニーでできた重厚感のあるテーブルなのだが、下にローラーが付いているおかげで、誤ってぶつかっても力が分散され飲み物がこぼれて書物を台無しにする心配のないものとなっている。
2階の床は全てクッション性のある絨毯張りで出来ている為、このテーブルとの相性は良好で、セル氏にとっては、お気に入りの家具の一つでもある。

ロダンが地下に戻っていくと、マカトはまだハーブティーを飲みながら寛いでいた。

調理人―ポルカが

「まかと、もう賄いの時間だよ、食べるだろ?その前にこの荷物を屋根裏に持っていくかい?よかったら手伝うぜ。」

と問うと、マカトは腕時計を見ながら、

「そっか、もうそんな時間だったんだね、いきなり来ちゃって申し訳ない。だけどここの賄いは一度たりとも逃したくない。是非お願いしたい!
荷物はーーー、後にしようかな?このすきっ腹じゃとてもじゃないここから屋根裏まではキツ過ぎる、うん!名案を思い付いた!!
手伝いはイーリッヒに頼んでみるよ。彼の事だ、張り切って請け負ってくれるだろう。なんてったって、この屋敷の中で一番の若者だからね」

と言って笑った。

ロダンとポルカも、運転手―ネルそして家政婦―ミズリも思わずつられて笑っていた。

使用人一同、マカトの人柄も才能も大いに認めていたので、頼もしい仲間の来訪は嬉しい出来事であった。


(5 セル氏の仕事 (4) へ続く)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?